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【魅力的だが課題もあり】スバルXV  82/100点【河口まなぶ新車レビュー2017】

河口まなぶ自動車ジャーナリスト

【成り立ち】新世代のグローバルプラットフォームを採用した第2弾モデル

スバルが送り出したコンパクトSUVの新型XVは、同社の新世代グローバルプラットフォームを採用した第2弾となるモデルである。昨年登場したインプレッサとほぼ同じものを用いており、インプレッサよりも車高をあげてSUV化したモデルとなる。

そうした成り立ちからもわかるように、開発はインプレッサとほぼ同時期に行われている。かつてXVはインプレッサの派生モデルとして誕生した経緯があるが、現在では同じプラットフォームを使うインプレッサのファミリーの中では、世界的なセールスで見るとむしろ「主役」であり、車名も先代からはインプレッサから独立した存在として「スバルXV」とされている。

今回の新型で特徴的なのは、これまではラインナップされていなかった1.6Lエンジン搭載車が用意されたことだろう。時代の流れもあって、日本市場においても人気となってきたこのモデルは、先代では2.0Lと2.0Lハイブリッドの2種類しか存在しておらず、それがゆえに価格的にも決してリーズナブルではなかったため、「欲しいけれど…」というユーザー層が確実にいた。そこで今回は1.6L搭載モデルを用意することで、税抜きの車両価格で200万円を切るリーズナブルな価格を実現することで、より多くのユーザーを獲得することを狙っている。

【デザイン:80/100点】ある意味最もスバルらしい?

スバルのデザインは年を追うごとに洗練されたものになりつつある印象だが、それでもどこか垢抜けない感覚がある。例えばそれはよく、マツダと比較されることが多いが、やはりデザイン・テイストを徹底して揃え、ボディカラーにまで意味を持たせているマツダと比べると、水をあけられている感覚はある。もっともスバル・ファンにとっては、マツダのように洗練されすぎていないところが良い、という意見も多いわけだが。とはいえ、内外装のクオリティを含めて、もう少し質感の向上を望みたいのが本音。グローバルプラットフォームを用いたインプレッサからは質感も向上しているが、それでも世界やライバルからすれば、商品としてはさらなる向上が求められるだろう。

どこか垢抜けなくて、武骨…が世の中的なスバルのデザインに対する印象だろうが、このXVにおいてはそれがポジティブな方向に効果していると思える。特にSUVということもあって、アクティブな使い方を想像しやすいジャンルだけに、スバルならではの垢抜けない感じや武骨さはむしろ、このクルマのキャラクターにピタリとハマっていると感じる。

またXVは先代においても、スバルのラインナップの中で見た時に、最もポップな感覚があるグッドルッキングな1台だった。例えば先代XVはオレンジやカーキなど、他がなかなか採用しないボディカラーを積極的に採用して、その世界観とともに注目を浴びた他、アルミホイールのデザインも印象的で、スバルの中では異色の存在でもあった。新型ではそうした部分もやはり受け継いでおり、ブルーグレーっぽい新色の採用や、これまでにないレッドを用いるなどしている。結果やはり現行のラインナップの中で見ても最も楽しそうなアクティブライフを想像できるようなデザインとなっている。

一方でインテリアは基本的にはインプレッサと同じである。わずかに異なるのは、ハンドルやシートのステッチにオレンジを用いてポップな雰囲気を与えたことだろう。この辺りに関してはXVならではのプラスαが欲しいのが本音だが、車格や価格を考えると専用品を多く用いるのも難しいのが実際だろう。

とはいえ、全体的に見て新型XVのデザインは、このクルマとの生活やこのクルマがあったら様々に楽しめそう、という想像がしやすいものとなっており、加えてアクティブライフにおけるスバルの優位性である4WDシステムなどを含む、機能を感じることのできる見た目も持っている。そうした意味では、生活の中で相棒となってくれる機能的なクルマを明確に表現している。またスバルは「安心と愉しさ」を社のキャッチフレーズとしているわけで、そうしたワードを表現しているもっともスバルらしいデザインと筆者は感じる。

スバルXV 2.0i-L公道試乗動画はこちら。

【走り:85/100点】1.6か2.0か、17インチか18インチか

走りの印象は2つの試乗動画を参照していただきたいが、新型XV全体で見た時に最も悩ましいのはやはり、エンジンを1.6Lにするか2.0Lにするか? という部分だろう。というのも、走りに関してはどちらのエンジンも好印象であることは間違いないのだが、実際の使い方などに照らし合わせて購入を意識すると、悩ましい部分も多い。

