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スバル衝突試験で分かった最先端の「衝突被害状況」【動画アリ】

河口まなぶ自動車ジャーナリスト

「それでは試験を始めます。危険ですのでレーンには立ち入らないようお願いします。カウントダウン、5、4、3、2、1、スタート」

するとレーンをクルマが滑走してくる音が、だんだん大きくなってくる。

シューッ、ズドン。

衝突してから、わずかコンマ3秒。

ちょうどこの日が発売となるスバルの新型XVが、アルミハニカムでできたバリアへ64km/hの速度で衝突し、フロント部分がクシャクシャになるとともに車内では各種エアバッグが展開。そして衝突の衝撃で一瞬宙に浮いた後、後方へ少し飛ばされて停止した。

本当に一瞬のできごとであった。

スバルはこの日、同社のインプレッサおよびSUBARU XVがNASVA(自動車事故対策機構)によって発表されたJNCAP(自動車アセスメント)の衝突安全評価において歴代最高得点(208点満点中199.7点)を獲得し、衝突安全性能評価大賞を受賞したことを受けて、メディア向けに同日発売となった新型XVの衝突試験を公開したのだった。

この衝突試験は昨日、本日で実に多く報道されたので、ご存知の方も多いだろう。

ニュースの多くはこの試験の様子と、株式会社スバルが掲げる「モノをつくる会社から、笑顔をつくる会社へ」という言葉を実現する裏側には、以前から掲げる「安心と愉しさ」があり、その安心を担保しているのがスバルの総合安全であって、他社よりも強く安全性を強調していることが報道されたのだった。

そこで私・河口まなぶとしては、そうしたニュースの中で実際に衝突試験に用いられた新型XVの衝突状況を見て、コメントしておこうと思う。まずは写真をみていただきたい。

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今回、新型XVが行なったのは「オフセット衝突試験」。これは車両の正面から40%をアルミハニカムのバリアに64km/hで衝突させる試験である。フロント周りの破損具合から相当の衝撃があったことが分かる。が、注目すべきは破損部分がフロントのみに終始していること。

前方からブツかったのだからフロント部分だけが壊れるのは当たり前…のように思えるが、衝突時のエネルギーは数十Gにもなるわけで、このような衝突レベルではこれまで他の部位にも被害が及んでいた。写真で見ると新型XVはフロント周りがグシャグシャの状態だが、以前に筆者が見た他メーカーの最新の衝突試験(もう何年も前のこと)では、フロントガラスに破損があったり、Aピラー周り(フロントガラス横の柱)に変形が見られたり、ルーフラインが変形していたり…というような状況だった。それが最新の衝突安全では、フロント周りでの衝撃吸収が実に巧みに行われており、他の部分への被害を軽減していることがわかる。

事実、この写真から新型XVはフロントガラスが割れておらず、Aピラー周りにも変形が見られない。これはフロント部分でしっかりと衝撃を受け止めている上に、ルーフラインやサイドステップ等における前後へ走るメインの構造材において、しっかりと衝突の反力を受けているからだということがわかる。またそれがゆえに、フロントのドアは左右とも普通に開閉できるくらい、室内は。この事実は、車内から乗員を助け出す際にも大きなメリットとなる。

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さらにこの写真は、折れ曲がったボンネットの中にカメラを入れて撮影したもの。ボンネットが折れ曲がる構造によって、フロントガラス等に当たらない工夫をしているのもポイントだが、さらにエンジンルームの中では水平対向エンジンが後ろへ押されているのが分かる。しかしこの写真だけでは判断しづらいのだが、もともと低い位置にある水平対向エンジンは、フロントから押されて斜め後方へ移動しており、室内へと侵入は防がれている。これは水平対向エンジンから伸びるプロペラシャフトが衝突の衝撃で縮まる構造をとっており、さらにエンジン本体が斜め下に動くような構造を持っているからである。

ちなみに今回、新型XVはインプレッサとともに歩行者保護エアバッグを標準装備していることが特徴。これはバンパー内に配置されるセンサーで判断して展開されるのだが、今回はフロントからの衝突にも関わらず歩行者保護エアバッグは展開していない。これはなぜかというと、センサーはエアチューブで衝突の圧力や強さ等を見て展開するから。硬いバリアに衝突していることを判断しているので、歩行者にぶつかったわけではないから開かないようになっているのである。

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さらに室内の写真で注目すべきポイントは、まずカーテンエアバッグがドライバー側のみ展開していること。これは車両の正面から右半分が衝突したことを受けた結果、右側のカーテンエアバッグのみを展開しているから。単純にぶつかったら開く、ではなく、ぶつかった側を開くようにできているのだという。これは衝突時にどのような衝撃をどのような方向から受けて、どの部位を開く、ということを判断しているからだ。もちろん状況によっては両方が開く場合もある。それがゆえに、今回助手席側はカーテンエアバッグが展開していないのもポイント。車両正面の右半分がぶつかって左回りの動きが発生するため、中の人間には右向きの力がかかる。それゆえにこの衝突形態だと、例え助手席に乗員がのっていても、サイドウインドーにぶつかることがないのでカーテンエアバッグは開かないという。同じ理由で、後席の左側に小柄な女性のダミーが載っていたが、こちら側のカーテンエアバッグは展開していなかった。

加えてドライバーのダミー人形の膝回りにもエアバッグが出ており、下肢の被害を軽減しているのもわかる。これはニーバッグと呼ばれるもので衝突時に下肢の被害を軽減するものだ。ちなみにダミー人形は膝や、顔などの部位にペンキが塗られており、エアバッグのどの位置に受けとめられたがわかるようになっている。今回、フロントのエアバッグを見てみるとエアバッグの中心にしっかりと、ダミーの顔が受けとめられている跡が残っていた。また先のニーバッグにもしっかりと膝頭に塗られたペンキがバッグ中央についていたのだった。

こうして今回の衝突試験をみてわかるのは、64km/hで衝突するという強烈な事故であるにも関わらず、車室内はしっかりと守られていたことがわかる。こうして結果をみてしまうと当たり前のように思えるが、フロントウインドが割れず、ドアも全て開閉可能で、フロントだけでしっかり衝撃が吸収されており、エアバッグ類も適切に展開している…というのは、数年前からすると圧倒的な進化だといえる。

そしてこうした試験を目の当たりにすると、最新のクルマこそ最善の安全が実現されていることを痛感するのだ。

最後に、先日の衝突試験の現場にて中継した筆者のYoutubeLiveを掲載しておきたい。この動画の中には、実際にクルマが衝突するシーンがでてくるので、ご注意してみていただきたい。

自動車ジャーナリスト

1970年5月9日茨城県生まれAB型。日大芸術学部文芸学科卒業後、自動車雑誌アルバイトを経てフリーの自動車ジャーナリストに。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。YouTubeで独自の動画チャンネル「LOVECARS!TV!」(登録者数50万人)を持つ。

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