【新型コロナ】「高齢の家族を抱きしめるのはお勧めしない」と専門家 ロックダウン解除後も制限続く英国

ロックダウンが解除されても、厳しい行動制限が続く見込みの英マンチェスターの様子(写真:ロイター/アフロ)

 日本ではこのところ新型コロナウイルスの感染者が急増し、危機感が高まっているようだ。

 欧州各国ではどこも感染の「第2波」拡大への対応に四苦八苦中だ。

 11月末時点で、英国の感染者は約150万人に達している。現在の日本の感染者数(約14万人)と比較すると10倍以上。しかも、英国の人口は日本の半分なのである。

 人口の5分の4が住む英イングランド地方では、11月5日から12月2日まで、ロックダウン状態となっている。不要不急の外出はしないようにと言われており、レストラン、パブなどの飲食業はテイクアウトのみ。美容院や百貨店など多くの小売店やスポーツクラブが閉鎖中だ。学校は開いているものの、仕事は自宅勤務が勧められている。自治政府があるほかの地方(スコットランド、北アイルランド、ウェールズ)もそれぞれ、ほぼ同様の活動制限を課してきた。

 3日からロックダウンは解除されるのだが、今度は感染の危険度によって地域ごとの規制となる。「あまり変わらない」、「どうして自分の住む地域により強い規制がかかるのか」など、不満の声が出ている。

 これまでの対応と現状を振り返ってみたい(11月24日、日本記者クラブでのオンライン講演向けの資料に補足しました)。

地域ごとにばらつき

 政府のウェブサイトから現状を示す画像を紹介したい。

英国全体の感染分布図(政府ウェブサイト)
英国全体の感染分布図(政府ウェブサイト)

 この感染分布図は10万人当たりで何人が感染したかを示す。色が濃くなるほど人数が多くなり、英中部(イングランド地方北部)やロンドン(南部)など、地域ごとに集中していることが分かる。

 イングランド地方のロックダウン解除後は、色が濃くなっている地域に厳しい行動制限が付くようになる。

感染拡大・死者数の2つのピーク

 4月以降の感染者数を見ると、2つの波があることが分かる。

 3月下旬、全国的なロックダウンとなり、これが解除されて、秋以降には次第に第2波の様相が出てきたので、各地方でミニ・ロックダウンが始まった。11月上旬から来月上旬まで、イングランド地方もこれに続いた。

感染数の2つのピーク(英政府ウェブサイト)
感染数の2つのピーク(英政府ウェブサイト)

 死者数のグラフを見ても、同じく2つの波になっていることが分かる。ただし、最初のピーク時からすると、今回は1日当たりの死者数がはるかに少ない。累計の死者数は約5万7000人(異なる数え方をする国家統計局の調べでは約6万7000人)。

死者数の2つのピーク(英政府ウェブサイト)
死者数の2つのピーク(英政府ウェブサイト)

検査は1日に50万強の実施が可能

 PCR検査は、これまでに3900万回実施されている(*日本記者クラブでの講演では、1つ桁を間違え、当時約3700万回を370万と話していたことをこの場を借りてお詫びしたい)。当初、検査体制が十分に整っておらず、検査対象者をかなり絞ったため、政府は大きな批判を浴びた。現在では、1日に50万回以上の検査が可能だという。

検査数(英政府ウェブサイト)
検査数(英政府ウェブサイト)

世界ランキングでは

 感染者が約150万人の英国は世界的に見るとどこの位置にいるのか。

 英タイムズ紙(11月23日付け)に掲載されていた、ランキングは以下のようであった。

 1日当たりの新規感染者数では世界第7位、死者数では欧州でトップになる。(数字データ自体は少し前のものになっていることをご了解いただきたい。)

世界的に見ると・・・(11月23日付タイムズ紙の紙面)(筆者撮影)
世界的に見ると・・・(11月23日付タイムズ紙の紙面)(筆者撮影)

これまでの対応

 コロナ感染が問題視され、ジョンソン首相が「今晩から劇場は閉鎖されます」とテレビ会見で述べたのが、3月中旬だった。突然の自粛要請である。同じ月の末には全国的ロックダウンとなった。

 しかし、感染者数・死者数の伸びが減速していったことや経済界からの要請もあって、5月から次第に制限令が解除され、6月中旬には小売店の大部分がビジネスを再開。7月には映画館や美術館が再オープンした(ただし、現在に至るまでも劇場はほとんど開いていない)。

 ロックダウンによる経済への悪影響を軽減するため、8月、政府は外食奨励キャンペーンを開始。月曜から水曜日まで、レストランやパブで食事をすると、半額になるサービスだった。政府がこの半額分を支払う。