なぜなら車両価格的には当然1.6Lの方が税抜き200万以下、消費税込みでも213万8400円からとリーズナブルな設定だが、JC08モードの燃費性能をチェックすると、新型XVは1.6LがJC08モードで16.2km/Lとなり、2.0Lが同モードで16.4km/Lと燃費性能でわずかに上回る(2.0Lの上位モデルは16.0km/L)。そしてこの辺りが、実際の生活の中での使い方とリンクしてくる。特に街中を中心に、生活の足としてメインにXVを使うならば1.6Lで良いだろう。性能的にも十分以上といえる。

しかし、遠出が多く高速道路等を多く使う場合は2.0Lの方が良い。これは動力性能が高いからラク、ということももちろんあるのだが、それ以上に動力性能が高いので、アクセルを大きく開けずに使える…という部分が大きい。もともと1.6Lより2.0Lの方が燃費が良い上に、力が必要な加速時などは1.6Lだとついついアクセルを踏みがちになるため、余計に燃費にも悪影響を及ぼす。その意味でも2.0Lの方が良い…と考えると、何かと2.0Lの方がゆとりを感じる走りが得られる、ということになる。

ならば1.6Lは選びがいがないかといえばそうではない。実際に試乗したフィーリングからも、走りが軽快でクルマ全体が軽やかに感じるのは1.6Lの方で、普段使いならこのフィーリングの方が気持ち良く乗れるわけだ。またエンジンそのもののフィーリングも、1.6Lは直噴機構ではない通常のポート噴射のエンジンのため、2.0Lよりも回転の軽快さなどが印象的。もっともそれが燃費とはリンクしない要素なのだが。一方2.0Lはフィーリング面では1.6Lに譲るものの、実際に踏んだ時のゆとりあるフィーリングやパワフルさがこのモデル的にはマッチしているとも判断できる。このため、実際に購入する際にはエンジン選びも悩ましいところだ。

またそうした走りの印象に大きく関わっているのはタイヤサイズで、XVの場合はグレード等によって17インチと18インチの2種類が採用されている(1.6Lは17インチ、2.0Lはグレードによって17インチと18インチがある)。XVは新型となったことで、17インチ/18インチとも基本的に乗り心地は先代以上のものへと向上を果たしたことは間違いない。もともと先代XVも当時のスバルのラインナップの中では悪くなかったが、今回も現行ラインナップの中で見てもかなり上位にある乗り心地を実現できたといえる。なので、基本的に乗り心地は悪くないのだが、その前提の上で17インチと18インチの細かな部分を見ていくと悩ましい。1.6Lは17インチのみだが、グレードによって17インチと18インチがある2.0Lを買う人にとっては、この辺りも気になるところだろう。

17インチは端的にタイヤの偏平率も高いため、タイヤのサイドウォールに厚みがあり、タイヤそのものに弾性がある。このため路面からの衝撃等に対しての吸収が良く、乗った印象としては主に街中等でしっとりした良好な感覚が得られる。一方18インチはタイヤの偏平率が低くなるため、タイヤのサイドウォールの厚みはなくなり、タイヤそのものの弾性は現象する。これによって路面からの衝撃等に対しての吸収はわずかに17インチに劣り、乗った印象としてはややゴツゴツした感覚として伝わる。ならば18インチより17インチの方が乗り心地が良い、ということになるのだが、そんな単純に話は終わらない。17インチは主に街中で乗り心地の良さを感じるが、高速道路等で走ると今度は逆に先に記したタイヤの厚みや弾性からか、少し落ち着きが足りないような感覚を覚えるのだ。一方で18インチは街中で多少ゴツゴツとした印象を与えていたものの、高速道路等で走ると今度は逆に、先に記したタイヤの厚みや弾性の少なさからか、路面にピタリと吸い付く感じが増してくるのである。

もちろん、17インチも18インチも基本的に乗り心地は悪くないが、乗り比べるとこうした悩ましさがあることは覚えておいても良いだろう。事実、これは購入を前提として試乗すると気になる部分になってくるからだ。

