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エンゼルスの大谷翔平が2度目の手術。トミー・ジョン手術ではなく、ショーヘイ・オータニ手術か。

谷口輝世子スポーツライター
(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 エンゼルスの大谷翔平選手が19日に右肘の手術を受けた。大谷は2018年にトミー・ジョン手術と呼ばれる右肘の側副靱帯再建術を受けており、今回の手術も前回と同じニール・エラトロッシュ氏が執刀した。

 エラトロッシュ氏は「ショーヘイと熟考した結果、今後も長い年数、肘を使えるようにするために、手の問題を修復して、生存可能な組織を足して、健康的な靭帯を強化することを最終的に決定した。私は完全なリカバリーを期待している。彼は制限なしに打てる状態で2024年の開幕戦を迎えることができ、2025年の開幕戦は二刀流で迎えることができると思っている」と声明を出した。

 大谷の受けた手術の術式は明らかになっていないが、これまで行われてきたトミー・ジョン手術と完全に同じものではないと見られている。インターナル・ブレースと呼ばれる人工靭帯を使っているかもしれないし、そうではない術式で行っている可能性もある。

 2021年9月に右肘を手術したツインズの前田健太投手は、トミー・ジョン手術とインターナル・ブレースを組み合わせた手術を行った。前田はこの手術を受けた日本人選手の第1号ではないかと言われているが、自身の受けた手術を振り返り「もう、普通のトミー・ジョン手術をする人はいなくなっていくと思う」と話した。

 トミー・ジョン手術はよく知られているようにフランク・ジョーブ博士によって考案されたもので、自身の体から腱を取り出し、上腕骨と尺骨に作った孔の中に通し、両端を引っ張った状態で固定するという移植手術だ。1974年に、最初にこの手術を受けたのがトミー・ジョン投手であったことから、トミー・ジョン手術と呼ばれることが多い。

 ヤンキースのチームドクターであるクリストファー・アマド氏によると、ジョーブ博士は手術の結果が完全に分かるまで、同じ術式の新たな手術を行わないことにしていた。トミー・ジョン投手が2年後の1976年に再びマウンドへ戻って復帰に成功すると、そこから、ジョーブ博士は靭帯を損傷した選手への手術を行うようになった。ジョーブ博士はこの手術を1986年の『The Journal of Bone and Joint Surgery』誌に発表し、積極的に他の整形外科医に教えた。

 アマド氏のブログには「ジョーブ博士はこの手術を『同側長掌筋腱移植を用いた肘尺側側副靭帯再建術』と呼んでいた。彼はこの言いにくい言葉を頻繁に使って説明を繰り返していたが、やがて単純化して、"トミー・ジョンに行った手術 "と言うようになった。そこからトミー・ジョン手術と呼ばれるようになった」とある。

 ジョーブ博士がスポーツ医学に与えた影響はとてつもなく大きい。また、前例のない手術を受けることを決断し、成功率は極めて小さいといわれていたなかで、全くの手探り状態で復帰までの道を歩んだトミー・ジョン投手の名前は決して忘れられることはない。トミー・ジョン手術という名前はスポーツ史と医学の歴史にしっかりと刻まれている。

 ジョーブ博士がトミー・ジョン投手の靭帯を再建した手術から49年が経過し、医学は進歩した。今では、トミー・ジョン手術と人工靭帯との組み合わせも出てきた。これまでのトミー・ジョン手術を土台にした新しい術式が主流になっていき、その術式は、トミー・ジョン手術という用語だけでは、正確に表せなくなってきている。

 今回の大谷の手術は恐らくこれまでのトミー・ジョン手術と呼ばれるものとは全く同じではないだろう。大谷が投手として復帰するであろう2025年までには、手術の詳しい内容が明らかになるかもしれない。大谷はその術式の第1号選手とは考えにくいが、舌を噛まずにわかりやすく説明するため、ショーヘイ・オータニ手術と呼ばれる可能性もあるのではないか。

スポーツライター

デイリースポーツ紙で日本のプロ野球を担当。98年から米国に拠点を移しメジャーリーグを担当。2001年からフリーランスのスポーツライターに。現地に住んでいるからこそ見えてくる米国のプロスポーツ、学生スポーツ、子どものスポーツ事情をお伝えします。著書『なぜ、子どものスポーツを見ていると力が入るのかーー米国発スポーツペアレンティングのすすめ 』(生活書院)『帝国化するメジャーリーグ』(明石書店)分担執筆『21世紀スポーツ大事典』(大修館書店)分担執筆『運動部活動の理論と実践』(大修館書店) 連絡先kiyokotaniguchiアットマークhotmail.com

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