 どのレストランがこのキャンペーンに参加しているかは、政府のウェブサイトに行って、自分の郵便番号を入れると、ずらりとリストが出てきて分かる。また、レストランの窓にもポスターが貼ってあることが多く、非常に分かりやすく使いやすいサービスであったことで、大盛況となった。

外食奨励キャンペーンのポスター(筆者撮影)
外食奨励キャンペーンのポスター(筆者撮影)

「みんなで乗り切ろう」というムードが醸成された

 3月のロックダウン開始時、「これは大変なことになった」、「困難な時を国民全員で乗り切ろう」という雰囲気が醸成された。国民が一丸となって、コロナ感染拡大を阻止する流れができた。

 そのための鍵となった項目を列記してみる。

 (1)政府が国営の「NHS(国民医療サービス)を守ろう」とアピール

 NHSは英国民が自負するサービスで、第2次世界大戦後に発足。貧富の差に関係なく、誰もが医療サービスを受けられる体制で、診察料は現在も原則無料だ。

 今年3月当時、イタリアでは感染者が急増し、医療体制の崩壊が危ぶまれていた。英政府としては、NHS体制を崩壊させないようにすることが大きな目標となった。そのためには、国民がロックダウンのルールを守り、感染しない・させないことが重要となった。

 (2)助け合い精神が活発化

 英国では通常からチャリティ精神が旺盛だが、今回の危機でさらにこれが活発化した。様々なチャリティ組織が高齢者やそのほか支援が必要な人を助けるようになり、無料で日用品を入手できる「フードバンク」が使いやすいようになった。近所同士の助け合いも深まった。筆者自身が隣人に買い物の手助けをしたり、一時トイレットペーパーが不足した際には友人がわざわざ郵送してくれたりということもあった。

 フードバンクが使いやすいようになった、というのは、例えばスーパーマーケットの近くに台が置かれ、そこに不要な品物を置けるようになっていた。筆者がよく行くスーパーの場合、通常から店内にフードバンクへの寄付用の箱が置かれているが、今は地元のチャリティ組織のスタッフによってスーパーの真向かいに台が置かれており、買い物後にここで寄付できる。スーパーの入り口にはポスターがあり、「今、野菜が不足している」などのメッセージが書かれている。そこで、このメッセージを見て、買い物をし、野菜などを台の上に置いておく。より効率的に必要な品物を集められる形である。

 (3)自分事になった

 政府閣僚が連日の記者会見で感染による死者数を発表する時、「これは単なる数字ではありません。一人一人の命が数字の背後にあります」と頻繁に繰り返した。

 同時に、医療関係者、医療現場、感染者、遺族などの状況が報道されることで、具体的な話として共有されるようになった。

 亡くなった方を追悼するサイトが複数でき(ガーディアン紙、BBC、セントポール大聖堂など)、「忘れない」という気持ちを国民が共有することにもなった。

新聞の「家にいよう」キャンペーン

 国民の一体感を築くために大きな役割を果たしたのが、メディアだった。

 新聞は政府から大型広告の受注を受け、ロックダウンによる行動制限を奨励するキャンペーンを行った。

 例えば、以下のような、通常の新聞をくるむ形で広告枠を作り、これに「家にいよう」というメッセージを付けた。

「家にいよう」のキャンペーン紙面(筆者撮影)
「家にいよう」のキャンペーン紙面(筆者撮影)
最初のロックダウンの際に「家にいよう」と呼び掛けた新聞紙面(筆者撮影)
最初のロックダウンの際に「家にいよう」と呼び掛けた新聞紙面(筆者撮影)

 国民は、この新聞広告の裏のページを切り取って、窓に貼った。虹のマークと「家にいよう」というメッセージを道行く人が見ることができた。

 虹のマークはNHSで働く医師、看護師や職員への感謝の念を示す。子供たちは虹のマークを絵にかいたり、飾りを作ったりした。

学校のゲートには虹のマークの飾りがあった(筆者撮影)
学校のゲートには虹のマークの飾りがあった(筆者撮影)

経済支援は

 ロックダウンやその後の活動規制で経済は大きな打撃を受けた。

 政府は、スナク財務相の下、様々な支援策を講じてきた。例えば企業向けには貸し付け支援、一時金提供、付加価値税の減額など。働く人には、会社が従業員の雇用を維持し、「一時解雇」とした場合、政府が給与の80%を負担して支払う制度を作った。後に、同様の仕組みをフリーランスも使えるようにした。病欠手当も拡充した。

 アート業界への財政支援を提供し(ただし、アート業界は全く不十分としている)、外食を奨励した(8月)。

 様々なコロナ関連支援策は、3月から年末までに2800億ポンド(39兆円)に達したという。

実質経済成長率が過去300年以上で最大の落ち込み

 しかし、政府がどれほど支援を提供しようと、経済が「焼け石に水」状態にあるのは確かだ。

 下院の報告書「コロナウイルス:経済のインパクト」によると、今年2月との比較でみた場合、「ホスピタリティ業界(宿泊・食品業界)」は4-5月時点でアウトプットが約90%減少。9月時点でもマイナス20%以上。芸術・娯楽業界も5月時点で40-50%下落。9月でもやはり20%以上マイナスだ。

