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5戦負けなしの湘南、”優勢”でも勝ち点「1」

川端康生フリーライター
(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

「勝者ベルマーレ!」の妄想

 ボクシングのように判定のある戦いだったとすれば、レフリーは黄緑の選手の腕を挙げただろう。

 縦の意識が強い神戸に対して、いいエリアで守備を仕掛けてボールを奪い、奪ったボールを動かし、相手をはがし、サイドへ展開し、ゴール前へ。トランジションも、ポゼッションも、チャンスの数も、湘南の方がわずかに上。

 だから僅差ではあるが、湘南の判定勝ち。そんな結果になりそうな試合だった。

 もちろんサッカーはボクシングのようにラウンド制ではないから、<採点→判定>に置き換えるのは難しい。

 それでも昨季からサッカーは(コロナ禍による飲水タイムの導入で)”クォーター制”になった(と僕は感じている)から、4ラウンドマッチになぞらえれば、10対10、10対9、10対9、9対10。

「39対38で、勝者、湘南ベルマーレ!」

 リングアナが、そうコールしそうなゲームだったということだ。

得点しなければ勝てない

 ちなみにボクシングの採点は減点法。優勢な側に必ず10点が付き、有効打やダウンがあればさらに点差が開く。

 だからダウンを奪えないまでも、有効なパンチを当て、有利に戦いを進めることで試合に勝利することができる。

 派手なKOシーンのイメージが強いボクシングだが、実は採点競技でもあるのだ(特にアマチュアではそうだ)。

 無論、サッカーはそうではない。

 優勢に試合を進めようが、決定的チャンスをどれだけ作ろうが、得点できなかったチームは決して勝てない。

 28分、右サイドで酒井からボールを奪い返して、舘がゴール前に入れたクロス。

 35分、左サイドから高橋がファーサイドに上げたクロス。

 66分、右サイドでパスをつなぎ、大橋が入れたライナー性のクロス。

 いずれも採点を左右するシーンではあった。しかしシュートは決まらなければゴールではなく、得点にならない以上、勝敗には関係しない。

 それがサッカーである。

失点しなければ負けない

 逆に言えば、得点を決められなかったのに負けなかったのは、神戸にも得点を許さなかったからだ。

 特に新外国人・アユブ マシカが登場した“第4クォーター”。

 70分、ファーストタッチの柔らかさと、切り返しでミスってもリカバリーできるしなやかさで驚かせたアタッカーは、82分、スルーパスから(DFをかわさずに)ワンタッチでシュートを放つ曲者ぶりも発揮。

 スペースで受けてのドリブル突破から古橋へ入れたラストパスも含めて、少なくとも3度、それまでの”優勢”をふいにしてしまうピンチをこのケニア代表FWに作られたが、いずれも辛うじて防ぎ切った。

 さらにアディショナルタイムに、ペナルティエリア内で古橋に打たれたシュート。

 受けて戻して、DFの注意が逸れた瞬間にフリーになる古橋の巧みさ(と、その一瞬にスルーパスを送り込める山口のセンス)で最後の最後に見舞われた大ピンチだったが、これも至近距離からの一撃をGK谷がセーブ。

 試合を無失点で終えた。

「チャンスを作っても得点できなければ決して勝てない」は「ピンチに見舞われても失点しなければ決して負けない」ということでもある。

 ここ5試合でベルマーレの失点はわずか「1」。4試合がクリーンシートである。だから、負けない。

 そして、この間の得点もまた、わずか「2」。だから、勝てない。

 結果、5戦負けなしの中身は「1勝4分」。サッカー的にみて論理的なリザルトというわけである。

10試合で勝ち点10。足りるのか?

 にもかかわらず「もしもボクシングなら1勝4分ではなく2勝3分かそれ以上……」と、しつこく考えてしまうのは、試合後、知人と勝ち点について雑談したからだ。気が早い話だが、”残留ライン”についてである。

 チーム数が20に増え、試合数が38に増え、自動降格も4チームに増えた。おまけにコロナによる消化試合の不揃いや、東京五輪、ACL……と不確定要素が多いから予想するのは難しいが、「まあ、少なくとも試合数よりは必要だろう」という話になった。

 ちなみに近年の"下から4番目"の勝ち点を並べてみれば、去年と一昨年はともに「36」、2018年は「41」である。

 言うまでもなく、いずれも34試合での数字。そして混戦になればなるほど、ラインは上がる(2018年は41に5チーム)。

 今年は38試合だから……。

 湘南はここまで10試合で勝ち点「10」。

 前のホームゲーム(「10人」で勝ち点「1」)でも書いた通り、チームとしての完成度は決して低くない。魅力的な選手も台頭してきている。評価も好感度も順位以上に高い。内容的には優勢で、判定なら勝てそうなゲームも少なくない。

 それでもいまのペースは、残留ラインには(たぶん)足りていない。

 さて、どうする――。

フリーライター

1965年生まれ。早稲田大学中退後、『週刊宝石』にて経済を中心に社会、芸能、スポーツなどを取材。1990年以後はスポーツ誌を中心に一般誌、ビジネス誌などで執筆。著書に『冒険者たち』(学研)、『星屑たち』(双葉社)、『日韓ワールドカップの覚書』(講談社)、『東京マラソンの舞台裏』(枻出版)など。

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