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狙うは電気自動車の大衆化。日産・新型リーフ発表

河口まなぶ自動車ジャーナリスト

日産自動車株式会社は本日、千葉県の幕張メッセにおいて同社の電気自動車(以下EV)であるリーフの新型モデルをワールドプレミアした。

今回の新型リーフの発表は国内に限らず全世界同時のタイミングでのワールドプレミア。こうした発表の仕方は、よほどの大物モデルでなければ行われないことを考えると、日産が今回の新型リーフにどれだけ力を入れているかが分かる。事実日産はこの2代目リーフで、よりEV市場を拡大してEVを大衆化することで、量産EVの先駆者として確固たる地位を築こうという狙いがある。

日産がリーフを市場に初投入したのは今から7年前の2010年12月のこと。それまで皆無だったEVを本格的に量産・販売したことでEV市場が形成され、“EVの日産”のイメージを確立した。実際に現在のEV市場における日産のシェアは97%であり、これまでに約8万台を販売した実績を持つ。とはいえ8万台という初代リーフの7年間における販売台数は、日産としては想定以下の満足とはいえないものだったという。そしてその要因としては、「車両本体価格が高い」「充電設備が少ない」「充電時間が長くかかる」「航続距離が短い」といった不満が背景にあったと、アンケート結果からも分析されている。

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しかし最近はEVを取り巻く環境に変化が起こりつつある。先日もフランスとイギリスが2040年以降ガソリンおよびディーゼルエンジンを搭載したクルマの販売を禁止するというニュースが流れた他、アメリカのテスラがよりコンパクトで安価な大衆版ともいえるモデル3を送り出して話題を呼んだ。さらには先日のトヨタとマツダの提携においても電気自動車の開発が示唆されるなど、世の中的にEVへの注目や関心がかなり高まりつつある。

さらに日産にとって追い風といえるのは、初代リーフを送り出した当時に比べると、充電インフラが圧倒的に充実したこと。2010年には全国に360基だった急速充電器は、2017年3月末時点で7108基と約20倍にまで増加した。また普通充電器と合わせると、実に2万8260基になっている。さらに高速道路で見ても、ガソリンスタンドのあるSA/PAは約25%なのに対して、急速充電器のあるSA/PAは40%以上となっており、長距離ドライブにおいても安心感が増している背景がある。

量産EVを送り出して7年というアドバンテージと時代の追い風、インフラの充実という状況の中で発表された新型リーフは、先に初代リーフの販売が想定以下の理由として挙げた「価格」「充電」「航続距離」を改善することが求められた。そしてこれらを徹底的につぶした上で、最近の自動車トレンドを多く盛り込んだプロダクトとして世に送り出された。

新型リーフに与えられたテーマは「change your car life!」。つまりEVによって、これまでのカーライフを変える、ということ。そのために「未体験の驚きの走り」と「未来の運転でワクワクを」という2点のアピールポイントが設定された。

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1つ目の「未体験の驚きの走り」に関しては、モーターの性能向上で最高出力は150ps、最大トルクは32.6kgmと、先代の109ps/25.9kgmから大幅な出力向上を果たした。そしてこれによって0−100km/h加速は先代比で−15%も速くなり、加速Gもおよそ2割増と力強くなった。また60−100km/hの中間加速では−30%を実現した。モーターならではの圧倒的な加速で、未体験の走りを提供しようという狙いだ。

またEVならではの静粛性の高さに関しても今回は遮音材等を増やすなどして徹底的に対策を行い、100km/h時の車室内の騒音レベルは、欧州のプレミアムクラス(メルセデス・ベンツEクラスやBMW5シリーズを指す)並みの静粛性を実現したという。

また先に登場して新車販売台数で日産を久々のトップに輝かせたノートe-POWERでも採用したワンペダルドライビング“e-POWERドライブ”をより進化させて、“e-Pedal”として搭載。ノートe-POWERでは実現できなかった、アクセルオフで自動的にブレーキがかかった後に停止保持する機能が加わった。これによってさらにブレーキいらずで走行可能なワンペダルドライビングを実現している。またアクセルから足を離した際の減速は、モーターの回生に加えて通常のブレーキをうまく融合して使うため、滑りやすい路面等でも高い安定性を持って減速できるのも特徴だ。

