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【独創か世間体か?】ホンダ・フィット 77/100点【河口まなぶ新車レビュー2017】

河口まなぶ自動車ジャーナリスト

【成り立ち】

 現行モデルのホンダ・フィットが登場したのは、2013年9月のこと。今回のフェイスリフトは、いわゆるモデルライフ中盤に設定される典型的なマイナーチェンジである。2013年に登場した際、先代を継承しつつも発展させた新世代プロットフォームを用いたほか、搭載するハイブリッドシステムもi-DCDと呼ばれる、DCT(デュアルクラッチトランスミッション)を組み合わせた新世代のハイブリッドシステムを与えたことで話題になった。しかしながら登場以降リコールを頻発しており、国内販売で苦しむホンダの企業体質を重ね合わせて論じられたりもしている。とはいえ新車登録台数では、マイナーチェンジ直前でもベスト10に入るだけの人気車種である。

【デザイン:75/100点】ライバルよりも目を引くものに。しかし本質的には…

 ホンダ・フィットのデザインの要といえるのは、ライバルである他のコンパクトモデルとは明らかに一線を画した、センタータンクレイアウトによって生まれた極めて実用的な室内を中心とした独特のフォルム。これが他のコンパクトモデルとは明らかに違う存在であることを物語っている。

 事実、フィットを横から見ると、センタータンクレイアウトを採用したことによって室内の縦方向にゆとりを持っていることを示すフォルムとなっている。コンパクトカーだけどちょっと背高で、いわゆるノーズとキャビンに別れるタイプのデミオなどと比べると、明らかにスペースユーテリティに満ちた実用車であることを物語る。それだけにズングリムックリした感じであって、スタイリングのカッコ良さ、という意味ではデミオにかなわない。しかしながらそれは言い換えれば、機能を体現したカタチ、でもあり、フィットのような実用車としてはむしろ、このカッコ悪さが”使える存在”を証明しているともいえるから、決して悪いとも思わない。むしろ機能に寄り添った真摯なカタチともいえる。

 ただ、それだけに残念なのは今回のマイナーチェンジにおけるフェイスリストが、いわゆる「化粧直し」を強く感じさせるところだ。もちろんフェイスリフトによってデザインをリファインして、ライバルに対して新鮮味を保つ、ということがマイナーチェンジの意味であることは承知だ。しかし、今回のフェイスリフトを見ていると、前述したようなデザインが体現する機能性や実用性よりもむしろ、細かなところでの煌びやかさを増すことに注力しているように感じてしまう。

 マイナーチェンジ前のデザインは、比べると煌びやかさはないものの、機能性や実用性に優れた道具としてのシンプルだが飽きのこないデザインがある程度感じられたこともあって、余計にフェイスリフト後が派手に見えてしまう。事実今回のフィットの顔つきは、メッキパーツやグロスブラック系の範囲を拡大するトレンドにしっかりとのったものとなっているわけだが、出自が機能や実用を謳う存在なのに派手なメイクを施したチグハグさが、なんとも言えない感じを生んでいる。

 もちろん、フェイスリフトして見栄えが良くなり新鮮味を保つことは何よりも大切ではあるが、どこか本質が薄れた気がするのも筆者の本音だ。

【走り:75/100点】細かな部分を徹底的に磨き込んだ

 現行フィットの走りで気になったのは、やはりi-DCDを採用したことによるデュアルクラッチトランスミッションの特に低速時や発進時でのギクシャク感だろう。これも度重なるリコールや改良等によって進化して、回を重ねるごとに熟成されてきた感があり、今回試乗したモデルでもかなり気にならないものになったといえる。

 また今回、最も上級となるハイブリッドSでは、フロントガラスにも遮音材を採用したほか、他のモデル同様に室内の遮音材や防振材などの範囲を増やすなどしたことで、高い静粛性を手に入れたのが特徴だ。実際にハイブリッドSを走らせると、その静けさは確かにクラスで見てもかなりのものといえるだけの仕上がりを見せている。またハイブリッドSではなくとも、走らせて率直に静粛性が向上したことが分かるものとなっている。

 同時に今回のマイナーチェンジでは、ボディの各部にまで手を入れてボディ剛性の向上を図っている。ボディ剛性が向上したことによってサスペンションがよりよく動くようになり、乗り心地も向上するという理屈だ。そしてこれも実際に走らせると、確かに効果を生んでいることを確認できる。コンパクトカーの場合、音や振動、乗り心地などから走らせると安普請な印象を受けることがあるが、そうした部分はしっかりと払拭されている。

 マイナーチェンジ以前から、特に走りが楽しいとか気持ちよいという部類にはなかったフィットだが、このマイナーチェンジよって以前よりも快適に走れて使えるクルマへと成長したことは間違いない。

 

【装備:80/100点】安全運転支援システム、ホンダセンシングを採用

 上級モデルでは採用されていた安全運転支援システムであるホンダセンシングを、上級モデルには標準装備したのが今回のポイントだろう。衝突軽減ブレーキをはじめとして、誤発信抑制機能、歩行者事故低減ステアリング、路外逸脱抑制機能、アダプティブクルーズコントロール、車線維持支援システム、先行車発進お知らせ機能、標識認識機能等を採用している。

