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プロスポーツの検査キット大量使用は受け入れられるか。新型コロナ禍での再開へ向けて。

谷口輝世子スポーツライター
(写真:ロイター/アフロ)

世界中で多くのスポーツが中断している。どうにかして再開したいが、スポーツの場で、新型コロナウイルスの感染が爆発することは避けなければいけない。

どのようにしたら感染を防止できるのか。ゴルフの米男子ツアーでは、徹底的に検査をすることで対応しようとしている。

米男子ツアーは、最大で100万個の新型コロナウイルスの検査キットを使用する可能性があるという。英ガーディアン紙の電子版が19日に伝えた。

3月半ばから中断していたツアーは、6月11日にテキサス州で開催されるチャールズシュワブ・チャレンジで再開する予定。新型コロナウイルスの感染拡大を避けるため、当面は無観客で行われる。

北米のプロスポーツのなかでは、いち早く再開の日程を発表したPGAツアー。英ガーディアンの記事によると、検査キットは、ツアー再開前に、選手、キャディ、オフィシャルらの自宅に送付され、飛行機で移動するたびに、検査を受けなければいけないという。また、トーナメント中には個人が毎日、検査をするようにし、陽性反応が出た場合には14日間の自主隔離を求めるそうだ。

選手、キャディ、関係者らはあわせて700−800人程度になる見通し。

英ガーディアンによると、米男子ツアーの広報担当者は検査キット数の100万という数字そのものは否定したが、新型コロナウイルスの検査は、現時点では、最も重要な意味を持つものだとしている。

特定のスポーツ団体が、大量の検査キットを準備することに問題はないのか。

英国エディンバラのメディア、ザ・スコッツマン電子版は24日付で、2013年に世界ゴルフ殿堂入りしたコリン・モントゴメリーの反応を伝えている。「予備のものを使うのならば、それは良しとしよう。しかし、100万回のテストは我々ではなく、今、現場の最前線で働く人々のために使われなければいけない。みんながテストを受けているわけではないのです。我々が何かを得るよりも、まず、世界中の最前線にいる人たちがテストを受けなければならないのです」。

医師が検査を受けるべきと診断しても、検査キットや検査するためのスタッフが足りないのならば、米男子ツアーが検査キットを抱え込むべきではない、というのは当然の意見だろう。

先月12日、米プロスポーツで最初に選手が新型コロナウイルスに感染したNBAでは、すぐにチームメートや対戦したチームらの選手も検査を受けた。しかし、このとき、検査キットは著しく不足している状態で、ニューヨークのデブラシオ市長は、検査を待っている重篤な病状の患者がいるのだから、NBAチームが全体でCOVID-19の検査を受けるべきではないと批判した。

日本では楽天が法人向けに新型コロナウイルスの感染の可能性が分かる検査キットを発売したと発表した。医療機関の検査とは異なり、陽性か陰性かという判断はできないため、利用する企業などは参考情報として扱うというもの。米男子ツアーのように、特定の組織が感染を防ぎながら、商活動をするために検査キットが欲しいという需要とはマッチするかもしれない。しかし、楽天の法人向けキットは、医療者からは、通常のPCR検査よりも精度が低くなることや、検体採取のリスクを指摘する声があがっており、かえって混乱を引き起こすのではないかと懸念されている。

活動を再開したいのは、米男子ツアーだけではない。米大学アメリカンフットボールの一部のカンファレンスでも、全選手に検査をすることで感染状況を管理し、試合を行いたいという考えがある。今、複数のスポーツ組織で競って検査キットを買い占めるようなことは避けなければいけないだろう。

限りある医療リソースをスポーツ界はどこまで使うことが許されるのか。再開へ向けて、選手、スタッフの感染状況をモニターするだけではなく、より広い視野で最善の策を取ることが求められる。ファンに受け入れられるか、出場するアスリートは同意できるのか。その声にも、耳を傾けなければいけないのではないか。

スポーツライター

デイリースポーツ紙で日本のプロ野球を担当。98年から米国に拠点を移しメジャーリーグを担当。2001年からフリーランスのスポーツライターに。現地に住んでいるからこそ見えてくる米国のプロスポーツ、学生スポーツ、子どものスポーツ事情をお伝えします。著書『なぜ、子どものスポーツを見ていると力が入るのかーー米国発スポーツペアレンティングのすすめ 』(生活書院)『帝国化するメジャーリーグ』(明石書店)分担執筆『21世紀スポーツ大事典』(大修館書店)分担執筆『運動部活動の理論と実践』(大修館書店) 連絡先kiyokotaniguchiアットマークhotmail.com

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