Yahoo!ニュース

明日のメンバー表はお宝か。メジャーのメンバー表に「平野」と「大谷」の名前が漢字で書き込まれるワケ。

谷口輝世子スポーツライター
(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 8月21日と22日(日本時間22日、23日)、ダイヤモンドバックス対エンゼルス戦が行われる。今さら書き加えるまでもないが、ダイヤモンドバックスには平野投手、エンゼルスには大谷選手が在籍している。

 明日と明後日のダイヤモンドバックス側のメンバー表には漢字で「平野」と「大谷」の名前が記入されているはずだ。

 

 ナ・リーグのダイヤモンドバックス本拠地試合で指名打者制ではないし、大谷は20日にはアリゾナ州のキャンプ地施設で実戦登板することが決まっているので、21日と22日の試合は、先発メンバーからは外れるだろう。しかし、ロースターに入っている限り、スタメンの下に「大谷」と漢字で書き込まれるはずだ。

 なぜ、2人の名前が漢字で書き込まれるのか。

 それは、ダイヤモンドバックスのジェリー・ナロンベンチコーチがこだわりと技を持っているからだ。自チームだけでなく、対戦相手でも日本人選手がいれば、メンバー表に、その名前を漢字で書くというルールを自らに課し、その技術を磨いてきた。

 ナロンコーチは「日本選手の名前を漢字で書き始めるようになったのは、イチローがメジャーにやってきたころからだ」と言う。選手の名前は、ネイティブの言語で書くべきだと考えて「イチロー」とカタカナで書いてみたという。イチローがマリナーズに入団した2001年当時、ナロンコーチはレンジャーズの代行監督を引き受けていた。マリナーズとの対戦回数も少なくなかった。

 そして、イチローの名前をカタカナで「イチロー」と書いて以来、一貫して、母国語の名前の表記に合わせるようにしている。

 ナロンコーチは、93年にオリオールズでコーチとしてのキャリアをスタート。90年代後半から2001年までレンジャーズでベンチコーチや代行監督、監督を務めた後は、レッドソックス、レッズでベンチコーチになり、レッズでは代行監督から監督にも就任。さらに2011年からはブルワーズでもベンチコーチとしてチームを支え、昨年途中からはダイヤモンドバックスのベンチコーチになっている。その間、ずっとメンバー表を書き続けてきた。

 実は、ナロンコーチは漢字職人になる以前から、カリグラフィーという飾り文字の書字技術を持っていた。

 オリオールズでコーチをしていた時から、カリグラフィーの技術を使ってメンバー表を書いている。専用のペンを使い、右打ち、左打ち、スイッチヒッターなどで色分けの工夫もしている。漢字やカタカナで名前を書き入れるようになったのも、他言語への敬意とカリグラフィーの延長線上にあったことなのだろう。

 ブルワーズのコーチ時代には、パドレスのアドバイザーを務める斎藤隆氏や、ヤクルトに復帰した青木が在籍していた。「斎藤」と「青木」の名前は何度も書いている。「斎藤」はこれまでで最も書くのが難しかったそうで、メンバー表の枠からかなりはみ出してしまったらしい。しかし、苦労が報われたとでもいうのか、その技術に感心した斎藤氏から日本の毛筆と思われる筆のセットをプレゼントしてもらったそうだ。

 イチローがメジャーに移籍した当時は、まだ、インターネットの検索もそれほど発達していなかった。ナロンコーチに、どのように漢字やカタカナ表記を見つけているのかと聞いたが、「企業秘密」とやさしく笑うのみ。

 「平野」の「野」は簡単ではないが、オープン戦以来、書きなれている。

 「大谷」は選手としては手ごわいが、漢字としては画数が少ないので、ナロンコーチにとっても難しい漢字ではないだろう。

 

ダイヤモンドバックス「平野」と、マーリンズ先発のチェンの「陳」が漢字で書かれている。ダイヤモンドバックスの本拠地球場で販売されているメンバー表。(売店の許可を得て、7月22日に筆者撮影)
ダイヤモンドバックス「平野」と、マーリンズ先発のチェンの「陳」が漢字で書かれている。ダイヤモンドバックスの本拠地球場で販売されているメンバー表。(売店の許可を得て、7月22日に筆者撮影)

 昔、ナロンコーチは、メジャー初安打、初勝利などを記録した選手に、このメンバー表をプレゼントしてきた。しかし、現在では、これらのメンバー表は商品化され、各球団の記念品ショップで販売されたり、オンラインオークションにかけられている。

 もしかしたら、21日と22日の試合のメンバー表は、主催球団であるダイヤモンドバックスのオンラインオークションにかけられるかもしれないので、興味のある方はちょっと覗いてみてはいかがだろか。

スポーツライター

デイリースポーツ紙で日本のプロ野球を担当。98年から米国に拠点を移しメジャーリーグを担当。2001年からフリーランスのスポーツライターに。現地に住んでいるからこそ見えてくる米国のプロスポーツ、学生スポーツ、子どものスポーツ事情をお伝えします。著書『なぜ、子どものスポーツを見ていると力が入るのかーー米国発スポーツペアレンティングのすすめ 』(生活書院)『帝国化するメジャーリーグ』(明石書店)分担執筆『21世紀スポーツ大事典』(大修館書店)分担執筆『運動部活動の理論と実践』(大修館書店) 連絡先kiyokotaniguchiアットマークhotmail.com

谷口輝世子の最近の記事