アイスホッケー北米プロリーグのNHLの2部に相当するAHLには2人の日本人選手がいる。

日本代表FWの平野裕志朗(カナックス傘下アボッツフォード・カナックス)と、小学生時代を日本で過ごし、現時点ではカナダと日本の2つの国籍を持つDFジョーダン・スペンス(キングス傘下オンタリオ・レイン)だ。

北海道出身で26歳の平野は、スウェーデン、米国のジュニアリーグを経て、新型コロナの影響を受けた昨季を除いて、2018-19年シーズンから3部相当のECHLでプレーしていた。もともとAHLに昇格できる実力は持っており、19年にもAHLで昇格して1試合に出場し、1アシストを記録した。

今シーズンはECHLのシンシナティ・サイクロンズで開幕を迎えると、25試合で16ゴール、13アシストと確実にポイント数を重ねた。25試合時点でのゴール数はリーグトップタイで、アシスト数もリーグ4位に並んでおり、3部相当のECHLでは圧倒的な活躍だったといってよいだろう。

年明けには、カナックス傘下のAHL、アボッツフォード・カナックスと契約にこぎつけた。

アイスホッケーでは1分前後で次々と選手が入れ替わっていく。平野はAHLで、先発メンバーのすぐあとのセカンドラインで起用されると、早速、強力なシュート力を発揮して結果を出した。

1月22日には、試合開始直後に、2対1の有利な状況でパスをもらうと、そのパスを止めないでシュートを打つワンタイマーショットでAHLで初得点し、AHLでゴールを決めた初の日本生まれの選手となった。

チャンスを逃さず、強烈なワンタイマーショットを決めた平野は「このチームでも、シュートは別格だよね、とみんなに言ってもらえている」と確実な手応えを口にした。

翌日の23日には、ゴール前の混戦で体を張ってリバウンドを拾うと、ネットに押し込んだ。2試合連続の得点で、NHLの公式ホームページでも特集記事が掲載され、カナダのテレビ局作成の動画には今週のMVP選手として紹介された。

平野は「あまり、歴史を作ったとかそんな意識はしてなくて、それは、目指しているところがもっと上にあるからということに繋がっている。ここで満足してしまうような選手で終わったら本当にそこまでと思う」と話す。大きく前へ進んだが、厳しい競争を勝ち抜いていかなくては、最高峰リーグの氷には乗れない。だから、満足はしていない。

実は、平野は1月17日のオンタリオ戦で、AHLにいる日本国籍を持つ選手と対戦している。

筆者撮影 ジョーダン・スペンス
筆者撮影 ジョーダン・スペンス

カナダ人の父と日本人の母の間にオーストラリアで生まれ、幼児期から小学生時代を大阪で過ごしたジョーダン・スペンスだ。2月24日に21歳の誕生日を迎えた。22歳の誕生日までに国籍を選択しなければいけないが「難しい選択になる。家族ともよく話し合いたい」とまだ決断はしていない。

スペンスは大阪時代にはアイスホッケーと野球をしていた。アイスホッケー選手としての将来性を見出した父の後押しによって、13歳で父の国であるカナダへと移った。父の思い描いた通り、U18のカナダ代表に選出され、2019年の新人選手選択会議でLAキングスから4巡目(全体95位)で指名された。

身長178センチ、体重も80キロ弱でディフェンスとしては大きくない。しかし、ゲームを読む力と的確なパスを出せることが強みだ。得点の起点となるプレーができることから、アメフトのクォーターバックに喩えて、氷上のクォーターバックとも評価されている。AHLでは、40試合で2ゴール、32アシストを記録。昨年12月には、出場機会は得られなかったものの、NHLのLAキングスから昇格の知らせを受けた。

平野とスペンスはこれまで特に交流はないが、お互いに存在は知っていた。AHLでの対戦を終えて、平野はスペンスを「20歳には見えないくらい安心感のあるディフェンス。パワープレー、ペナルティーキルでも使われていて、アイスタイムも長い。すごい選手だと思う」と評し、スペンスは、平野について「日本で生まれた選手として初めてAHLで得点したというのを見た。日本の若い選手のために道を切り開いている。すばらしい」と刺激し合う。

NHLでプレーした日本人は07年のGK福藤豊だけで、スケーターとして出場した日本人選手はいない。今、平野とスペンスはNHLに最も近い日本人である。スペンスが1年後にどちらの国籍を選ぶかどうかにかかわらず、2人ともが最高峰リーグに到達し、そして彼らに続く選手が出てくることを期待したい。