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子どものスポーツに入れ込む毒親、毒コーチは、低迷チームのファンから何を学べるのか

谷口輝世子スポーツライター
(写真:アフロ)

私は、子どものスポーツ観戦に出かけるとき、とてもワクワクします。今日は、どんなプレーを見せてくれるだろうか、この前の試合のときのように、勝敗を決める場面ですばらしいプレーをしてくれるだろうか、いやいや、そういったプレーができなくても、一生懸命に打ち込んでいる様子を見せてほしい。期待でいっぱいになっています。

人間は良いことが起こると期待したり、想像したりするだけでも、快感を得ることができます。脳の報酬系回路の働きによるものだそうです。しかし、期待に反して、良いことが起こらなかったとき、悪いことが起こってしまったときには、落胆を味わいます。高い期待やとても良いことを予想しているときには、期待の高さの分だけ深い落胆を味わうようです。

わくわくした気持ちで子どもの試合観戦に出かける私。すでに快感を得ていて、気持ちのカーブが上向きの状態です。ところが、私の期待に反して、子どもが肝心なところでミスをしたり、消極的なプレーが多かったりすると、がっかりします。気持ちのカーブは普段よりマイナスの下向きに落ちていき、イライラしています。

期待と現実が一致しなかったら、自分の期待値を変更するか、現実を自分の期待に合うようにするか、がっかり感に対処するしかありません。

現実を変えたいと思って「頑張って、なりたい自分になる」というふうに努力するのは素晴らしいことです。

けれども、保護者やコーチが、自分の期待と、子どものパフォーマンスとは、合致しなければいけないと考えるときには、少し立ち止まったほうがよいかもしれません。

子どもの成長やスポーツする楽しみを軽視し、子どもが素晴らしいプレーをしていることで親(指導者)である自分が快感を得たいという気持ちに傾いていないか。それって、自分の機嫌の良し悪しを、子どものスポーツに依存していることになるのではないか。そのあたりを振り返る機会を持ったほうがよさそうです。

こんなパフォーマンスをして欲しい、こんなプレーをしてくれるはずという期待を高ぶらせて快感を感じながら、子どもの試合を見に行き、その期待通りのことが起こらなかったときにはがっかりします。自分のなかで、その感情を処理できればよいのですが、その不満を子どもにぶつける、ということも起こり得る…

私自身は、あともう少しで、そのフラストレーションを子どもにぶつけそうになったことが何度もあります。もしかしたら、指導者の期待通りに子どもが動けなかったことで、親や指導者が落胆を感じ、不満を爆発させ、罵ったり、暴力まがいの指導につながるのではないか、と考えています。

脳の報酬系回路についても書かれている『脳から見える心 臨床心理に生かす脳科学』(岡野憲一郎著 岩崎学術出版社)には、こんな文章があります。

あてにしていた分の報酬が得られる保証はなく、その多寡に応じてその日の気分が変わったりすることも多い。すると実際の報酬の量が少なかったときは、次の機会からそれを少なく見積もるようにする。期待が裏切られる苦痛を私たちは繰り返したくないからだ。

これを読んで、長い間、低迷しているチームのファンは、期待の見積もり方がうまいのではないか、と私は考えました。

試合前、ほとんどのファンはどのようなことが起こるのかにワクワクしています。勝ってくれるととてもうれしい、けれども負けるかもしれない、負けるかもしれないが、贔屓の選手が素晴らしいパフォーマンスをしてくれるかもしれない、いや勝つかもしれない。想像や予想することそのものが快感です。

しかし、勝率が3ー4割の間にあるチームは、負けてしまうことが多い。高い期待を寄せても、10試合のうち6−7試合もがっかり感を味合うことになります。

それでも、ファンは応援し続けます。ほとんどのファンは、がっかり感を爆発させて暴れたりすることもしません。なぜなのか。

その理由を知りたくて、ツイッターでこんな質問を投げかけました。

「長く低迷しているチームを応援しているファンの人は、勝利への期待を調節するのが上手なのではないかと、私は感じていますが、みなさんのご意見をお聞かせください」。多くのご意見をいただきました。(ご協力いただいたみなさん、ありがとうございました)

・負けたときのがっかり感も含めての楽しみ。

・一喜一憂でなくコツコツと地道な努力してる選手を見守ろうという心境。

・チームとの一体感を楽しむ。

・強いからファンになったのではないので、負けてもそのチームらしさが出ていれば満足。

・弱くてもかっこよく輝く場面に出会える。

・数年単位でクラブが成長しているかを見る。

・勝利への執念は人一倍もっている、それでも弱くても応援続けるのはチームが好きだから、理屈じゃない。

・勝利への過剰な期待云々抜きにして好きだから応援してる。

・応援するチームが強い弱いは、結果で有り、大切なのはそのチーム。勝つチームが好きな人は、そのチームが好きなのでは無くて、勝つ事が好きなのだろう。

私は期待の調節という視点からしか考えることができていなかったのですが、みなさんからの言葉に、子どものスポーツ観戦時にどこを見るか、多くのヒントが得られました。プロスポーツを応援するのと、子どものスポーツを観戦するのとは違います。それでも、参考にできることはあります。

中長期的な視野で成長を見る。勝敗以外にも、キラリと光る場面を見つける、その子どもの良さが出ているところはあるか。期待したあとに負けてがっかりする感情のジェットコースター感も楽しみのひとつ。一喜一憂しない。いつも勝ちを願って応援しているが、負けたときのがっかりやフラストレーションをうまく自分で消化できる。いただいた意見として最後に挙げた「勝つチームが好きなのは、そのチームが好きなのでは無くて、勝つ事が好き」という一文も心に刺さりました、勝つことにこだわる指導者や保護者は、子どものスポーツそのものに対する関心よりも、勝つことのほうが大事なのかもしれません。

そういえば、以前に米国デトロイトのユーススポーツ団体で指導者講習を受けたときに、子どもの試合をどう見るかについてこんなことを教えてもらいました。「自分の好きなプロスポーツがなかなか勝てていないときに、試合を見てください。そして良いところを探す練習をしてみてください」と。見る側の期待と落胆のコントロール、キラリと光るプレーを探す、確かに共通点があります。

子どものスポーツにおける現実的な期待の探り方、期待はずれの落胆を自分自身で収める方法、どんなときに過剰な期待をしてしまうのか。今月から発売開始した「なぜ、子どものスポーツを見ていると力が入るのかーー米国発スポーツペアレンティングのすすめ」(生活書院)で詳しく記しています。

なぜ、人はスポーツを見るのかについても触れていますので、スポーツファンの方にも手に取っていただけると幸いです!

スポーツライター

デイリースポーツ紙で日本のプロ野球を担当。98年から米国に拠点を移しメジャーリーグを担当。2001年からフリーランスのスポーツライターに。現地に住んでいるからこそ見えてくる米国のプロスポーツ、学生スポーツ、子どものスポーツ事情をお伝えします。著書『なぜ、子どものスポーツを見ていると力が入るのかーー米国発スポーツペアレンティングのすすめ 』(生活書院)『帝国化するメジャーリーグ』(明石書店)分担執筆『21世紀スポーツ大事典』(大修館書店)分担執筆『運動部活動の理論と実践』(大修館書店) 連絡先kiyokotaniguchiアットマークhotmail.com

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