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首都高をほぼ自動で周回可能? ベンツ新型Sクラスの運転支援システムの、驚きの進化【動画あり】

河口まなぶ自動車ジャーナリスト
筆者撮影

 先日、8年ぶりのフルモデルチェンジを果たし新型が発表されたメルセデス・ベンツのフラッグシップサルーン、Sクラス。新型は従来から定評のある高級サルーンとしての「走る・曲がる・止まる」に一層の磨きをかけた他、運転支援システムも充実。さらにボディの構造部材内に発泡剤を充填するなどして静粛性も飛躍的に向上させた。そんな中で目玉となったのは「デジタル化」。ドライバー前方には大きなフル液晶メーターを備える他、室内に巨大なディスプレイを設えるなどしてデジタル化を一気に推し進め、音声はもちろん顔や指紋認証までをも取り入れた。またドライバーが見る前方の視界に表示を行なうヘッドアップディスプレイにもARナビを映し出すなど、高級サルーンに新たな性能の指標を加えた意欲作だ。そんな新型Sクラスを今回実際に試乗してみたわけだが、そこにはまさに未来の高級車の姿があった。

 試乗して驚かされた部分は多岐にわたる。先述した「走る・曲がる・止まる」に関しては圧倒的な実力がさらに強化された印象。同社で最も大きなサルーンにもかかわらず、今回はリアアクスルステアリングという後輪操舵システムを採用したことで、まるで同社のコンパクトセダンであるCクラスのように活き活きと走るのだ。加えて後輪操舵は駐車時等も取り回しを楽にしており、最小回転半径は大きなサルーンながら5.4mという最小回転半径を実現した。また構造部材に発泡剤を充填した効果は高く、一層静粛性に優れた室内環境を提供してくれた。さらに搭載エンジンは3.0Lの排気量を持つ直列6気筒ターボだが、ISGと呼ばれる機構を備えた48Vのマイルドハイブリッドで、パワートレーンも電化された現代のクルマらしい内容となる。

 もちろん最上級サルーンらしく、後席も充実している。新型Sクラスには通常ボディとロングボディの2種類があり、ショーファー使用ではロングボディの需要が高いが、今回試乗した通常ボディでも後席はかなりゆとりのある空間が確保されている。実際に通常ボディでも全長は5210mmと長く、前輪と後輪間の距離(=ホイールベース)は3105mmにも達する。そしてここにリアコンフォートパッケージというショーファー向けのオプション(135万円)が設えられており、余裕の後席空間が広がっている。

 また今回の新型Sクラスでは、「ハイ、メルセデス」と呼びかけて起動する対話型インフォテイメントシステム「MBUX」が、運転席と助手席で聞き分けを行なって使えるのに加えて、後席も左右別々に起動することが可能となるなど、デジタル化がより推し進められていた。これにより乗員は車内での様々な操作をほぼ声のみでできるというわけだ。

 しかしながら今回筆者が最も驚いたのは、以前からメルセデス・ベンツがこの分野の先頭を走っている運転支援システムだった。今回の新型Sクラスでは運転支援システムそのものに関しては、大きなトピックといえる内容の追加はないが、これまでの運転支援システムの作動範囲や領域が広がって、より自然なものになった。ではこれがどれほど自然なものになったのか? 実際に動画を参照してほしいのだが、筆者は首都高で試乗しつつインプレッションしているが、この時に運転支援システムを起動させており、ほぼクルマ任せで運転しているほど。首都高といえば合流や分流も多く、ストップアンドゴーも頻繁だが、そうした環境において筆者は、運転支援システムをオンにして、比較的リラックスして運転ができている。しかも結構曲がっているカーブでも、ハンドルに手を添えていればある程度まではクルマの側で操舵してくれるほど。もちろん加減速に関しても前車との距離を保ちつつ、まるで人間が操作するかのような滑らかさで操作してくれる。

 それに加えて今回、トピックはドライバーの前方に表示されるARのヘッドアップディスプレイだ。ヘッドアップディスプレイ自体は以前から採用されているが、今回はここにARでナビの案内や、運転支援システムをオンしている際の情報アシストを行なっている。これは動画の中の8分43秒あたりで確認できる (クリックすると動画が開きます)のだが、前方を走るトラックを運転支援システムが捕捉していることを視覚的にわかりやすく表示しており、状況に応じて表示の大きさや色でドライバーに伝えて視覚的にも前走車の情報をアシストしているのだ。また動画の中の9分51秒あたりで確認できる (クリックすると動画が開きます)が、ヘッドアップディスプレイの中にARナビの表示が行われており、次に曲がる交差点で矢印を前方の視界に重ね合わせて表示する上に、クルマの動きに合わせて矢印をリアルタイムで動かしているのが確認できる。

 こうした機能に関しては、他メーカーでも今後送り出す新型モデルでの搭載を発表しているが、今回の新型Sクラスは既に市販のものとして搭載がなされている。これまでヘッドアップディスプレイ単体や、ARナビ自体は存在していたものの、それらを合わせてきっちりと人間の視界の中にリアルタイムで情報として提供しているのは筆者が知る限り他にはない。

 今回のメルセデス・ベンツ新型Sクラスは他にも様々にトピックのある1台だが、今回実現されている運転支援の精度の高さとそれを視認できる情報として提供するユーザーインターフェースを構築したことは、安全性の分野において大きな一歩だと筆者は感じた。未来におけるドライバーへの情報表示やインターフェースは今後さらに革新するだろう予兆がそこにあると思えたのだ。

自動車ジャーナリスト

1970年5月9日茨城県生まれAB型。日大芸術学部文芸学科卒業後、自動車雑誌アルバイトを経てフリーの自動車ジャーナリストに。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。YouTubeで独自の動画チャンネル「LOVECARS!TV!」(登録者数50万人)を持つ。

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