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オリンピックが中止になったら、米NBC局はどうするのか。米専門家に聞きました。

谷口輝世子スポーツライター
(写真:つのだよしお/アフロ)

新型コロナ感染拡大で、東京オリンピックの開催が危ぶまれている。自由な移動が制限されている国や地域もあり予選が行えない事態になっているという。

オリンピックには大きなお金が動いている。特に米国のテレビNBC局からの放送権料が大きい。NBCは2014年のソチ五輪から2020年の東京大会までの冬と夏の4大会あわせて43億8000万ドル(約4680億円)でIOCと契約。猛暑の期間に開催されるのも、巨額を支払っているNBCの要望を無視できないからだとされている。米国では、秋になればアメリカンフットボールが始まり、メジャーリーグのポストシーズン、NBAのシーズンも控えているので、これらと重複するのは避けたいという事情がある。

オリンピックに対して大きな力を持つ米NBCは、もし、オリンピックが中止や延期になったら、どうするのだろうか。

米国ではオリンピックを中継するのはNBC局だけ。開催された場合には、NBC局のプライムタイム(ゴールデンアワー)はもちろん、スポーツを扱うNBCSN局と普段は経済ニュースを取り上げているCNBC局、エンターテーメントを扱うUSA局も使う。これらに加えてオンラインで視聴できる動画もある。平昌冬季五輪大会では、全てあわせて2400時間分の枠をとった。夏季大会にはそれ以上の時間が充てられることになっている。中止か延期になった場合には数千時間の穴をどう埋めるのか。

米国でもテレビ離れの傾向がある。しかし、スポーツ中継は、リアルタイムで放送されることに大きな価値があり、ケーブル局の視聴率ランキングで上位に入る優良コンテンツだ。

米スポーツ専門局ESPNでは、NBAやメジャーリーグのキャンプ、NCAAのバスケットボールなどが中断や中止になっており、苦慮している。ここ数日は、過去の試合の再放送やNFLのフリーエージェントの話題を中心に扱っている。本来ならば3月後半は、NBA、NHL、NCAAのバスケットボールトーナメント、テニス、ゴルフ、MLS MLBのスプリングトレーニング などが目白押しのはずだった。

『OLYMPIC TELEVISION』(Routledge 2018)の共著者である、米ユーティカ大のポール・マッカーサー教授に、オリンピック中止になったら、NBCはどうするのかを、メールで取材した。

「NBCは代替プログラムを見つける必要があります。プライムタイム(ゴールデンアワー)の放送は再放送を使うのではないでしょうか。これはNBCの視聴率にとって痛手になるでしょうが、1980年のモスクワ大会のときにも、似たような戦略を採用しています。ケーブル局のNBCスポーツネットワークは他のスポーツで数百時間を穴埋めする必要があるでしょう。プライムタイム(ゴールデンアワー)以外は、通常の放送内容を放送すると思います」。同教授はこのように話し、オリンピック中継に使うケーブル局のCNBC、USAもいつも通りに経済ニュースやエンターテーメントを放送するだろうと見ている。

米NBCがマッカーサー教授の予想通りのアクションを取るかどうかは分からないが、40年前のモスクワ大会への出場をボイコットしたときの苦い経験は少なくとも参考材料にはするのではないか。

NBCは1980年のモスクワ大会の放送権を8700万ドルで獲得した。広告業界誌AdAgeの当時の記事によると、米国がモスクワ大会をボイコットしたことで、NBCは3000万ドル以上の広告収入を失ったそうだ。

ただし、仮に、東京オリンピックが中止になっても、NBCは損失を補填する保険に加入しているとされていて、大きな損はしないと言われている。前述したAdAgeによると、1980年のモスクワ大会のときも、NBCは保険に加入していて、8700万ドルの放送権料のうち約90%を取り戻したと伝えている。広告収入では損をするが、保険もあり、大損はしないということだろう。

もしも、大会が中止になったら…。放送件料を払っているNBCは、最悪のシナリオに向けて準備をはじめているはずだ。一方、ここまでトレーニングをしてきたアスリートたちは、今、宙ぶらりんな状態に置かれている。

スポーツライター

デイリースポーツ紙で日本のプロ野球を担当。98年から米国に拠点を移しメジャーリーグを担当。2001年からフリーランスのスポーツライターに。現地に住んでいるからこそ見えてくる米国のプロスポーツ、学生スポーツ、子どものスポーツ事情をお伝えします。著書『なぜ、子どものスポーツを見ていると力が入るのかーー米国発スポーツペアレンティングのすすめ 』(生活書院)『帝国化するメジャーリーグ』(明石書店)分担執筆『21世紀スポーツ大事典』(大修館書店)分担執筆『運動部活動の理論と実践』(大修館書店) 連絡先kiyokotaniguchiアットマークhotmail.com

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