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EVシフトな今だからこそ、内燃機関を進化させる-マツダ次世代技術搭載車試乗-

河口まなぶ自動車ジャーナリスト
MAZDA SKYACTIVE-X  (オフィシャル写真)

マツダは今年の夏に、SKYACTIV-Xと名付けた新世代のガソリン・エンジンを将来的に投入することを明らかにした。そしてこの時に「今年中に実際に試乗してもらいたい」と言っていたわけだが、その機会が早くも訪れた。10月の初旬、山口県の美祢にある同社のテストコースにおいて、新世代ガソリン・エンジンであるSKYACTIV-Xを搭載するなどした次世代技術搭載車の試乗会が開催された。

マツダの新世代ガソリン・エンジンであるSKYACTIV-Xは、簡単にいえばガソリン・エンジンとディーゼル・エンジンの中間にある特性を持ったエンジンである。ガソリン・エンジンにおいて、ディーゼルのように極めて薄い混合気を圧縮着火する技術を実現することによって、燃費に優れ、トルクがあり、レスポンスもよく、出力が高く、排気浄化性に優れるという、魔法のようなエンジンを実現しようとするものだ。

ガソリンを極めて薄い混合気として、エンジンのシリンダー内で圧縮するだけで着火する技術は、これまで多くのメーカーが取り組んできたがなかなか実用化には至らなかった。理由は圧縮着火が成立する範囲が狭く、そこを外すと燃焼騒音が大きくなったり、燃焼が不安定になるなど制御が難しくエンジンとして使えないからだ。今回、マツダがそれを乗り越えたのは、実はコロンブスの卵的な発想にある。

圧縮着火というのは、プラグを用いることなく混合気を圧縮することで火を着ける技術。しかしこれは制御が難しく実用化されなかった。ならば、あえてプラグを用いることで圧縮着火を成立させる範囲を広げて制御しやすくしよう。そんな発想から生まれたのがこのSKYACTIV-Xであり、そこに与えられたSPCCIという技術。SPCCIとはSpark Controlled Compression Ignition=スパークプラグによる点火を制御因子とした圧縮着火、である。このエンジンを実際、今回は試したのだ。しかも今回は、この新世代エンジンだけでなく、それを搭載したシャシーも次世代のスカイアクティブ・ビークル・アーキテクチャーを用いて作られた次世代技術搭載車だった。

まずテストコースに着いて、現行型のアクセラを試乗した後に、次世代技術搭載車を試す。その姿は写真や動画で確認できる通り、現行型のアクセラと同じである。しかし実は同じなのはボディパネルだけであり、中身は次世代技術によって構成される、全く別物となっているのである。

そうして実際に走らせると…確かに現行アクセラとは全然違うクルマに仕上がっていた。この辺りは動画も合わせて参照していただきたいが、率直にいって、見た目はアクセラなのにその走りは上級車を思わせるクオリティが実現されていたのだった。

マツダ株式会社の常務執行役員で、技術研究所・統合制御システム開発担当である人見光夫氏いわく「この燃焼で走っていることが奇跡」と言わしめるSKYACTIV-Xは、実際に乗ってみると現状の直噴ガソリンエンジンよりも静かで滑らか、そして気持ちよくトルクが生まれる。もっともまだ開発中だけに、SPCCI燃焼をしている際と通常燃焼している時の切り替え時にわずかなギクシャク感が生まれるが、既に市販されてもおかしくないレベルまで煮詰められていると思うと驚きだ。現行のエンジンと比べると、はるかに上品で爽快だった。

一方次世代のシャシー技術であるスカイアクティブ・ビークル・アーキテクチャーは、さらに驚きの内容だった。ボディ構造やサスペンション、タイヤ等も含めて全く新しいもの。しかしながら、例えばリアサスペンションは、現行型がマルチリンク式を採用しているのに対して、次世代車ではトーションビームという、低コストのパーツを用いている。スペックを重視するユーザーからすると、コストダウンした? と思える内容。しかし走り出すと驚愕する。現行型のマルチリンク式に対して、次世代車のトーションビーム式の方が、運動性能も高く乗り心地にも優れるのである。さらにタイヤも新たな考え方をいれたものとしており、クルマ全体で快適性は極めて高く、このクラスの頂点を獲得できるだろうレベルにあった。

しかしながら運動性能も犠牲になっておらず、こちらも現行型を大幅に引き離す高いレベルを実現しており、同じクラスのクルマとは思えない操縦性の高さと一体感が存分に感じられたのだった。ちなみにこれらの技術、次世代エンジンのSKYACTIV-Xは2019年に導入されるという。また今回試したスカイアクティブ・ビークル・アーキテクチャが搭載される新型車も、2019年には市販がなされるという。

最近では世の中のニュースによって、EVシフトが起こっていることを痛感させられる。それだけにマツダのこうした取り組みに対して、大丈夫なのか? と感じているクルマ・ファンも多いようだ。

しかしマツダは、EVシフトな今だからこそ、特に今回のSKYACTIV-Xのような次世代エンジンを提案しているともいえる。というのはつまり、EVシフトが進む一方で、内燃機関がすぐになくなるわけではない。世の中ではガソリンやディーゼルのエンジン車販売禁止というニュースが流れているが、それによって今後ガソリンやディーゼル・エンジンがなくなるわけではない。むしろモーターと組み合わせられてハイブリッドやPHVを実現するための重要な要素として必要となってくる。そしてそうした時に、ガソリンやディーゼルのエンジンたちは、これまで以上に高効率でクリーンでならなければならない。また同時にマツダは今回の次世代技術の説明の中で、2019年にバッテリーEVも送り出すことをしっかりと表明している。しかしながら、まずは次世代のエンジンを今回披露したのだった。

そうしたところに目を向けると、マツダの次世代内燃機関への取り組みは実はとても重要なことだと理解できるのである。

自動車ジャーナリスト

1970年5月9日茨城県生まれAB型。日大芸術学部文芸学科卒業後、自動車雑誌アルバイトを経てフリーの自動車ジャーナリストに。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。YouTubeで独自の動画チャンネル「LOVECARS!TV!」(登録者数50万人)を持つ。

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