 GDPの比較では、2月時点と比較して4月はマイナス25%。9月はマイナス8%。

 

 いったい、いつになったら好転するのか。イングランド中央銀行の予測(先のレポート)では、2019年末のレベルに戻るのは2022年の春以降。職を失った人、風前の灯の人にとってはとてつもなく遠い先の話だ。

 さらに、失業率は現在の約4%から4・8%に下落し、中国が今回のウイルスの発生国となったため、サプライチェーンに影響が出た。若者層の雇用が特に減少し、260万人が雇用関係の支援を申請している。

 

 スナク財務相が11月25日に発表した、来年度(2021年-22年)の歳出計画と現状分析によると、さらに暗い姿が浮かび上がる。

 

スナク財務相(財務省フリッカーより)
スナク財務相(財務省フリッカーより)

 議会演説の冒頭で「経済の緊急事態は始まったばかり」と述べた財務相は、英「予算局」(OBR)の分析を基に、今年の実質経済成長率がマイナス11.3%になると説明。これは過去300年以上で最大の落ち込みだという。

 政府債務はGDPの91.9%で、2025-6年度でも 97.5%に。失業率も来年第2四半期には7.5%に上昇してしまうという。まさに「緊急事態は始まったばかり」というしかない。

政府批判も

 ロックダウンや活動規制がまだ続く中、政府への批判が以前にもまして強くなっている。

 当初の批判の矛先は「最初のロックダウンの開始が遅れたこと」(経済活動の維持を優先したために、感染者・死者を増やしたという批判)、PCR検査体制の不備、感染を防ぐための防御セット(医療用マスク、メガネ、帽子、体を覆う衣類など)の不足、検査で陽性となった人とその周囲にいた人に隔離を求める「追跡ソフト」の失敗(相手に連絡がつく割合が低い、ついても隔離の指示に従わない)など。

 英インディペンデント紙はジョンソン政権が後手後手に回ったことを指摘した紙面(11月1日付)を作った。

ジョンソン首相の決断の遅さを指摘するインディペンデント紙(Redditサイトより)
ジョンソン首相の決断の遅さを指摘するインディペンデント紙(Redditサイトより)

 また、将来、調査委員会が発足した時に大きな責任を問われることになりそうなのが、「ケア施設問題」。

 先に、政府の最初のアピールが「NHSを守ろう」だったと書いたが、イングランド地方ではNHSのベッドをあけるため、軽症の患者をケア施設に移動させた(約2万5000人)。しかし、患者ら及び向かえ入れるケア施設の高齢者や働くスタッフにPCR検査は十分にされておらず、防御服のセットも満足には行き渡っていなかったと言われている。

 こうして、2万人近くのケア施設の高齢者及び職員らが亡くなってしまった。今英国全体の感染による死者は5万7000人だが、3万-4万人のときには全体の3分の2、あるいは半分がケア施設関連者であった。

参考:アムネスティ・インターナショナルの報告書「As if expendable」

現在の対策とクリスマス

 イングランド地方のロックダウンは来月解除されるが、政府にとって、当面の課題は、「家族が集まるクリスマスを国民に提供できるかどうか」。英国のクリスマスは日本のお正月にあたり、それぞれ家族と過ごすのが定番だ。普段は一緒に住んでいない家族が一堂に集まり、クリスマス料理を食べ、プレゼントを開ける時だ。

 そこで、中央政府の管轄となるイングランド地方、及びほかの自治政府が話し合いを行い、クリスマス当日前後の数日間は通常は同居していない複数の家族が集ってもよいことになった。家族同士が集まれば、互いの頬にキスしたり、抱きしめたりすることになるのは必須だ。

 しかし、「法律上許されるからと言って、抱きしめることはお勧めしない」が医学及び科学専門家の見方のようだ。

 26日に開催された記者会見で、主席医務官のクリス・ウィッティ氏はクリスマス時に「高齢の親族に会う時、抱きしめたり、キスをすることを勧めるかどうか?いや、お勧めしない・・・もしもう一度抱きしめるために生きていてほしいと願うのであれば」、と述べた。

 政府の首席科学顧問、パトリック・バランス氏は「通常のクリスマスのようにはならない」、もし普段は同居していない家族が集うのであれば「リスクを大きくしないようなやり方を取るべきだ」。

 会見場でバランス氏とウィッティ氏の間に立った格好の首相も「常識で行動してほしい」と述べた。「ワクチンが使えるようになるまでは、私たちはまだ森から出ていない。非常に慎重に行動していただきたい」。