 ただしアダプティブクルーズコントロールは全車速域対応ではなく、30~100km/hの範囲で作動するもの。30km/h以下では解除されるため、完全停止はサポートされていない。

 RSグレードではMTモデルにもアダプティブクルーズコントロールを採用しているのがポイント。MTとアダプティブクルーズコントロールの組み合わせは珍しい。

 またメーカーオプションとなるインターナビでは、アップルのカープレイやアンドロイドオートに対応するなど、イマドキの装備をしっかりと搭載している。

【使い勝手:85/100点】未だ光るセンタータンクレイアウトの優位性

 フィットはセンタータンクレイアウトを採用しているため後席の足元がフラットであり、これを活かした後席のチップアップ機能によって縦方向にかさばる荷物もしっかりと収納できるという、他のモデルにはない強みがある。例えばこの機能を活かすと、背の高い鉢植えの植物なんかも簡単に積載できるし、後席を倒してフラットにすれば、自転車等もほぼそのまま積載できるだけの能力がある。

 筆者はFaceBookで自転車のコミュニティ「大人の自転車部」を主催しているが、約1万8000人のメンバーにアンケートを取ったところ、意外にホンダユーザーが多いこそ、中でもフィットを使っている方が意外に多かったのが印象的だった。自転車などのアクティビティと聞けば、ミニバンやSUVというイメージが強いが、そうした中でもコンパクトカーのフィットが選ばれていることは、このモデルがいかに小さいながらも使い勝手に優れているかの証でもあるだろう。

【価格:80/100点】

 ガソリン車の13G・Lホンダセンシングは165万3480円と、諸費用込みでも余裕で200万円以内に収まり、ハイブリッドLのホンダセンシングで207万9000円と、諸経費込みでも250万円以内に余裕で収まることを考えると、コストパフォーマンスはなかなかに高い。最上位のハイブリッドSホンダセンシングは220万5360円で、ハイブリッドLホンダセンシングに比べて約13万円高だが、静粛性の高さに加えて見た目の充実(バンパーやホイールなど)を求めるのであれば、こちらの方がコストパフォーマンスは上といえる。ちなみにデミオはガソリンモデルの機能充実モデル13Sツーリングが170万6400円。ディーゼルの15Sツーリングが198万7200円。デミオを選ぶ人は機能よりも走りやデザイン等への要求が高いだろうから、フィットと比べて迷う人は多くないだろうが、価格的には良い勝負といえる。

【まとめ:77/100点】

 日本のコンパクトカーの代表モデルであるフィット。言うまでもなくその実力は高く、コストパフォーマンスに優れた1台て言って間違いないだろう。また今回のマイナーチェンジによって細かな部分まで徹底的に手が入って、さらに質の高いコンパクトカーへと成長したといえる。

 もはやハイブリッドモデルを含めて、普通の人がことさら意識せずに変えるモデルにまで成長した。さらにホンダ・センシングを搭載したことで、安全運転支援システムをも搭載しているのだから現時点ではやり切れることはやった感も漂っている。

 

 ただ、コンパクトカーとしてせっかく独自の立ち位置を持っているにも関わらず、こと日本のコンパクトカーというくくりの中に収まろうとする辺りは、やはり台数を稼ぐ量販車だから仕方ないのか、それともホンダが保守的だからなのか? 例えば、他のコンパクトカーに比べて圧倒的に優っている道具としての実用性の高さや機能性の高さをもっと活かして、異なる立ち位置にいくことも可能な気もするが、その辺りを強く言わないのはホンダ自身にかつてのようなチャレンジングが意思が薄れたからだろうか? と様々なことを想わせる。

 使い勝手のところで記したように、趣味の自転車とともに使うようなシチュエーションも比較的多く、こうした視点からみても、やはりフィットは実用性と機能性のクルマであり、そこをしっかり作り込めるのがホンダらしい部分ともいえるわけで、この点は他に対するアドバンテージになっている。

 そう考えるとやはり、ホンダは他のブランドとは異なる価値観で商品を生んでいく方が良いようにも思えるのだが…もはやこれだけ大きなメーカーとなると、そうした冒険よりも確実な収益等を追求するのが優先だろうか。

 マイナーチェンジしたフィットは、日本のコンパクトカーとして高い商品性を確かに持っていると評価できる一方で、何かやはり、どこかで隣のライバルを常に気にして本意ではないところで心砕いているようにも見えるのは気のせいか。

 全く悪くない1台だと思うけれど、どこかで「ホンダならもっと面白いはず」と感じてしまうのは、筆者のホンダに対する期待が高すぎるからだろうか?

※各項目の採点は、河口まなぶ個人による主観的なものです。

自動車ジャーナリスト

1970年5月9日茨城県生まれAB型。日大芸術学部文芸学科卒業後、自動車雑誌アルバイトを経てフリーの自動車ジャーナリストに。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。YouTubeで独自の動画チャンネル「LOVECARS!TV!」(登録者数50万人)を持つ。

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