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第1回WBCの米国代表監督を直撃取材。日本のレジェンドとの素晴らしい思い出と手探りの苦労を振り返る。

谷口輝世子スポーツライター
(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

スプリングトレーニング取材の朝は早い。例えば、ブルージェイズの場合、午前7時30分にはメディアルームが開き、8時からクラブハウスに入って取材をすることができる。選手たちの練習が始まるのは9時半ごろから。取材する我々は、目当ての選手の練習を追うために、お昼ごろまで広い施設内を歩きまわる。

メディアのなかでも早朝から、ひときわ精力的に動いている人がいる。第1回WBC米国代表の監督を務めたバック・マルティネスさんだ。今年で74歳。メジャーの捕手として17年プレー、2001年と02年はブルージェイズの監督も務めた。1987年にスタートしたテレビ解説の仕事を今も続けている。昨年4月にはガンに罹患していることを公表し、シーズン前半はテレビ解説の仕事を休んだが、見事に復帰。過去の経歴にも、現在の地位にもおごることなく、できるだけ多くの選手の情報やエピソードを視聴者に提供しようと、毎日、積極的に話を聞き、ノートを取り、練習を見て回っている。

マルティネスさんが監督だった第1回WBCの2次ラウンドでの日本―米国戦といえば、ボブ・デービッドソン球審の「世紀の誤審」の記憶がよみがえる。3-3で迎えた8回1死満塁で、岩村の左翼フライに三走の西岡がタッチアップして生還した。しかし、離塁が早いと米国のマルティネス監督が抗議すると、デービッドソン球審が判定をアウトに覆したのだ。

そのマルティネスさんに、第1回の米国代表監督を引き受けたのは、どういう理由からなのか聞いた。(取材日は2月22日)

ー監督を引き受けたのは?

「監督の候補として検討されることはとてつもなく名誉なことだった。私は監督をしていたことがあり、長い間、放送の仕事にも携わってきた。選手会とメジャーリーグは、初めての大会を推進する大使として、私をふさわしいと考えてくれた。素晴らしい経験だった。私はこの大会が好きなので、今年の大会もフェニックスから取材する」

ここまで話したところで、取材者(私)が日本のメディアであることを意識したのか、こう続けた。

「特にすばらしい経験は王さんとラインナップを交換したことだ。あの場所、あの状況で王さんと会話ができたのはとてつもなく大きな出来事だった。イチロー、

川崎や西岡がいた。日本はとてもよいチームだった。アメリカ代表の監督となったのは忘れられない経験だ」

ー第1回大会は、球団は選手を送り出すのにあまり協力的ではなかったと記憶しているが?

「WBCがどのようなものになるのかわからないから、何をセールスポイントにするかが難しかった。我々は、試合がどのくらい激しい戦いになるのか理解していなかった。また、多くの選手たちはチームのキャンプに参加して準備することを考えていた。だから、私は選手を集めたとき、ひとりひとりに『シーズンに向けて十分な準備時間を確保する』と約束し、チームの全員にどこかでスタメン出場させることにした。だから若い選手も先発出場した。そうすれば、自分たちのレギュラーシーズンに向けての準備と、アメリカチームのためにプレーしているのだという実感を持つことができると考えた。トーナメントに入ると、試合の激しさが分かった。チームとして準備するために十分な時間を割いておらず、グリフィー・ジュニア以外はあまり打てず、打っていたデレク・リーはけがをした。でも、今は、選手全員が、WBCのような大会に出場しても、自分のチームやレギュラーシーズンに向けて準備を整えることができる」

―あのときから比べるとWBC大会は成長した。

「参加チーム数が増えたことで、飛躍的に成長した。イギリス、イスラエル、中国、これまでの大会のスペイン、ブラジルなど、野球が本当に世界的なスポーツになりつつある。今や世界的なイベントになった。イスラエルを見ると、(イアン)キンズラーが監督をしており、メジャーリーガーも出場している。だから、誰が監督をするかも重要だろう。そして、マイク・トラウトが参加を決め、大谷翔平が参加を決めた。彼らを含む選手が参加を決めた。これは野球にとって大きなことだ。みんなが、選手たちが自分の国のために戦うことの意味を理解するからだ」

―ブルージェイズのロマノはイタリア代表として出場する意向を示していたが、一次リーグが台湾で行われることで、出場を断念している。そういう点では、大会フォーマットは、まだ課題があるのではないか。

「それは、特定の選手にとっては課題になり得る。イスラエル代表として参加するブルージェイズのホーウィッツは『4年後にここにいるかどうかわからない』と言っており、『この機会を逃したくない』と。私は13年に福岡に行き、東京に行き、17年はずっと東京におり、素晴らしい雰囲気を味わった。フェニックスでもチームUSAとカナダの試合はそんな感じになる、チームUSAとメキシコ、カナダ、コロンビアもいる。だから、とても楽しいだろうと思う」

スポーツライター

デイリースポーツ紙で日本のプロ野球を担当。98年から米国に拠点を移しメジャーリーグを担当。2001年からフリーランスのスポーツライターに。現地に住んでいるからこそ見えてくる米国のプロスポーツ、学生スポーツ、子どものスポーツ事情をお伝えします。著書『なぜ、子どものスポーツを見ていると力が入るのかーー米国発スポーツペアレンティングのすすめ 』(生活書院)『帝国化するメジャーリーグ』(明石書店)分担執筆『21世紀スポーツ大事典』(大修館書店)分担執筆『運動部活動の理論と実践』(大修館書店) 連絡先kiyokotaniguchiアットマークhotmail.com

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