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【動画あり】エンジンの可能性を示す、48V電源ISG+直6搭載のメルセデス・ベンツS450

河口まなぶ自動車ジャーナリスト
写真は筆者撮影およびメルセデス・ベンツのオフィシャル写真

「電化」によって、20年ぶりに直6エンジン復活

 メルセデス・ベンツSクラスに追加されたS450は、20年ぶりに復活した直列6気筒エンジンと、48V電源のISG(インテグレーテッド・スターター・ジェネレーター)を組み合わせた新世代の内燃機関搭載モデルとして話題を呼んでいる。

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 ISG(インテグレーテッド・スターター・モーター)とは、エンジンとトランスミッションの間に置かれたモーターで、これがスターターとジェネレーターを兼ねている。これまでスターターとジェネレーターは、エンジンの前部からベルトを介して駆動していたが、ISGはこれにとって変わるもので駆動は48V電源を使って行なう。これは1kWhのリチウムイオン電池と組み合わせており、モーターを回す際に使ったり、あるいは減速時の回生エネルギーを電気に変換する役割を果たす。

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 エンジン前部のベルト駆動部がなくなったことで、エンジン自体がコンパクトになったため、これまではその長さから現代の衝突安全的に不利となって搭載されなくなっていた直列6気筒を搭載できるようになったのもポイントだ。直列6気筒はV型などと異なり、エンジンの吸気と排気が片側ずつに分かれる構造となるため、吸排気の効率や排ガスの浄化等でも有利なレイアウトも作れる。つまり48V電源を用いるISGの搭載=電化によって、直6が復活したのだ。

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 それはさておき、ISGはつまり、これまでも他社に存在したいわゆるマイルド・ハイブリッドの一種である。例えばホンダは以前のハイブリッドシステムIMAで、エンジンとトランスミッションの間にモーターを置いた構造を実現していた。またスズキはSエネチャージで、ISGという名称と機構を使っている。これはもちろんインテグレーテッド・スターター・ジェネレーターの略であるが、スズキの場合はベルト式のスターター/ジェネレーターを用いているところや、セルモーターを別に持っているところが異なる。

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 ISGはエンジンとトランスミッションの間に最高出力22ps/最大トルク250Nmを発生する電気モーターを置いている。そしてこのモーターがスターターとジェネレーターを兼ねる。しかもこのISGは48V電源システムと組み合わされているのがポイントで、通常の12Vよりも大きな電源でより大きなモーターを動かせるのがポイント。これによってセルモーターは不要となり、モーターも幅広い範囲で使えるようになる。

あらゆるシーンでISGが効果を生む

 では、ISGはどんな風に作動しているのか? これをシーン別に記してみよう。

1.エンジン始動時/始動時にはモーターがアシストしてエンジンを回すため、一般的なエンジンのようなセルの回るキュルキュルした音や振動がない。始動後のアイドリングも通常のエンジンより低い約500回転に保たれる。

2.走りだし/アクセルを踏み込むと間髪入れずスッと前に進む。通常のエンジン車の場合、アクセルを踏み込むと、エンジン回転が上がるまでのわずかな”間”があるが、これがない。まるでEVのように、静かで滑らかで力強い走りだしとなっている。

3.加速時その1/モーターによって力強く走りだし、エンジンの回転が上がってくると、今度は同じ48V電源で動く電動スーパーチャージャーが働いてエンジンの低回転〜中回転域までをカバーして、力強い加速を持続させる。つまりモーターが生み出した加速と反応の良さが持続する。

4.加速時その2/さらに中回転以降はツインスクロールターボが働いて、より高回転まで力強い加速を持続させる。つまり全域で反応が良く、力強いエンジンが実現される。

5.減速時その1/減速時はモーターが発電機になって、減速エネルギーを回生して、1kWhのリチウムイオン電池に充電を行なう。

6.減速時その2/走行モードがエコモードで減速すると、エンジンが停止して空走する「コースティング」が働く。これによってより燃費低減に貢献する。

7.再加速時/再加速するためにアクセルを踏み込むと、上記のコースティングから復帰するためエンジンが再始動する。しかしセルを使った再始動ではなくモーターによる再始動なので、振動やショックがなくエンジンが再始動する。

8.再始動時/街中の停止でアイドリングストップした際なども、上記と同じようにモーターによる再始動なので、振動やショックがなくエンジンが再始動する。

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 こんな具合にして様々なシーンで作動するのだが、結果どんなメリットがあるかというと、1.静かで滑らかで力強い加速の実現。2.エンジン始動や再始動での音や振動が皆無。3.エンジンのきめ細やかな制御で燃費削減等に貢献。 といった感じで、性能向上から品質向上、そして環境性能向上とあらゆる面にメリットが生まれる。

感動を覚えるフィーリングの良さ

 しかし何より印象的なのはフィーリングの良さで、特に発進時の軽快さは衝撃的。例えばSクラスにはこのS450の上に、4.0LのV8ツインターボエンジンを搭載したS560があり、今回比較で試乗もしたが、発進時はエンジン性能的には上となる560の方が重く感じるほど。要はそれだけモーターの威力が効いているわけだ。またエンジンの始動や再始動等に関しても、Sクラスはもともとかなり静かな部類に属すが、それでもこのISG付きと比べると若干の音や振動は感じるわけで、その意味でもS450は驚きに値するのだった。

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 また高速道路等では巡航から踏み込むようなシーンでも圧倒的な力強さを感じるわけで、これは内燃機関だけでは成立しない優れたフィーリングだと感じると同時に、今回のS450ではモーターと内燃機関の見事なハーモニーが展開されていると感じた。筆者は当然これまでにも、

ハイブリッドやEV等で感動を覚えたことは山ほどある。しかし今回このISGと直6の組み合わせには、かなり感動した。

 なぜならばメインは内燃機関の直列6気筒なのに、電化で実にフレキシブルな特性を持っていたからだ。そしてこれは今回ISGが48V電源システムで、比較的大きな出力のモーターや電動スーパーチャージャーを動かしているからこそ実現できたことといえるだろう。

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 さらに、20年ぶりに復活した直列6気筒エンジンの気持ち良さも素晴らしい。もともと”完全バランス”といわれ、振動が極めて少なく回転フィーリングにも優れる直6エンジンの気持ち良さを久々に味わうことができた。アクセルを踏み込んだ時の回転とともに響くサウンドも心にしみるものであった。そしてここに内燃機関だけでは決して実現できないツキの良さも加わり、最近では味わったことのないエンジンから快感と、これまでのV8と同等以上の速さが実現されていた。

 ISG機能付きの直列6気筒エンジンを搭載したS450を試乗して、内燃機関にも電化がもたらされることにより、より巧みできめ細やかな制御が実現したことに、今後のエンジンの未来を感じたのだった。

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自動車ジャーナリスト

1970年5月9日茨城県生まれAB型。日大芸術学部文芸学科卒業後、自動車雑誌アルバイトを経てフリーの自動車ジャーナリストに。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。YouTubeで独自の動画チャンネル「LOVECARS!TV!」(登録者数50万人)を持つ。

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