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11年ぶりに新型となったレクサスのフラッグシップ、LSを試して感じたこと。

河口まなぶ自動車ジャーナリスト
筆者撮影

伝説モデルが11年ぶりのフルモデルチェンジ

 レクサスのフラッグシップ・モデルであるLSは、既に発売されて街中で見かけるようになった1台だが、このモデルの試乗会がついに開催された。そして様々なモデルに試乗することができたので、早速試乗レポートと試乗して思ったところを書き連ねておきたい。

 実に11年ぶりのフルモデルチェンジとなったLSは、ご存知の通りレクサスというブランドそのものを象徴するモデルである。1989年にアメリカで誕生したトヨタの高級車ブランド「レクサス」のフラッグシップとして送り出されたLS(当時日本ではトヨタ・セルシオ)は、当時の自動車業界に大きな衝撃を与えた。妥協を許さず矛盾する要素を両立させる「Yetの思想」や、問題が生じればその根本までさかのぼって解決する「源流対策」を徹底して作られた初代LSは、その静粛性の高さや乗り心地の良さで当時のライバルを大きく凌ぎ、既存の高級車メーカーのその後の開発に大きな影響を与えた。つまり、その仕上がりは他の高級車メーカーに火をつけたわけだ。そうしてLSはアメリカでヒットモデルとなり、レクサスの名前を1代で築き上げ、その後の成功をもたらしたのだった。

 その後LSは進化を続け、2006年に登場した先代LSから11年を経て、5代目となる今回の新型LSが誕生した。今回はデザイン、パフォーマンス、テクノロジー、クラフトマンシップの4点を基本軸に開発に取り組んだという。そんな新型LSは、新たなGA-Lプラットフォームを採用する。これは今年の前半に登場したレクサスのフラッグシップ・クーペである「LC」でも採用された。言わば今後のレクサスの肝となる重要な新世代アーキテクチャである。

 ここに搭載されるパワーソースは2種類。3.5Lの排気量を持つV6エンジン+マルチステージハイブリッドシステムを搭載したLS500hと、3.5LのV6ツインターボ・エンジンを搭載するLS500となる。が、現在発売されているのはハイブリッドのLS500hのみであるため、まずはこちらを試乗して、伊豆のサイクルスポーツセンターまで走り、その後クローズドコースで12月18日に発売予定のLS500も試乗するという内容である。

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 試乗のスタート地点となったグランドプリンス高輪で借り受けたのはLS500h FスポーツのFR(後輪駆動モデル。他に4WDもある)。新型LSはまず、そのデザインがとても印象的で、独特の存在感を持っている。理由はそのフォルムが、サルーンとクーペの中間にあるものだからだろう。写真を見ていただければ分かるように、サイドからそのフォルムを見ると、いわゆるサルーンとは一線を画すものだと分かるはずだ。そしてレクサスのアイコンとなったスピンドルグリルも、より緻密な作りで風格を感じさせる。そしてそのグリルを内包する顔つきは、キレのある印象をもたらすヘッドライトの造形とあわせて、アグレッシブなモデルであることを主張している。

 インテリアも意欲的。ラグジュアリー・クーペのLCでも、実に複雑かつ高品質な内装を展開したが、このLSではさらに圧巻の造形を施した。例えばインパネには、助手席からセンタークラスターまで6本のラインが走るが、これは日本の琴や茶せんなどにインスピレーションを受けており、マグネシウムで作られている。また改めてみると、スイッチやつまみなどの細かなパーツも実に丁寧に作られており、いかにもフラッグシップ・モデルらしい造作だと感じる。さらにエグゼクティブというモデルのオプションでは、ドアトリムに与えられるドアノブの周りに、江戸切子を元に作った強化ガラス製の美しいパーツが与えられる他、一枚の布を折り紙のように折り重ねたハンドプリーツを採用したドアトリムなど、日本を感じさせる造形が採用されるなどしている。

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これまでの高級サルーンとは異なる文法に驚く

 グランドプリンス高輪からスタートする。LS500hのパワーソースは、3.5LのV6エンジンが最高出力299ps/最大トルク356Nmを発生し、モーターは最高出力180ps/最大トルク300Nmを発生する。これによってシステムの最高出力は359psとされる。燃費はJC08モードで15.6km/L。このクラスのサルーンと考えると、驚きの数値を実現している辺りはまさに、長年に渡って追求してきたトヨタのハイブリッド技術が背景にあるからだといえるだろう。

