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激戦区へ投入されたジャガーの刺客、XEに気付かされる。サルーンの今。

河口まなぶ自動車ジャーナリスト

このセグメントを牽引する2台に対抗する

ジャガーが送り出した新世代モデルXEは、既にメルセデス・ベンツCクラスやBMW3シリーズといった定番モデルが幅を利かせる、欧州Dセグメントに投入された1台である。

CクラスやBMW3シリーズは、このセグメントの二大巨頭として存在しており、他のライバルはこの「2台以外」を括られてしまうほど。さらに最近ではアウディA4が2台を猛追する他、日本のブランドではレクサスがISを、日産がスカイラインを対抗馬として送り込んでいる。しかし日本市場では、日本車の2台すら真っ向からの太刀打ちできないほど、2台は好調なセールスで人気を保ち続けている。

つまりここまで記して分かる通り、このセグメントは日本市場ですら激戦区であり、本場欧州ならばさらに激しい戦いの場ということになる。

ジャガーはそこにXEを投入したのだから、XEがいかに意欲作か分かるだろう。ジャガーは既にこのセグメントにかつて、Xタイプというモデルを送り込んだが、日本市場ではそれほど多くの台数を見ることはなかった。

そうした経緯を経て再び送り出されたXEだが、もちろんジャガーも自身のプロダクトでCクラスや3シリーズを打ち負かそうとしているわけではない。この激戦区で、いかに自身のポジションを築いて想定するターゲットのもとへ想定した台数(とプラスα)を届けるかを考えていることは間違いない。つまり、そこには数での勝負とは違うビジネスがある、といっても良いだろう。

台数ではない勝負が必要。しかしある程度の方向性は…

とはいえ、現実はなかなかに厳しい。というのもこのセグメントの方向性を決めているのは定番の2台にあり、その方向性はかなり限定されるからだ。例えばこのセグメントのキャラクターはいまや、ほぼ全てのモデルがスポーツセダンを志向している。デザイン的にもスポーティに、走りもスポーティな方向へ。といった具合だ。

そしてこの方向性を外してしまうと、なかなか選ばれ難いのも現実である。かくしてジャガーXEに乗ってみると、その走りは極めて高レベルなものに仕上がっていることが即座に確認できる。しかし、方向性としてはやはりドイツの2台の影響が大きいことを感じずにはいられないフィーリングがどこかに漂う。

もちろんそれはジャガーに限ったことでなく、他のライバルでも言えること。そうした現状の中で「らしさ」を作り込み、ドライバーに感じるモノへと昇華させるのがブランドの仕事でもある。

しかしながら、圧倒的に異なる何かを盛り込むというのは、なかなか難しい。

事実、最近では「他との差別化を図る要素」は、どんどん失われている。例えば走りに関しては先述した通りだが、安全装備等に関しても同じである。特に近年は安全装備が装着義務になっていくケースも多いため、今後未来へ向かうほどに「どのクルマにも等しく装着されるもの」となっていくだろう。

そうした中で、他社/他車との差別化を図れる要素として大きいのはデザインである。そして確かにその通りではあるが、実は最近の自動車デザインは、まず法規をクリアすることが最優先であるなど、以前ほど個性を出しづらい状況でもある。

このクラスにもコモディティ化の波が?

ジャガーXEが属すセグメントは、単なる生活の道具ではなく、豊かさやゆとり、そして趣味性をも含んだプロダクトとしての自動車ということになる。が、こうして改めて俯瞰すると、このセグメントですらコモディティ化が起こり始めていることに気がつく。

そうして表現や個性の幅が限定されるからこそ、各ブランドの実力が発揮されるともいえるわけだが、一旦クルマにどっぷりの今の自分の立場から離れてみると、こうした傾向はやはり、ユーザーにとっては差異を見つけづらいものであることに間違いない。購入時の「決め手」という意味では圧倒的な要素にはなっていないのが現状だ。すると多くはメジャーな方に流れる、というのが現在の市場だろう。

かつて自動車は、それ自体にある高い商品性こそが最大の強みであったが、今後はそれ自体では訴求力は弱まる方向といえるだろう。そう考えると今後の自動車には、プロダクトだけでなく、それを取り巻くストーリーに始まるPRや販売方法、またIoTの活用等、ありとあらゆる部分において「個性化」「差別化」を見出していく必要もあると思えるし、それらを統合した総合力についても意識すべきなのだろう。

とはいえ、こうして記している筆者自身も、果たしてそれらが正しい方向なのかどうかは全くわからないのだが。

今回、ジャガーXEに実際に触れてみて、その仕上がりの良さに素直に驚くと同時に、改めて自動車の現状を意識させられたのも事実だ。

自動車ジャーナリスト

1970年5月9日茨城県生まれAB型。日大芸術学部文芸学科卒業後、自動車雑誌アルバイトを経てフリーの自動車ジャーナリストに。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。YouTubeで独自の動画チャンネル「LOVECARS!TV!」(登録者数50万人)を持つ。

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