ただ、それはさておき、基本的な走りの良さは他のスバル車および新型インプレッサ同等以上で、SUVにも関わらずハンドル操作に対するクルマの動きも実に素直。また高い車高がある意味インプレッサよりもゆとりを感じさせる走りを生み出してくれるため、走り全体に豊かな感覚をプラスαしてくれるところもポイントだ。おしむらくは、これでトランスミッションがCVTでなく、ツインクラッチ等のトランスミッションだったら、水平対向エンジンそのものの気持ち良さと乗り心地の良さ、ハンドリングの良さをさらにダイレクトに味わうことができるだろう…というのは無いものねだりではあるが、そこを想像してしまうのも本音といえる。

では、筆者ならば購入するならどのモデルか? と考えてみたのだが、やはり2.0Lの18インチを装着する2.0i-Sアイサイトを選ぶだろうと思えた。なぜならば自分で使うとすると自転車やトライアスロンの移動の道具としても考えるため、高速での移動も少なくない。そうしたシーンを想像すると燃費的にもよく、動力性能的にもゆとりのある2.0Lとなるし、やはり高速を走る時のピタリと吸い付く感じで18インチを優先するだろう…といった具合だ。

【装備:80/100点】装備には満足だが…

今回のXVでは、もっともベーシックな1.6iアイサイト以外に、X-MODEと呼ばれるオフロードを極めて走りやすくする機能が装備されている。これは上級のフォレスターに装備されていたものと同じで、雪道などでのタイヤが空転するようなシーンでも、エンジン/トランスミッション/AWD/VDCなどを統合制御してスムーズな脱出を可能にしてくれる。

自動ブレーキはもちろんのこと、アダプティブクルーズコントロールもしっかりと全車速対応をしたアイサイトのヴァージョン3を搭載するXVだけに、最新の安全装備は全て備えているといえる。さらにインプレッサ同様に歩行者保護エアバッグを備える他、衝突安全に関してはお墨付きを得るほど優れたものとなるので、この辺りは購入する際の安心材料として非常に大きいだろう。

が、技術の進化は早いもので、同じスバルから先日発表されたレヴォーグ/WRX S4に関しては、さらに進化した「アイサイト・ツーリングアシスト」を備えた。これは高速道路の渋滞等で、ほぼ自動運転といえる支援を行なう機構。XVにも基本的に同じような機構は備わっているのだが、レヴォーグやWRXS4のそれは制御とその範囲が拡大されており、より安心して使える装備となっている。この点を重視して選ぶ人にとってはレヴォーグが魅力的に映ることは間違いないだろう。もっとも新型XVでは、その他の快適装備等は文句なしに揃っているので気になるとすればこの一点のみということになる。

【使い勝手:80/100点】もっともっと使い勝手が良くなりそう

実際に数日試乗してみて、著しく気になるようなところはなかった。ただ強いて言うならば、もう少しここがこうだったら…的な部分はいくつかあったので記しておきたい。

まず一点目は、アイサイトのスイッチ類の操作性。アイサイトそのものは、国産ブランドの中で見ても最も完成度が高く、群を抜く仕上がりとなっている。しかしハンドルに内蔵されたスイッチ類の操作性は慣れを要するものである。もっともこれは、他のブランドのスイッチ類でも同じことがいえる。ハンドルのスポークに4つくらいのスイッチがあり、それを操作するのだが、これをもっと改良して操作を集約したスイッチに変更することは可能である(輸入車の一部には非常に操作しやすいものがある)。せっかくのお家芸ともいえるアイサイトなのだから、それを実際に使わせるという意味でもスイッチ類のレイアウトや操作性を改良すれば、この分野で誰も追いつけない領域にいけるはずである。

そして二点目は、メーター周りの視認性だ。基本的にインプレッサと同様のレイアウトを持つが、速度計と回転計の間に液晶パネルが入り、ここにアイサイト等の情報が表示される。またダッシュボードのセンター上方にも液晶ディスプレイが与えられ、ここにも燃費他の様々な上方が表示される。さらにナビの画面がダッシュボード中央に存在し、ここにもナビ等が表示される…といった具合で、視点を移動する要素が多くなっている。これはドライビングを考えた時に、少ない方向へ集約すべきと思える。

実際に数日試乗していると、視点の移動の多さを感じるし、XVではこのほかにメーターの向こう側にアイサイトが作動しているかをガラスの下端に色で表示する仕組みもあるため、実に情報量が多くなってくる。この辺りを集約したメーターや表示系が今後は求められるのではないかと感じたのだった。

