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車名からブランド名へ、「ミニ」が展開する新戦略。

河口まなぶ自動車ジャーナリスト

ミニの新モデル、クラブマンが追加された。このモデルの登場によって、ミニという車名がつくモデルは全部で3つのプラットフォームを使っていることになる。

いわゆるミニとミニの5ドアは、3代目となる新世代のプラットフォームを採用したモデルとして存在している。このモデルは3ドアのミニが2013年に登場し、同年7月には5ドアが追加された。

それとは別に先代モデルである2代目のミニの時に追加された「クロスオーバー」と呼ばれる4ドア、4〜5人乗りのモデルが存在する。これは2代目のミニとも別モノの大きなプラットフォームを用いたモデルで、4WDもラインナップするモデルとして現在も販売ラインナップに肩を並べている。クロスオーバーはミニとしては最大のモデルであるが、それが逆に使い勝手の良さを創出しており、ベーシックな3ドアや5ドアと並ぶ人気モデルとなっている。

そうした現行のラインナップに最近加わったのが、クラブマンというモデルだ。このクラブマンのプラットフォームは、既に存在するクロスオーバーとは当然違う。では3ドアや5ドアのミニとどう違うかといえば、それらよりも全長を増したプラットフォームを用いている。という言い方よりもむしろ、BMWの2シリーズ・グランツアラーやX1が用いているプラットフォームを用いている、と記した方が良いだろう。そして3ドアや5ドアは、それをベースにホイールベース(前後のタイヤの間の長さ)を短縮したモデルと考えれば良い。

それだけにクラブマンの走りは、3ドアや5ドアのミニよりも落ち着いた趣を感じさせる。つまりプラットフォームのキャパシティが3ドアや5ドアのそれよりもゆとりがあるがゆえに、上質な感覚や乗り心地のよさが実現されているわけだ。

なのでミニのシリーズとしては、もっともオトナっぽい雰囲気を醸し出している。3ドアや5ドアのミニが「ゴーカートフィーリング」を重視しているのに対して、クラブマンは普段使いでも癒されるくらいのまろやかさを備えるのだ。

これに合わせて室内のクオリティも、3ドアや5ドアよりもオトナっぽい仕立てとなっているのが特徴。そんなわけでクラブマンは「オトナのミニ」と呼ぶのが相応しい1台となっている。

試乗した印象等は動画に任せるとして、今回注目したいのはクラブマンが加わったことで、「ミニ」というのは完全にブランドになった、ということだろう。

もっともBMWは、90年代にミニを作っていたローバーを買い取った時点で、このモデルをブランド化する戦略を打ってきたわけだが、それがこの代でついに完成した。

そもそもローバーを買い取った後に市場に投入された時、ミニはBMWグループのひとつのブランドになったわけだが、同時にそれは車名そのものでもあった。それが2代目でバリエーションの拡大を行い、先に記したクロスオーバーをラインナップしたことで、プラットフォームの違うモデルが用意され、この時点でミニ=車名というよりもブランドであり、そのブランドにぶら下がる異なるプラットフォームのモデルがある、という事実が生まれた。

そしてさらに3代目へと進化したことで、3ドアと5ドアが新世代のプラットフォームを採用し、以前から継続して販売されるクロスオーバーとは全く異なるシリーズとなった。その上で今回、さらに新たなプラットフォームのクラブマンが加わったというわけだ。

そうしてみると、ミニというのは完全にブランド名であり、そこに3ドアと5ドア(これらに固有の名前はないが)、そしてクロスオーバー、さらにクラブマンという個々のモデルがラインナップされるようになったわけだ。

日本人の多くは古くから人気があったこのクルマの先祖をして、「ミニ・クーパー」と呼んでいたが、それは正式には「ミニ」という車名の「クーパー」というグレードであった。それがメジャーなゆえに、当時から存在した「ミニ・クラブマン」や「ミニ・カントリーマン」を知らなかったわけだが、この頃はあくまでもミニというクルマのバリエーションであった。

しかし今や「ミニ」はブランドであり、そこに様々なプラットフォームを採用するモデル群が用意されることになった。

そうしてこの後、3ドアと5ドアとプラットフォームを共有するバリエーションとしてのカブリオレが加わり(既に東京モーターショーで展示)、さらには現在のクロスオーバーが新たなプラットフォームを得て登場するだろう(とはいえそれは、今回のクラブマンと共用になると思われるが)。

なにやら複雑な話ではあるが、とにかくミニは車名であったかつてを卒業し、今やブランド名そのものになったのである。

自動車ジャーナリスト

1970年5月9日茨城県生まれAB型。日大芸術学部文芸学科卒業後、自動車雑誌アルバイトを経てフリーの自動車ジャーナリストに。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。YouTubeで独自の動画チャンネル「LOVECARS!TV!」(登録者数50万人)を持つ。

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