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米NBC局の過去20年間のオリンピック放送で最も取り上げられた日本人選手は誰か

谷口輝世子スポーツライター
(写真:ロイター/アフロ)

 

 オリンピックで日本選手の活躍についてつぶやくツイッターを見ていると焦る。米国に住んでいるとはいえ、私も日本人。日本人選手の活躍をライブで見たいと思い、米NBC局にテレビのチャンネルをあわせても、日本人選手の出場する競技は映っていない。焦る。系列チャンネルを探し、同局のストリーミング放送を探しだし、何とかたどり着く。

 米NBC局は米国人の視聴者を対象にしているので、米国人選手が活躍する種目を中心に放送している。日本人選手を中心に番組が作られていないのは、当たり前のことでもある。

 今年に出版された『OLYMPIC TELEVISION』(AndrewC.Billings,JamesR.Angelini,PaulJ.MacArther Routledge)という本を参考図書にして、米NBCがどのように自国の米国人選手と、外国人選手について報じているのかを見ていきたい。

 この本では、2016年リオデジャネイロ五輪を伝えた米NBCのプライム放送のなかで、名前を述べられた回数の多い選手の上位20人が発表されている。

 

 1位 ケリー・ウォルシュ・ジェニングス ビーチバレー 女性 米国

 2位 マイケル・フェルプス 水泳 男性 米国

 3位 エイプリル・ロス ビーチバレー 女性 米国

 4位 ウサイン・ボルト 陸上 男性 ジャマイカ

 1位から3位は米国選手で、4位に世界的スーパースター、ウサイン・ボルトが入っている。

 上位20位のうち、米国以外の選手は

 9位  モー・ファラー 陸上 男性 英国

 12位 チャド・ルクロス 水泳 男性 南アフリカ

 14位 カティンカ・ホッスー 水泳 女子 ハンガリー 

 20位 サラ・ショースレム 水泳 女子 スウェーデン

 同書では、1996年のアトランタから2016年までのリオデジャネイロまでの冬季オリンピックと夏季オリンピックで、米NBCのプライム放送で名前を述べられた回数が多かった選手の上位10人も明らかにしている。

 これらの研究から、米NBCが外国人選手を取り上げるときには一定の法則があるという。

 出場選手のなかでも特に素晴らしい成績を残している世界的なスター選手。

 米国人選手がメダル獲得の可能性が高い試合でライバルとなる、ライバルとなった選手。

 米国人に人気のある競技で素晴らしい成績を収めた選手。

 米国人にあまり人気のない競技では、外国人選手がすばらしい成績を残しても、取り上げられる回数が少ない。

 

 1996年から2016年まで、米NBCプライムタイムのオリンピック放送で名前を挙げられた回数の上位10人に入っている日本人選手が一人だけいる。

 1998年の長野五輪で原田雅彦だ。原田は、先に述べたような米NBCが外国人選手を取り上げる法則からは少し外れている。

 ジャンプ競技は米国で特に人気のあるスポーツというわけではない。98年から2014年のソチまで、プライム放送で名前を挙げられた上位10人のなかに、ジャンプ競技の選手は原田を除いてひとりもいない。米国人にもいない。日本は、米国とメダル争いをするライバルだったわけではない。この『OLYMPIC TELEVISION』には、原田の名前がなぜ、数多く述べられたかについては解説していない。

 原田は1994年のリレハンメル五輪のラージヒル団体で最後の1本でミスをし、日本は金メダルを逃していた。自国開催となった98年長野でも、大雪のなかの1本目は距離が出なかった。大雪で競技は中断。4年前の悪夢がよぎったが、原田は2本目で137メートルを記録し、日本の金メダル獲得の原動力となった。開催国の選手であり、大きな挫折からの栄光という物語と、原田の感情をむき出しにしての喜びに、米NBCも詳しく報道する価値を見出したのだろう。 

 

スポーツライター

デイリースポーツ紙で日本のプロ野球を担当。98年から米国に拠点を移しメジャーリーグを担当。2001年からフリーランスのスポーツライターに。現地に住んでいるからこそ見えてくる米国のプロスポーツ、学生スポーツ、子どものスポーツ事情をお伝えします。著書『なぜ、子どものスポーツを見ていると力が入るのかーー米国発スポーツペアレンティングのすすめ 』(生活書院)『帝国化するメジャーリーグ』(明石書店)分担執筆『21世紀スポーツ大事典』(大修館書店)分担執筆『運動部活動の理論と実践』(大修館書店) 連絡先kiyokotaniguchiアットマークhotmail.com

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