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トヨタがル・マンを走る理由【トヨタ、ル・マンへの挑戦2015 Vol.5】

河口まなぶ自動車ジャーナリスト

1985年から始まった、トヨタのル・マンへの挑戦。その意思を受け継ぎ、現在チームの代表を務めるのが、トヨタモータースポーツGmbh、通称TMGの社長も務める佐藤俊男氏である。氏は以前にもル・マンのプロジェクトに参加した他、F1参戦時にはエンジン担当の技術者として活躍。その後はハイブリッドの市販車開発を手がけて、再びル・マンへと戻って来た。そんな佐藤氏に、スタート直前に話をうかがった。

「今シーズンは予選タイムだけでみると戦闘力が低いと思われるでしょうが、ル・マンに向けて1年間かけて、決勝レースを戦う上での最適なセッティングを探って開発してきました。それだけに決勝ではライバルとの差をで戦い、最後まで安定して走りきるというのが今回の作戦です」

そして少し大きな観点から、なぜトヨタはル・マンに参戦するのか? を聞くと、

「ル・マンでは24時間戦うわけですから、マシンやドライバーの速さはもちろん、そこに付随する信頼性、作業や戦略を含めたチーム力が必要だとトヨタは考えます。そしてそれらの全てがかなわないと勝てないレース。その意味では、トヨタとしてはこの活動や挑戦が、皆様にお届けする商品も含めて“もっと良いクルマ”を作るという部分につながると考えながら、このル・マンにチャレンジしています」

また同時に佐藤氏は、ここル・マン24時間レースへ参加する意義を次のようにも語ってくれた。

「この場所に参加することで、高い信頼性と性能を両立する技術を磨き上げ、それを量産車にも活かせるということが大きいです。また最近はご存知のように主催団体であるACOに対してハイブリッドによるレースを提案し、ル・マン24時間という舞台で技術を作り、競い合いたいという我々の想いを伝え、実際にハイブリッドによるレースが展開されている経緯があります。ですので、このレースを通じて技術を訴求したいですし、培った技術を生産車に活かしたいと考えているのです」

では、決勝直前、トヨタの強みとは何なのか? をうかがった。

「ハイブリッドについては、世界初となるハイブリッド量産メーカーがトヨタであり、レースにおけるハイブリッド開発においても先駆けであることから、ハイブリッドに関しては高い技術力があると自負しています。またレース車両に関しては、F1時代から培った空力やエンジン領域における開発手法を含めた高い開発能力があると考えています」

非常に真摯に答えてくれた佐藤氏に、今回の目標を聞いてみると、

「それとやはり、いつも自分たちのゴールは表彰台の真ん中と思っており、それをかなえるためにチャレンジし続けています」

という答えが返ってきた。そして自ら「最後に」と付け加えてくれた。

「レースの現場では、マシン開発のためのエンジニアリング能力や作業や戦略を含めたチーム力が重要と先にも言いましたが、それと同時に重要なのが“人を育てる力”です。現場での素早く正確な判断、グローバルなスタッフ間での仕事の中で、高いプロ意識が醸成されます。そしてレースに勝つためには、自分自身の領域の都合だけでなく、他人の技術領域との整合やバランスを考える必要も出てきます。そうした場で得た経験が、人を育て、トヨタの“もっと良いクルマ”作りに貢献されると考えています」

自らがF1の経験や市販ハイブリッド開発の経験を経て、現在のFIA世界耐久選手権(WEC)の代表となった経緯を持つ佐藤氏だからこそ、このル・マン24時間レースを通して、レースだけではなくその先にあるトヨタというブランドとしての広がりをも見据えているのである。

自動車ジャーナリスト

1970年5月9日茨城県生まれAB型。日大芸術学部文芸学科卒業後、自動車雑誌アルバイトを経てフリーの自動車ジャーナリストに。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。YouTubeで独自の動画チャンネル「LOVECARS!TV!」(登録者数50万人)を持つ。

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