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無観客試合の座席を買いたいのですが、売ってもらえますか?

谷口輝世子スポーツライター
(写真:ロイター/アフロ)

新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、世界中のほとんどのスポーツが中止や延期になっている。

現時点では、感染拡大を抑えている台湾の野球が世界で唯一、開幕できたプロ野球だ。ただし、無観客試合。そのため、台湾の楽天モンキーズの試合では、無人の観客席にロボットや人形のようなものが置いてある。

今年の夏頃には、いろいろな国でプロスポーツやスポーツ大会が開催できるようになっているかもしれないが、その多くは無観客試合になるだろう。

もしも、無観客で試合が開催されるのなら、私はあのハリボテ人形になりたい。

あの人形のところに顔写真でも貼りつけてもらって座席に置いてもらいたいのだ。お客さんを迎えられない無観客試合だから、そこに行くことはできないのだけれど、自分の代わりに人形を座席に座らせてもらえたら、気持ちだけは空間を超越できる。目立ちたがり屋なので、ネット裏の席に人形を置いてもらったら、テレビ中継のなかに何度も映り込んで、満足感が得られるように思う。

写真のやりとりは、もちろん、オンラインで行い、入場券を販売する主催者に送信する。そこでプリントアウトしてもらいたい。

たとえ人形といえども、席に座らせてもらうのだから、入場券料は払う。ハリボテ人形に写真を貼り付けてもらうというコストを考えれば、通常の値段に、その費用を上乗せしてもらっても財布の紐を緩めてしまうかもしれない。そこには、お客さんを入れられない、いつものように収益を上げられないリーグをサポートしたいという思いがあるからだ。

ネット裏の座席は安くはないので、もしかしたら買うのをためらうかもしれない。すぐ売り切れるかもしれないし。そのときには、ちょっと値段の安い外野席を購入するので、そこに人形を座らせてもらえたら助かる。

欲をかいて恐縮だが、もしも、選手のホームランボールが、私の分身である人形にあったら、あとでホームランボールにサインしていただけるというサービスがあれば、ありがたい。私は過去のデータを漁り、どの方向に、どのくらいの飛距離のボールが飛んでくるのか、どの投手と相性が良いのかを調べて、ホームランのボールが飛んできそうなところに席を買う。

感染を防ぐためには、観客を入れてはいけない。でも、人の動きを規制することが段階的に緩められる時期がきたら、1000人限定でも、いや100人限定でも、お客さんを迎えることはできないだろうか。観客が少なければ、座席の間隔をあけることもできるし、入場口で体温を測るなどの健康チェックや追跡も追いつくように思う。

新型コロナウイルスのような感染症によって、多くの人が大なり小なりの影響を受け、いつものような生活を送れなくなっている。一生に何度も起こらない困難に直面している。無観客試合も、多くのスポーツリーグにとってはリーグ史上初めてのことだろう。お客側にとっても初めてのことだ。

だから、無観客試合の「観戦」を記念してTシャツなどのグッズを少しだけでも作って欲しい。そして、私の代わりに席に座るハリボテ人形に着せてもらえるとうれしい。

新型コロナウイルスの感染が抑えられ、また、再び、その場所で試合を観戦できる日には、そのTシャツを着て行く。離れ離れで見ていたファンにとって、そのTシャツは一体感の目印になり、外に出られなかった時期のしんどさを分かち合える。

感染せずに、観戦するためにあの人形になりたい。

スポーツライター

デイリースポーツ紙で日本のプロ野球を担当。98年から米国に拠点を移しメジャーリーグを担当。2001年からフリーランスのスポーツライターに。現地に住んでいるからこそ見えてくる米国のプロスポーツ、学生スポーツ、子どものスポーツ事情をお伝えします。著書『なぜ、子どものスポーツを見ていると力が入るのかーー米国発スポーツペアレンティングのすすめ 』(生活書院)『帝国化するメジャーリーグ』(明石書店)分担執筆『21世紀スポーツ大事典』(大修館書店)分担執筆『運動部活動の理論と実践』(大修館書店) 連絡先kiyokotaniguchiアットマークhotmail.com

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