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しかし極め付けは何といっても、EVならではの不安を解消した航続距離400kmを実現したことだろう。新開発された40kWhのバッテリーを搭載したことで、先代モデルの登場当初からすると約2倍の航続距離を実現した。しかもこれは、先代と比べてバッテリー容積はそのままで、容量を拡大しているのがポイントとなる。つまり空間は犠牲にせずに容量拡大ができた。また重量増もわずかなものに抑えた。

そして2つ目の「未来の運転でワクワクを」に関しては、先にセレナで初搭載し、その後エクストレイルにも拡大した同一車線内自動運転技術である“プロパイロット”を、EVとしては初めて搭載したこと。また合わせて新型リーフでは、“プロパイロット・パーキング”と呼ばれる新機能を搭載した。

このプロパイロット・パーキングは駐車時に、専用スイッチを押し続けるだけで、クルマがハンドル/アクセル/ブレーキ操作を全て自動で行なって駐車し、さらにパーキングブレーキまで自動的にかけてくれる機能。駐車の向きも一般的な車庫入れの他に、縦列駐車、またEVならではの前向き駐車(充電時に鼻先から行うため)にも対応した。

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つまり新型リーフは、現在の日産が推し進めている「電動化と知能化」を最先端で具現化した1台ともいえる。

そして注目の価格だが、315万360円〜399万600円を実現。性能向上や装備内容の充実を考えると、コストパフォーマンスもかなり高まっており、EV購入時の懸念の一つである価格に対しても、ひとつの解答を示したといえる。

この他、今回の発表会で新型リーフは日本の追浜工場、アメリカのスマーナ工場、イギリスのサンダーランド工場の3拠点で生産され、日本では10月2日、アメリカでは12月、ヨーロッパでは2018年1月から販売が開始されるとアナウンスされた。

さらにリリースには、2018年には出力を向上したモーターを搭載しながらも航続距離を伸ばしたハイパフォーマンスモデルが発売されると予告されている。

果たして2代目となる新型リーフは、世の中のEV市場をどのように変えるだろうか? 先述したテスラのモデル3も今後世界中に導入されていくと同時に、2020年にはトヨタやホンダ、スバルもEVを送り出すという声が聞こえており、今後の自動車の世界においてEVはますますそのシェアを広げていくことは間違いない。そうした状況の中で、この新型リーフの販売台数の推移は、世界中の自動車メーカーが注目するだろう。

発表会の後に、日産自動車株式会社・専務執行役員の星野朝子氏に話をうかがったが、発表会の壇上でも宣言したのと同様に「今回のモデルは初代の少なくとも2倍、さらに3倍の販売が可能だと確信している」と繰り返した。その理由としては、航続距離の増加・プロパイロット・プロパイロットパーキングなど従来よりも内容を充実しながらも価格は先代とほぼ同価格帯にあるからだという。また「いまユーザーのアンケートでも次に買うクルマは電気自動車、という答えがここに来てかなり増えているからです」とも語っていた。そして最後に「ガソリン、ディーゼル、ハイブリッド、PHEVなど様々にパワーソースがあるが、日産にとって今後の主流となるパワーソースは?」という質問に対しては、質問を言い終わる前に力強く「EVです」と答えたのだった。

果たして今後世の中の自動車はEVが主役となるのか? またはガソリン/ディーゼル/ハイブリッド/PHEVと様々なパワーソースの選択肢が増えた中から、リーフのような大衆化を目指すEVがどのようなシェアを形成していくのか? などなど、様々な点が興味深い。

つまり新型リーフは、EVの民主化/大衆化における試金石といえる1台でもある。

それだけに、この新型リーフの販売状況次第では、一気にEV市場が加速する可能性も秘めているのである。

日産LEAFのウェブサイトはこちら→https://www3.nissan.co.jp/vehicles/new/leaf.html?rstid=20140314rst000001001

自動車ジャーナリスト

1970年5月9日茨城県生まれAB型。日大芸術学部文芸学科卒業後、自動車雑誌アルバイトを経てフリーの自動車ジャーナリストに。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。YouTubeで独自の動画チャンネル「LOVECARS!TV!」(登録者数50万人)を持つ。

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