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日本代表でWBCに出たかったクワンに、イチローさんへの憧れ、大谷翔平からの勧誘について聞く。

谷口輝世子スポーツライター
(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 メジャー2年目のガーディアンズのスティーブン・クワン外野手は左投げ左打ちで、スピードがあり、バットコントロールに優れた選手として、リードオフマンに起用されている。彼の祖父母は山形県出身の日本人で、母が日系米国人、父が中国系米国人だ。WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)に日本代表としてプレーすることを希望していたが、出場資格を満たしていないことから、実現しなかった。そのクワンに、4月19日に話を聞いた。

 「(WBCで)プレーしたいと思ったのだけど、いくつものルールがあってうまくいかなかった。でも、将来、そういうことが起こるかもしれない」

 もしも、今後のWBC大会で出場資格が変更され、日本代表としてプレーできるチャンスがあれば、出場したいという意欲を示した。

 クワンは身長175センチ、77キロとメジャーリーガーとしては小柄だ。2018年のドラフトでガーディアンズから5巡目で指名された。2022年にメジャー昇格を果たすと1901年の近代野球以降では新人としては最多の4試合で計15出塁を記録した。また、デビューから129球目まで、空振りなし。目と手の協応動作に優れていることでも注目されるようになった。

 「僕はホームランをたくさん打てるわけではないので、ボールを打ち、自分の脚を使うことが重要だと考えている。とても重要だと思うようになったのは大学からで、僕たちの大学(オレゴン州立大学)のコーチは、ボールを打って脚を使うことを強調していた。大学野球の守備はそれほど良いわけではないので、相手の守備にプレッシャーをかけて一塁に出ることができる」

 クワンに、WBCの日本代表にと声をかけたのはエンゼルスの大谷翔平だ。「(昨年9月に)エンゼルスと対戦したときに、まずイッペイさんと話をし、数分の短い時間だったけど(WBCで)プレーすることについて話をした。そのときに、やりたい!と思った。結局、うまくいかなかったけど、あの瞬間はとてもすばらしいものだった」

 彼が子どものころにあこがれていたのはイチローさんだ。祖母は日本のニュース番組を視聴しており、その番組で、毎日イチローさんを見ていたそうだ。「夏の間は、オバアチャンと毎日、テレビでイチローを見ていた。イチローはたとえ良くない日でも、成功していて、本当にとてもかっこいいと思った。シングルヒットを打ったり、四球で塁に出たりして、貢献していた。僕にとっては、とても大きな存在で、彼がいなければ、僕は今、メジャーリーグにはいないと思う」

 (このインタビューは全て英語で行ったが、彼は「オバアチャン」という言葉を日本語で発した)

 イチローさんが引退する頃からメジャーリーグではフライボール革命が起こった。一定のバットスピードと角度で打つことで、より多くの打者がホームランを打てるようになり、メジャーリーグの総本塁打数も増えた。しかし、クワンは大谷翔平のようなホームランバッターではない。「野球のすばらしいところは、ひとつのタイプの選手だけでなく、いろいろなタイプの選手がいることで、それぞれにチームに貢献できることだと思う。四球を選んだりして、塁に出て、後ろの選手によって得点することでも貢献できる」と話す。

 4月14日のメジャーリーグ公式ホームページによると、開幕ロースター(負傷者入り選手も含む)945人のうちアジア系選手は30人だ。日本出身選手は8人、韓国出身選手4人、台湾出身選手1人で、その他のアジア系選手は17人ということになる。クワンはそのうちのひとりだ。

 彼は、アジア系メジャーリーガーとしての役割を果たそうともしている。「毎日、一生懸命にプレーし続けることで、良いロールモデルになれると思う。僕が小さいころは、アジア系アメリカ人はあまりいなかった。次の世代にインスピレーションを与えることは、本当に大切なことだと思う」

 イチローさんに憧れたクワンは、大谷翔平とはタイプの違うメジャーリーガーだ。イチローさんよりも体の小さなクワンは、大谷とともに、大谷とは違ったタイプの選手として、アジア系米国人、日本を含むアジアのこれからの野球選手を後押しする存在になっていくかもしれない。

スポーツライター

デイリースポーツ紙で日本のプロ野球を担当。98年から米国に拠点を移しメジャーリーグを担当。2001年からフリーランスのスポーツライターに。現地に住んでいるからこそ見えてくる米国のプロスポーツ、学生スポーツ、子どものスポーツ事情をお伝えします。著書『なぜ、子どものスポーツを見ていると力が入るのかーー米国発スポーツペアレンティングのすすめ 』(生活書院)『帝国化するメジャーリーグ』(明石書店)分担執筆『21世紀スポーツ大事典』(大修館書店)分担執筆『運動部活動の理論と実践』(大修館書店) 連絡先kiyokotaniguchiアットマークhotmail.com

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