 走り始めてすぐに気になったのは、エンジン・サウンドだ。ハイブリッドだけに、EV走行をしていることもあれば、状況によってはエンジンが始動することもある。そうしてエンジンがかかった時に、エンジンの音が聞こえた。エンジンがかかればエンジンの音がするのは当たり前だが、このクラスのサルーンは何と言っても遮音性が高いのが当然。だからむしろ、エンジンがかかってもそれは、遠くで聞こえるのが常識でもある。しかし、そうした常識と異なり、エンジンの音が割とハッキリと聞こえたのだった。だからこの時点で、サウンドが聴こえたことは不可解に思えた。なぜなら筆者の頭は、高級サルーン=遮音しているからエンジン音は遠くで聞こえるという既成概念を持っていたからだ。

 それはさておき、走り出して首都高へアクセスする。首都高のジョイントを通過する際に、どんな所作を示すかが乗り心地評価においては重要なポイントだ。LS500hのFスポーツは、Fスポーツだからスポーティな性格上、サスペンションはより運動性能重視=通常のモデルよりカタめられている。ではジョイント通過の印象はというと、ドライバーの身体を揺する衝撃とともに19インチサイズのタイヤ&アルミホイール=重い物がブルッと揺すられる感じが強く伝わった。そしてこれは、筆者の想像以上に強い入力であり、この感覚は正直好ましいとは感じなかった。

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 この辺りの評価は個人的な感覚も関わるので難しい部分であるが、筆者が思うのはこのクラスのサルーンの場合、たとえスポーツモデルでも、ある一定以上の乗り心地の良さが担保されているべき、という意見。言い換えれば、スポーツモデルだけに乗り心地はカタいけれど、そこはやはり高級サルーンだけに基本的に優れた乗り心地の良さの中で、味付けとしてのカタさが演出されている、というような意味合いだ。そうした意味合いにおいては、これは筆者の中でのしきい値を超えたカタさだと感じたのだった。だからジョイントの通過では、結構ビシッと衝撃が入り、路面が荒れているとブルブルした振動がフロアやシートを揺する。そしてこの現象は、LSのような高級サルーンには相応しくないと感じた。

 LSで好印象を覚えたのは、大型のサルーンであるにもかかわらず、運転しているとひと回りもふた回りも小さなクルマに感じることだ。だからLS500hのFスポーツで走ってきた一般道や高速道路でもとても扱いやすく感じたし、到着した伊豆サイクルスポーツセンターで走らせると、そのひと回りもふた回りも小さなクルマに感じる感覚が、抜群のハンドリングを実現していることに寄与していると痛感させられたのだった。また、この伊豆サイクルスポーツセンターで控えていたエンジニアの方から話を聞くと、僕が不可解に感じたサウンドは今回、あえて聴かせるような演出をしているという説明を受けたのだった。

 走りの印象に関しては、動画を参照していただきたい。動画の中でも、ここまで記してきたようなことを話している。ちなみに伊豆サイクルスポーツセンターでは、Fスポーツ以外に、よりラグジュアリーな味付けのエグゼクティブにも試乗したが、こちらは乗り心地的には納得のいくものだった。しかし、さらにレクサスならではの滑らかで爽やかな乗り味走り味が追求できそうだと感じた。つまりそのポテンシャルはまだ高そうだが、磨ききれていない印象がどこかにある。そう、全体的に感じるのは、開発にかける時間が年々短くなっていることによる熟成不足も影響しているのではないかということ。事実、自動車の開発時間はどんどん短くなっており、短期間で商品化することが求められる。LSは11年ぶりのフルモデルチェンジだが、間が空いてるからといって熟成ができるわけではない。この先を戦うことになる新開発プラットフォームGA-Lを開発したら、それをすぐに商品化しなければより厳しくなった競争で生き残れない。そうした背景からすると、昔のような徹底した走り込みやそれを経ての熟成はなかなかに行ないづらい現状もある。特に今回の走りに関しては、熟成に割く時間がさらに増えれば、もっと好印象に転じるだろうとも考えられる。

久々の新型だけに力が入りすぎた?

 さて、今回の新型LSに乗ってみて感じたことをまとめてみたいと思う。今回の新型LSの印象は、11年ぶりのフルモデルチェンジに対するプレッシャーで「力み過ぎた」感がある。なぜならば冒頭で示したように、このモデルはレクサスの伝説を作ったフラッグシップであり、その後の世の中の高級車の流れを変えたほどの存在である。そうした歴史と伝統の先にある新型を開発しようと考えた時には、必然的に力が入ってくるだろう。しかし今回はそれだけでなく、11年ぶりという実に長い歳月を経てのフルモデルチェンジだっただけに、その間にライバルモデルやベンチマークは確実に進化しており、それらと相対した時に圧倒的なインパクトを持ちたいと考えるのも必然だろう。

