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常識を破壊するスーパーEV、テスラ・モデルS P85Dに乗る。

河口まなぶ自動車ジャーナリスト

テスラ・モデルSのトップモデルP85Dは、これまでのハイパフォーマンスカーの概念を覆す存在だ。

なぜならば、フロントに209ps、リアに509psを発生するモーターを搭載しており、最高出力は約770psを発生。そしてモータートルクも967Nm(約98kgm)と、ガソリンエンジンでいえば、V10やV12に匹敵する性能を持つEVだからだ。しかもEVだけに、それほどの圧倒的な性能を持っていながらも、エンジンを搭載しないがゆえの優れた静粛性が常に保たれている。

これまではハイパフォーマンスカー=爆音という構図があり、最近ではそれが顕著だったが、このP85Dはそうした騒々しさとは無縁ながらも、性能はまごうことなきハイパフォーマンスカーという、常識を覆す1台である。

実際に走らせた印象は動画に譲るとして、ユニークなのはモーターの出力特性を変更できるモードに「インセイン」というモードを備えること。いわゆるスポーツモードよりもさらに上に位置するモードで、インセイン=正気ではない、という意味を持つ。

つまりインセインにすれば、フロント/リアのモーターの出力を最大に使うことで、圧倒的なパフォーマンスを実現できるわけだ。この状態だと0−100km/h加速は3.3秒と、ランボルギーニ等と対等のパフォーマンスを見せつける。

ただしその加速はかなり異質。というのも加速は圧倒的だが、サウンドや振動を伴わないため、静かな環境のまま加速感だけが訪れる。またこの時はモーターの「ヒューン」という音が聞こえるわけだが、それが新幹線やリニアモーターカー等を思わせる感覚でもある。

よって加速も印象的だったが、その静けさはさらに印象的だったと報告できる。ハイパフォーマンスカー=爆音の構図に当てはまらないことは、テスラというブランドをよりインテリジェントでクールに思わせる要素ともいえるだろう。

というか僕自身、この静かで速く力強いという新たな感覚に、すっかり魅了されてしまった。

またEVのネックでもある航続距離も約491kmと全く心配がない数値を実現している。実際の使用や運転の仕方によってはもっと航続距離は短くなるだろうが、それでも200kmくらいの航続距離のEVとは比べ物にならないほど、普通のクルマとして使えるだろう。

またEVで面倒な、プラグの抜き差しもできる限り手間を省いている。通常のEVだと、車庫に止めてボンネット等を開け、中からコードを出してクルマと家側の両方につなぎ電源を入れてボンネットを閉め、ドアを閉めてロックという、かなりのアクションが必要になる。が、テスラのチャージャーならばコードがそのまま収納できるため、車庫に止めて車内の画面のスイッチでプラグカバーを開け、クルマの外に出た後にプラグをつないでロックすればよいので、アクションは少なく手間がかからない。

他には実際にそのバッテリーをほぼ空にした状態で、どのくらいの時間で充電できるかが気になる(容量が大きいだけに実際には、一晩よりも長くかかるのではないか?)。もっとも通常の使い方であれば、完全にバッテリーを使い切るわけではないので、これだけの容量があれば、週に何度かの充電というスタイルで使えそうだ。その点も煩わしくなくてよい。

そして今回、印象的だったのがモデルS自体の完成度が上がっていたこと。以前に試乗したモデルでは、作りに大雑把さを感じる部分が細かなところにあったが、今回はそうした部分も改められた印象で、プロダクトとして他の高級モデルと比べても遜色ないものになっていた。

とにかく圧倒的な速さを実現しながらも、高い静粛性を実現しているあたりは、まさにこれまでにない存在。この部分には強く惹かれたのが素直なところだ。

今回試乗したP85Dの名前の由来は、P=パフォーマンス、85=バッテリーの85kW、D=デュアルモーターとなっている。

テスラのWebサイトはこちら→ http://www.teslamotors.com/jp/models

自動車ジャーナリスト

1970年5月9日茨城県生まれAB型。日大芸術学部文芸学科卒業後、自動車雑誌アルバイトを経てフリーの自動車ジャーナリストに。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。YouTubeで独自の動画チャンネル「LOVECARS!TV!」(登録者数50万人)を持つ。

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