注目のタティスJrに聞いていた話。子どもだったころを教えてください。
新型コロナウイルスの影響で、異例づくめのシーズンを送っているメジャーリーグ。マーリンズやカージナルスで新型コロナウイルスの集団感染が発生し、混乱しているが、なんとかシーズンは続いている。
そのなかで、最も注目されているのがパドレスのフェルナンド・タティスJrだ。
右投げ右打ちの21歳の遊撃手。ドミニカ共和国出身。父はカージナルスなどで活躍したフェルナンド・タティスで二世選手である。
ここまでの21試合で8本塁打。打率は3割1厘。失敗なしで5盗塁を決めており、守備力もある。メジャー1年目はケガに泣かされたが、今年は、メジャーを代表する選手に成長しつつある。
私がタティスJrに初めて会ったのは2019年2月のスプリングトレーニングで、このときに父から野球を教わったのか、どのように子ども時代を過ごしたのかを聞いていた。
タティスJrは前述したようにドミニカ共和国で生まれ育っているが、ネイティブ並みの英語も操るバイリンガルだ。
完ぺきなバイリンガルですね、と不完全な二か国語話者の私が聞くと、タティスJrはこう言った。
「ずっとドミニカ共和国の学校に通っていた。でも、学校の春休みや夏休みなんかで少しでも時間があると、少しでも長く父と過ごせるようにアメリカに来ていたからね。学校で覚えた英語をアメリカで練習できたのがよかったのかな」。
言葉だけではない。学校の長期休暇になると父のいるメジャーリーグ球場にやってきて、すぐ近くでメジャーリーガーたちを観察していた。
「ビッグリーグでやっている選手たちがどういうふうに仕事をしているか、どれだけのことをやっているかを見ていた。それは覚えている。これがビッグリーグなんだと思った」。
父は仕事場であるメジャーリーグの球場、オフに過ごすドミニカ共和国の球場にも、時間の許す限り、息子のタティスJrを連れて行った。
「僕は生まれたときからベースボールプレーヤーで、野球場で育ったようなものだ。これまで僕が野球について学んだことの全ては父が教えてくれた。それは父にとっても、僕にとっても、そうしたかったからしていたことで、僕たち親子にそういう血が流れているんだと思う」
メジャーリーガーの息子というプレッシャーはなかったのか。
「メジャーリーガーの息子だということで、周囲の人から注意を集めるというのはあった。でも、それは全然かまわない。野球のゲームを楽しむ、それだけだと思っていたから」
ブルージェイズには、メジャーリーガーを父に持ち、ドミニカ共和国出身のゲレロがいる。彼のことはどのように見ているのか。
「僕はひとりじゃないんだなと思う。彼は特別なものを持っている選手だしね。彼のことはよく知っていて、いっしょに出かけたこともあるよ」
ここまでが昨年2月に聞いた話だ。
つい数日前、タティスJrは、ナ・リーグの週間MVPを受賞し、そのあと、オンライン会見に応じた。大活躍を米スポーツ専門局ESPNでも特集されていて、地元メディアからこんな質問が出た。
あなたにとっての野球の重要性よりも、野球界にとってあなたの存在がより重要になっている、という記事が出ているが、どう思いますか。
タティスJrはこう言った。「僕は子どものころから、僕がいてもいなくても、野球は続くんだと父から言われてきた。野球は続いていく。どんな選手であっても、野球そのものより大きな存在になるということはない、と僕は思っているよ」
タティスJrは、「歴史を作るときだ」と試合前に自分に言い聞かせると話しているが、父の姿と教えから、その時代のスーパースターも移り変わっていくことも知っている。
私は2019年2月にレッズのベル監督に「二世選手のメリットは何か」と聞いていた。ベル監督は祖父、父ともメジャーリーガーで、父は監督経験もあるから、メジャー監督としても二世である。
「僕の場合は、父を見上げていて憧れているんだけれど、父は普通の人間でもある、というのが大きかったかな。普通の人でもメジャーリーグでプレーするんだということが、僕の自信につながったと思う」
メジャーリーグの二世選手は、親から受け継いだ才能と他の人がアクセスできなかった環境を得た、という恩恵を受けている。そして、親であり、メジャーリーガーである父とともに暮らすことで、メジャーリーガーという職業を勝ち取った自分を、客観視できる強みもあるのかもしれない。