 そうした要素が絡みあった上に、いまや時代はレクサスだけでなく、母体ともいえるトヨタですら、クルマ作りを大きく変化させようとしている背景がある。事実試乗会でいただいた資料には、レクサスのマスタードライバーでもある豊田章男氏から「初代LSの衝撃を超えるクルマを」という言葉があったと記されていた。そうした様々を鑑みれば、今回の開発は相当に悩ましいものだったし、開発陣のプレッシャーは相当なものだっただろうと容易に想像がつく。

 ただ、それだけにプレッシャーから力みが出たことも想像がつくわけで、新型LSを考え抜いた余りに、ゴールが壮大な方向へと向かったようにも筆者は感じた。というのも、まずそのフォルムはセダンとクーペの中間の、他にはないフォルムを追求した。そして走りに関しては、他の高級サルーンがもついわゆる重厚感とは異なる、ドライバーの意のままに、そしてひと回りもふた回りもクルマが小さく感じるようなハンドリングを追求した。またエンジン・サウンド等もしかりで、他とは異なる”聴かせる”方向を志向したが、そうした「これまでの高級サルーンとは違うこと」への想いが強すぎるようにも感じた。つまり今回の新型LSは、新プラットフォーム、新ハイブリッドシステム(LCでも使ったが)、新デザイン、新コンセプトの走り…といった具合にあらゆるものが新しい方向へ行こうとしており、これらを一挙に、かつ高レベルで実現しようとしているため、レクサスの得意なきめ細やかな作り込みが、特に走りの面において厳しかったと思える。

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 それだけに筆者の意見としては、これらは全て”いわゆる高級サルーン”のクリアすべき要件をクリアした上で付加されるべき要素ではないかと思える。つまり、”いわゆる高級サルーン”で実現されている、重厚感や威厳を感じさせるデザイン。重厚で落ち着きがあり、絶大なる安心感を生む優れた走り。そして世間の喧騒から離れるような徹底的な静粛性。まるで絨毯や雲の上を歩くかのような乗り心地。そうしたものをクリアした上で、他にはないフォルムを加え、スポーティな走りを演出し、サウンドも必要に応じて聴かせ、乗り心地も必要に応じて変化させる…そうした手法や演出も必要なのではないか? 

 なぜならば高級サルーンを購入するユーザーのニーズとしては、いわゆる高級サルーンの文法はある程度押さえていてほしいはず。だから基本的なものは全て他と同等以上を実現し、その上でプラスαのブランドとしての個性が表現されれば、それこそが「レクサスらしさ」だし、レクサスを選ぶ理由にもなるはずだ。しかし今回は、そうしたところを超えて先に、他とは異なる個性やスポーティさの表現に想いが強過ぎた感が否めない、特に走りに。だから確かに新しい高級サルーンなのだが、少しスポーティに行き過ぎているようにも感じる。

 実際、我々ユーザーにとっても分かりやすい「新しさ」とは、これまでの常識を踏まえつつも、そこからプラスαの要素が加わっていること。そう考えると新型LSは二歩くらい先の新世代のサルーンを主張しているようにも感じてしまうわけだ。

 もっとも、そうはいってもエクステリア/インテリアのデザインを見ていると、これはレクサスらしい個性に満ち溢れていることも分かるし、そのクオリティの高さも他にはないものを実現している。また日本の感性ならではのインテリアの仕上げ等も目を見張るものがあり、この点については、”いわゆる高級サルーン”をクリアしつつ他にはないものを見事に表現できていると感じた。

 だから今回、走りに関しては”いわゆる高級サルーン”をクリアした上で、それらのテイストを付加していけば、もっともっと良くなると思えたため、あえて厳しい評価としたのだった。しかしながら、その走りがさらに磨かれれば、世の”いわゆる高級サルーン”たちを凌駕するだろうものになるはず、という強い期待も筆者の中にはあるし、このクラスの頂点にあるメルセデス・ベンツSクラスを超えるような存在になってほしいとも思っている。

 レクサスLSに関しては、今後V6ツインターボの試乗会が開催されるとのことなので、そこで試乗してまた改めてレポートしてみたいと考えている。そしてその時には、もう一度今回試乗したモデルたちに触れてみて、違って感じられるところがあるかどうかもレポートしてみたいと思う。

自動車ジャーナリスト

1970年5月9日茨城県生まれAB型。日大芸術学部文芸学科卒業後、自動車雑誌アルバイトを経てフリーの自動車ジャーナリストに。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。YouTubeで独自の動画チャンネル「LOVECARS!TV!」(登録者数50万人)を持つ。

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