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レッドソックス吉田が憧れのフィリーズ・ハーパーと対面。ハーパーの復帰を助けた最新ロボマシーンとは

谷口輝世子スポーツライター
(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

レッドソックスの吉田が5月6日、敵地フィラデルフィアでのフィリーズ戦で、大学時代から憧れていたスーパースターのハーパーと初対面を果たした。

ハーパーは昨年11月にトミー・ジョン手術といわれる右肘内側側副靱帯の再建手術を受けており、もともとは7月のオールスター前に復帰できる見込みとされていた。しかし、2カ月ほど早い5月2日のドジャース戦で指名打者として復帰。そして、復帰後初の本拠地でのレッドソックス戦で吉田と対面した。

レッドソックス対フィリーズのリーグ交流戦は、今季はこの3連戦だけで、もしも、ハーパーの復帰が見込み通りの7月だったならば、吉田と握手する機会はなかっただろう。ハーパーは指名打者をしており、この手術を受けているピッチャーとは復帰までに要する時間が異なるが、トミー・ジョン手術後、最短で戻ってきた選手だろうとされている。

ハーパーは、4月中旬にはライブBPと呼ばれる実戦形式の打撃練習をしており、その後は、1週間ほどマイナーリーグの試合にリハビリ出場する可能性があった。しかし、マイナーでのリハビリ出場はせずに、メジャーの試合に復帰した。

それを支えた一因が、最新のAIピッチングマシーンだ。トラジェクト・アークというマシーンで、現実の投手のボールとリリースポイントをほぼ完全に再現できる。米国ではなく、カナダのウォータールー大学出身のジョシュア・ポープ氏とローワン・フェラビー氏が開発した。

以下はトラジェクトスポーツ社のホームページ。マシーンの詳細やマシーンの動画を見ることができる。

https://trajektsports.com/

近年では、ピッチャーの投げるボールに関してさまざまなデータを取得できるようになっている。スピン回数、スピン軸、変化の幅などだ。さらに、球場には多くのカメラが設置されており、これによって、投手のリリースポイントなどのデータも集めやすくなっている。特定投手の投球データと映像をこのピッチングマシーンに入れると、マシーンがその投手の投げるボールをコピーして、ボールを投げるのだ。トラジェクトスポーツ社の動画によるとジャイロ回転も再現することができ、さらに一人の投手のワインドアップモーションや、ノーワインドアップモーションの違いにも対応する。

ハーパーもこのピッチングマシーンで打撃練習したそうだ。地元メディアのフィラデルフィア・インクワイアラーの取材にフィリーズの強打者シュワバーは「現実にはありえないことだが、それに近いことはできる。試合前に、ある投手の変化球を見たいとしたら、それを見ることができる」と答えている。

昨シーズン中にカブスがこのマシーンを導入しており、年末のウインターミーティングの会場でも展示され、現時点ではメジャーリーグ球団のおよそ半数がこのマシーンを持っている。

レッドソックスのコーラ監督は、ハーパーがマイナーでのリハビリ出場をせずに早期復帰したことについて聞かれると「今はトラジェクトというマシーンがあり、これまでと違って、メジャーリーグのピッチャーの球を見ることができる。うちのチームにもトラジェクトがある。打撃練習しながらボールを見ることができる。うちのトレバー・ストーリーや他の選手のときも、トラジェクトマシーンによってリハビリ期間を短くする恩恵があるようにと思う」と話した。

フィラデルフィア・インクワイアラー電子版によると、このピッチングマシーンは通信機能のある電子機器とみなされているため、試合中の電子機器使用禁止の規則が適用され、試合前後にしか使ってはいけないことになっている。

スポーツライター

デイリースポーツ紙で日本のプロ野球を担当。98年から米国に拠点を移しメジャーリーグを担当。2001年からフリーランスのスポーツライターに。現地に住んでいるからこそ見えてくる米国のプロスポーツ、学生スポーツ、子どものスポーツ事情をお伝えします。著書『なぜ、子どものスポーツを見ていると力が入るのかーー米国発スポーツペアレンティングのすすめ 』(生活書院)『帝国化するメジャーリーグ』(明石書店)分担執筆『21世紀スポーツ大事典』(大修館書店)分担執筆『運動部活動の理論と実践』(大修館書店) 連絡先kiyokotaniguchiアットマークhotmail.com

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