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延長11回粘闘。田名部が見せた全員野球 @はるか夢球場

川端康生フリーライター

延長11回までもつれた試合は、終わってみれば10対3。7点の大差をつけて三沢商業が勝った。

2年前の甲子園出場校と、昨秋、今春ともに地区予選止まりの学校。結果だけ見ればそう見えるかもしれない。

しかし、この試合は“田名部高校の試合”だった。

そう言い切りたくなるほど、見事な戦いぶりだった。

三沢商業、嫌な流れ

立ち上がり、三沢商業の冨田投手が乱れた。バランスのいいフォームから力のあるボールを投げる右の本格派。球速表示も130キロ台後半を連発する。

しかし、この一戦ではリリースポイントが安定せず、ボールはことごとく高めに浮いた。

初回、先頭から連続四球と3番秋田のライト前ヒットでいきなり無死満塁。続く小笠原の内野ゴロの間にあっさり失点した。

2回、簡単に2アウトをとったにもかかわらず、また連続四球。さらにエラーが絡んで2死満塁となった後、次打者の若狭に対してはストレートの四球。押し出しで2点目を献上してしまう。

3回にも四球と送りバントを投手、捕手がお見合いするなど、失点こそしなかったがやはりピンチを招いた。

ここまで冨田投手は、打たれたヒットは1本だけ。しかし5つの四球。そこに守備の乱れまで重なり、0対2。

三沢商業にとっては「嫌な流れ」という表現そのものの序盤だった。

田名部の明るさ

対照的に田名部高校の秋田投手は丁寧なピッチングだった。球速はそれほどない。冨田投手マイナス20キロくらい。しかし低めにコントロールされたボールで、三沢商業打線を打ち取り続けた。

特に初回、3番、1年時に甲子園の土も踏んでいる鎌本を三振に取った落ちるボールは素晴らしかった。強振が目立った相手打者を制球力とタイミング、それに一球ごとの集中力で3回まで1安打に抑えた。

バックの守備も固かった。秋田の打たせて取るピッチングを、内野も外野も確実で忠実なプレーで盛り立てた。

強敵相手に2店のリード。守備から戻る選手たちを迎えるベンチの明るさも含めて、田名部高校が完全に流れに乗っていた。

三沢打線の対応力

潮目が変わったのは4回だ。

3番鎌本から6番駒澤まで4連打。特に右打者の4番木村、5番中村がライトへ、左打者の駒澤がレフトへ放った低くて強い打球は印象的だった。それまでのスイングから一転、「引き付けて叩く」、そんな意識がはっきりと見えるバッティングへと変わったのだ。

ここで1点を返した三沢商業は、5回にも冨田が緩いカーブを十分に引き付けてセンター前へ。そしてバントで送った後、鎌本がやはり緩いカーブを逆方向、レフト前へと叩いて同点に追いついてしまう。

それまで秋田投手の術中にはまっていた打線がみせた鮮やかな変身。さすがの対応力だった。

そして冨田投手も復調した。5回、6回と内野ゴロ4つ、フライ2つで簡単に三者凡退。序盤コントロールがままならなかったときの力みが消え、体の動きがスムーズになった。投球のリズムもよくなり、結果、守備のリズムもよくなった。3対3。まだ同点だったが、試合の流れは三沢商業に傾いたかに見えた。

秋田投手、粘投

ここからは秋田投手の粘投を讃えたい。勢いをつけかけた三沢商打線を、6回、7回で再びせき止めた。

コントロールは相変わらずまったく乱れがない。ストレートは110キロ台。そこに80キロ台の緩い変化球も折り混ぜながら一球一球丁寧に投げ続ける。投げるテンポを変えるなど工夫も見えた。

そしてゴロを打たせれば内野手が確実にさばく。自らもセーフティバントを見事な身のこなしでアウトにした。

秋田投手と田名部守備陣がわずかの綻びも見せなかったからこそ、再び互角の展開に持ち込むことができた。

そればかりか田名部高校は、7回、その秋田がタイムリーを放ち、勝ち越しに成功する。センター前へ抜けていく打球に、右手でガッツポーズを作った秋田をベンチが盛大に祝福する。田名部高校の明るさは、その後もまったく陰ることがなかった。

それは8回、またしても同点に追いつかれてからも変わらなかった。さらに9回、10回とスコアリングポジションにランナーを進められるピンチを迎えても、内野も外野も、そしてベンチもマウンドの秋田を励まし、盛り立て続けた。

決着がついた11回は、余力の差が出た。1死満塁。小泉にレフトへ犠飛を上げられ、3対4。ここまでは戦う力が残っていた。秋田投手はまだコースぎりぎりに投げ続けていたし、チームもサインプレーによる牽制でランナーを刺そうとする力が残っていた。

続く強打者、鎌本との対戦でも2ストライクに追い込んだ。そこから外角、内角に一球ずつ。ともに球審の手が動きそうになるような際どいボールだった。渾身の二球。そして次の球を鎌本にライト線に叩かれた。これで力尽きた。精も根も。以後は、高めに浮いたボールを三沢商業の中軸打者に次々と叩かれた。

楽しい記憶

終わってみれば10対3。延長11回に及んだ熱戦は、最終的には三沢商業が制した。引導を渡す一打を放った鎌本は3安打3打点。向こう気の強そうな左打席でのスイングは迫力があった。

またこの鎌本と木村、中村のクリーンアップは揃って3安打。駒澤、小山らも含めて中盤で見せたバッティングの順応性、そして最後に突き放した爆発力はさすがだった。

その一方で、攻撃においても守備においても走塁においてもミスが目立つ試合でもあった。序盤の冨田投手の乱調も痛かったが、そんな小さなミスの連鎖が主導権を失い、苦しい戦いを強いられた背景だったと思う。その反省を今後の勝ち上がりに生かさなければいけない。

そして田名部高校。秋田投手の粘投は167球に及んだ。速いわけでも、鋭いわけでもない。しかし、丁寧に、丁寧に投げ続けた。四球も10回までは1つだけだった。

秋田はバッティングも素晴らしかった。3安打。左打席でのシュアなバッティングも見事だった。

1番の中谷もバットを振れる選手だった。ヒットは1本だったが、強い打球が何本もあった。

それから8番の新田。小柄だが選球眼がよく、相手の冨田投手を間違いなく苦しめた。セカンドでも難しいゴロを身を挺するようにさばいた。

その新田をはじめ、守備の確実さがこの好ゲームを演出した陰の主役だった。11回まで戦ってエラーは0。培ってきた練習が報われた試合でもあった。

そして何より、全員がゲームに参加し、勝負を楽しんでいる姿が印象的だった。楽な練習も、楽な試合もない。しかし、楽ではない時間をたくさん積み重ねてきたからこそ、全員で勝負を楽しむことができた。敗れはしたが、田名部ナインにとってこの最後の夏は、間違いなく「楽しい記憶」として残ったと思う。

その意味で、この試合、やはり「田名部高校の試合」だったと僕は思う。

敗れはしたが、選手たちにはスタンドから大きな拍手。
敗れはしたが、選手たちにはスタンドから大きな拍手。
フリーライター

1965年生まれ。早稲田大学中退後、『週刊宝石』にて経済を中心に社会、芸能、スポーツなどを取材。1990年以後はスポーツ誌を中心に一般誌、ビジネス誌などで執筆。著書に『冒険者たち』(学研)、『星屑たち』(双葉社)、『日韓ワールドカップの覚書』(講談社)、『東京マラソンの舞台裏』(枻出版)など。

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