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究極の文武両道を成し遂げたメジャーリーガーを直撃。運動は学力向上に役立つ。

谷口輝世子スポーツライター

選抜高校野球大会で進学校の松山東が二松学舎大付を破ったことが話題になっている。文武両道を掲げ、2時間の練習に集中し、結果も出した。

究極の両立を成し遂げたメジャーリーガーを直撃インタビュー

多様なバックグラウンドを持つ選手たちが集まるメジャーリーグにも、勉強とスポーツの両方に秀でた選手がいる。その代表格がレッドソックスの34歳の左腕クレイグ・ブレスロウ投手だ。

ブレスロウは名門イェール大学で分子生物物理学と生化学を専攻。ニューヨーク大学医学部に受け入れられることも決まっていたという優れた頭脳の持ち主。忙しい大学時代の日々、ブレスロウは野球と研究をどのように両立していたのかを直撃取材した。(ブレスロウの高校時代の話はこちらにも書いている。メジャーリーグのスターに直撃取材。こども時代の話を聞かせてください(レッドソックス編)

-学業と野球の両立はどのようにしていましたか。

ブレスロウ 僕は野球のシーズンのほうがいい学生だったな。人間の脳というのは要求されたときには素晴らしい能率のよさを発揮する。2週間かけて書いたレポートも、1時間で書いたレポートも、ほとんど変わらなかったということもある。

大学時代は、自分の能力の範囲でどのように物事を終わらせるかを見つけていかなければならないと思ってやっていた。それによって、僕は明らかに能率のよい人間になることができたと思う。

時間を無駄にしないようにまず、1日の計画を立てるんだ。学生寮や図書館を行ったり来たりして時間を無駄にすることがないように。今日、するべきことは何か。朝食を食べ、授業に出る。2時間は図書館で勉強する時間があるな。その後、野球の練習に行く、そして夕食を食べて、部屋へ戻る、というふうにね。もっと時間があれば楽しんだだろう他のことは犠牲にはなったと思うけど。

-「スポーツは学業の妨げになる」という意見についてはどう思いますか。

ブレスロウ 僕はそうは思わない。勉強以外にスポーツをすることや趣味に打ち込むことは、現実の世界で成功することの準備になるものだ、と主張することができるのではないかな。頭を本にくっつけているだけ、言葉を暗記するだけでは、他の人といっしょに働くこと、協力しあうこと、時間管理、他の人をマネジメントすることは学べない。

-ご両親はどのように接していらっしゃったのでしょうか。

ブレスロウ 僕の両親は2人とも教師だった。僕は学校の勉強は得意だったから、両親は僕に「勉強しなさい」とほとんど言う必要はなかったはずだ。子どもは楽しんでいるときに優れた能力を発揮するもの。子どもが楽しくて打ち込めるものを、子ども自身が見つけさせてあげたいと思うよ。

-中学や高校時代には野球とサッカーをやっていたそうですが、野球の練習時間はどのくらいでしたか。

ブレスロウ 2時間ぐらいだった。

-大学卒業後にプロの選手になるという道を選ばれたわけですが。

ブレスロウ 今でも勉強に多くの時間を費やしている。チャリティ活動もやっているので忙しいんだけど。勉強というのは、もちろん野球について。試合のビデオをよく見ている。特に自分と似たタイプの投手が打者に対してどのようなピッチングをしているかをよく見ている。効率のよい動きやフォームについても勉強している。

僕は野球が好きで、高校のときにできるところまでやり続けたいと思った。そう思ってやってきて、今も野球を続けることができている。

身体活動は学力向上によい影響をもたらす

ブレスロウは「天が二物を与えた」学業面でも運動面でも素質に恵まれた人だ。しかし、他の人より抜きんでた素質を持たない多くの人にとっても、身体活動そのものは学力向上に役立つ。

米国では体育・スポーツ活動と学業成績の関連についての調査がいくつか発表されている。

2012年には Archives of Pediatrics & Adolescent MedicinePhysical Activity and Performance at School上で、身体活動やスポーツ活動に参加することは学業成績によい影響を与えることが発表された。

米国を中心に1990年から2010年までに実施されたスポーツと学業に関する14の調査の信ぴょう性などを調べたものだ。

子どもが運動することはメンタルヘルスや気分の安定も含めて心身に利益がある。また、身体活動は脳の働きや認知にも影響があり、そのことが学業成績に良い影響を与えているとされた。

実際の運動部活動では、長時間に及ぶ練習が家庭学習の時間を奪うこともあるだろう。休みなく負担の大き過ぎる練習を繰り返すことで、授業に集中できないケースもあるだろう。

しかし、身体活動そのものは、学業成績によい影響を及ぼすという複数の調査結果が示している。甲子園で白星を挙げた松山東やレッドソックスのクレイグ・ブレスロウのように短時間でも効率のあがる練習や勉強を追求することで、競技としてのスポーツで結果につながっている例もある。

子どもたちの能力は様々であるけれども、運動部活動やスポーツ活動の益・不利益を冷静に考えることで、子ども一人一人の「文武両道」につなげていけるのではないか。少し楽観的過ぎるかもしれないが。

スポーツライター

デイリースポーツ紙で日本のプロ野球を担当。98年から米国に拠点を移しメジャーリーグを担当。2001年からフリーランスのスポーツライターに。現地に住んでいるからこそ見えてくる米国のプロスポーツ、学生スポーツ、子どものスポーツ事情をお伝えします。著書『なぜ、子どものスポーツを見ていると力が入るのかーー米国発スポーツペアレンティングのすすめ 』(生活書院)『帝国化するメジャーリーグ』(明石書店)分担執筆『21世紀スポーツ大事典』(大修館書店)分担執筆『運動部活動の理論と実践』(大修館書店) 連絡先kiyokotaniguchiアットマークhotmail.com

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