もっともこの二点は、強いて言えばの話であり、今後の進化の際に期待したいことなので、あくまでも希望という部分の話である。またSUVであることを考えると、このクラスでもトレンドといえるハンズフリーのトランクオープナーを用意するなどの配慮も今後は必要かもしれない。

【価格:85/100点】税抜き200万円を切ってより身近に

1.6Lモデルを用意して、税抜きで200万円を切った価格設定は、人気のコンパクトSUVを広めるのには有効な手段といえる。1.6iアイサイトで213万8400円、装備充実の1.6i-Lアイサイトで224万6000円という価格はライバルに対しても競争力がある。一方2.0i-Lアイサイトは248万4000円、最上級ともいえる2.0i-Sアイサイトは267万8400円となり、300万円以下に全て集約されている点も選びやすいといえるだろう。

もっともライバルとなるだろうホンダ・ヴェゼルは、1.5Lのガソリン・エンジン搭載のベーシックモデルが192万円で、4WDは213万6000円と1.6iアイサイトとほぼ同じ価格。安全装備ホンダ・センシングが搭載されたモデルでも、XVより割安感がある。ただしホンダ・センシングよりもアイサイト・バージョン3の方がより高度な装備となるので、この点ではXVが勝るといえる。

またトヨタC-HRは、ガソリンエンジンは1.2Lターボでベーシックモデルが251万6400円と割高にはなるものの、安全装備的には同格ともいえるので比較されることも多いだろう。

しかしながら一番のポイントは、ヴェゼルやC-HRにはハイブリッドモデルがある、ということだろう。価格的にはC-HRは割高になるものの、ヴェゼルは250万円前後の価格のものがあり、そのインパクトは強いといえる。ヴェゼルに対しては安全装備で勝るXVだけに、まだ勝負できるが、ヴェゼルに全車速域対応のアダプティブクルーズコントロールが装備されるなどすると、そのアドバンテージは減少していくといえるだろう。

【まとめ:82/100点】とてもトータルバランスに優れた高い商品性。ただ唯一の弱点は…。

XVを総じてみると、デザインよし、走りよし、そして安全装備はこのクラスでトップレベルと、実に申し分のない内容であり、実にトータルバランスに優れた商品性の高い1台だと評することができる。実際に先日、発売後約1ヶ月で1万1085台を受注して好調なスタートを切ったというニュースも報じられた。その意味では、ユーザーにしっかりと選ばれる1台であることも間違いないだろう。

注目なのはスバル以外からの乗り換えが6割にも達していることで、スバル・ファン以外にしっかりとアピールできる商品性があることを証明しているといえる。ちなみに購入した方の80%が2.0Lを選んでおり、その中でも最上級の2.0i-Sアイサイトは全体の40%が選んでいるという。

筆者も数日間に渡って試乗を行なって、このモデルが人気になることを体感できた。しかし、そうした好印象の中で唯一気になるのは、やはり燃費についてである。水平対向エンジンとリニアトロニックCVTの進化も手伝って、カタログ値ではリッター16.0km近辺を謳っているものの、やはり何も意識せずに走らせると燃費はリッター13.0km近辺となった。もちろんこれとて、ひと昔前からすると悪くない数値

ではあるものの、最近はハイブリッドモデルやディーゼルモデルのメジャー化も相まって、決して良い数値とはいえないのが現状だ。またスバルの場合は駆動方式はほぼ全てのモデルでAWDであることがウリだが、これが逆に燃費の面ではFFモデルも用意する他車に差をつけられる要因ともなっている。

もちろんこうした”弱み”に関してはスバルも認識しており、さらなる改良を図っていく部分ではあるようだ。とはいえ、このクラスのモデルで4WDであることを鑑みても、やはり感覚的にはリッター15km/Lくらいを達成してくれるとユーザーとしてはありがたい。

そして弱点があってもなお、新型XVはコンパクトSUVとして非常に魅力的な商品であることには変わらないが、やはりこの点は購入時に頭にいれておきたいところだろう。

※各項目の採点は、河口まなぶ個人による主観的なものです。

スバル新型XVの初試乗動画はこちら。

自動車ジャーナリスト

1970年5月9日茨城県生まれAB型。日大芸術学部文芸学科卒業後、自動車雑誌アルバイトを経てフリーの自動車ジャーナリストに。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。YouTubeで独自の動画チャンネル「LOVECARS!TV!」(登録者数50万人)を持つ。

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