八戸学院光星と八戸西、準決勝へ @青森市営球場

高校野球は朝から楽しい

高校野球の朝は早い。

午前7時。合浦公園には関係者やファンの姿がすでにあった。

もちろん夜は明けている。だが、太陽の姿はない。それどころか空からは滴が落ち続けていた。

試合は予定通り、行われるらしい。だからこそ関係者たちの朝は早いのだ。順延を心配してた遠方からの観戦者はまずは安堵し、次の少しだけ贅沢な心配を始める。

「濡れない場所? ねぇよ」

失笑しながら地元ファンに言われた。スタンドの一角にでも……というささやかな期待が打ち砕かれる。

「だいたい屋根がついてる球場が青森にはねぇ」

少なからず自嘲が含まれた口ぶりだった。

「スタンドも小さいし」

確かに立派とは言えない。地上から数えて10段くらい、トントンと階段を昇ればスタンドに到着できるサイズだ。

でも、だからと言って、決して嘲笑の対象にはできないのだ。実はここ、合浦公園にある青森市営球場こそが、日本プロ野球初の完全試合が記録された舞台なのである。

昭和25年6月28日、巨人軍、藤本英雄投手による歴史的偉業は、この青壁で囲まれたダイヤモンドで達成されたのだ。

だからーー何をおっしゃいますか。そんな勢いで返した。

……すごいじゃないですか。これから先、どれだけ大きくて、屋根がついていて、華やかで快適な球場ができたとしても、「史上初」の舞台になれる可能性なんてほとんどないんだから。

もちろん、スルー。よそ者のウンチクはあっさり聞き流される。そんな昔のことより今日の雨だ。

「兄さん、合羽持ってきたか? 濡れるぞ」

郷に入れば、郷に従うべし。

合羽を取りに車に戻ろうとしたら、大会関係者が囁いてくれた。

「雨雲が移動してるから。あと1時間。それで(雨は)止むよ」

高校野球は、プレイボールのずっと前、朝から楽しい。

弘前東の健闘

いつの間にか雨は上がっていた。プレイボールの時点ではまだ雨粒が落ちていたから、関係者の見立ては時間差で当たったことになる。

雨が止んだのに気づかなかったのはゲームが激しかったからだ。なんせ1回表から得点が入り続け、3回を終わった時点で6×7。すべてのイニングで歓声と溜息が交錯する点の取り合いが展開されていたのだ。

前評判からしても、試合展開からしても、優勝候補で猛打を誇る八戸学院光星が圧倒しそうなゲームを接戦に持ち込んでいたのは、弘前東の総合力だった。

初回、トップバッターの相馬が塁に出ると、すかさず2番の種市が送りバント。3番田中がセンター前へ弾き返し、先制点を奪ったように、出塁、バント、適時打と組織的かつ合理的に得点を奪い、光星に競りかけ続けたのだ。

相馬、田中、長尾らは甲子園のマウンドにも立った光星の桜井投手に力負けしていなかったし、種市の野球センスも光っていた。

一方、投手陣は(はじめからその予定だったのだろう)タイプの違う4人の投手を継投。

先発の左腕、鳥谷部はテンポよく投げて打者を翻弄するタイプに見えたが、自分のリズムに乗り切れないうちに捕まった(もう少し長いイニング投げられれば持ち味が出せたと思う)。

それでもリリーフに出た2番手の竹永がアンダーハンドからの勢いのあるボールで光星打線が勢いに乗るのを防ぎ、その竹永が2本のホームランを浴びると、4回途中からはサイドハンド(スリークォーター気味)の織田が出てきて、やはり光星の流れを堰き止めた。

8回にエラーも絡んでついに決壊したが、織田の右打者のアウトコースへのボール(ストレートもスライダーも)は素晴らしかったし、最後に登板した諏訪もスピードのあるボールを上手から投げ込んでいた(さらにもう一人、左腕の須藤もウォーミングアップしていた)。

弘前東の健闘がゲームを見応えのあるものにしたのだ。

八戸学院光星、豪快かつ緻密

そんな弘前東に詰め寄られながらも、8回に3点を奪って突き放し、最終的には12対8で勝利した八戸学院光星は、今大会「ノーシードながら優勝候補」という前評判通りのチームだった。いまや甲子園常連校。今春もセンバツに出たばかりなのだ。

実を言えば、もう少し振り回すチームかと思っていた。豪打のイメージが強かったからだ。

事実、2本のホームランを放った。益田のレフトへの本塁打は、打った瞬間、本人もスタンドもそれとわかる豪快な一発で、伊藤は詰まりながらもライトのフェンスを越した。力のあるバッターは他にもいた。

だが、細かくゲームを見ていけば、きっちりバントを決め、ランナーに出れば次の塁を狙うステディで真摯な野球をしていた。中軸打者たちが右打ちを徹底する姿もあった。

益田を例にとれば、ホームランを打つ前の打席では1、2塁間を鋭いゴロで抜き、ホームランを打った次の打席ではバントを試みている。

この「4番」に象徴されるように、光星は豪快さと緻密さを兼ね備えた野球をしていた。

さらに言えば、その益田は守備でも目立たないがいいプレーをしていた。3番田城も一塁にヘッドスライディングし、スチールを決め、ライト線の打球をダイビングキャッチし……。

彼らだけでなく、野球能力の高い選手が揃ったチームだった。

勝った光星は桜井が完投。いま一つしっくり来ていない様子に見えたが、前の試合(7回コールド)から2試合続けて一人で投げ切った。春の故障からは回復していると見ていいだろう。

センバツに続いての甲子園へ、そして昨夏決勝で延長サヨナラ負けしたリベンジへ、エースの復調は力強い要素である。

一方、弘前東。惜しくも敗れたが、下級生が多いチームだった。来年、それどころか再来年も楽しみな選手がいた(2番種市と5番桜庭は1年生だった)。

今後、私学の強豪の一角に食い込んできそうなチームである。

超高校級、竹本投手

第2試合は、春の県大会を制し、この大会第1シードの八戸西が、青森商業を10対0で下した(6回コールド)。

八戸西の竹本投手は、まさしく超高校級。マウンドに立っただけで漂ってくるものがあった。立ち姿がいいのだ。

もちろん身体もいい。186センチの身長もだが、88キロという体重がいい。大きいだけじゃなく、太くて厚い。

フォームはオーソドックス。それでもマウンドから打者に向かって、ぐわっと迫っていく感じ。迫力もある。言うまでもなく、ボールは速いし、重そうだった。

ただし、この試合に関してはバランスが合っていないように見えた。ボールがバラける場面もあった。ベストのピッチングではなかったのではないか。

それでも相手のヒットを散発に抑えて完封してしまうのだから、やはり並ではない。プロ注目がうなずける素材だった。

一方、青森商の三上(涼)投手も好投していた。

立ち上がりからテンポがよく、緩急とタイミングを駆使して、うまく投げていた。5回に連続失点して降板したが、それまでは相手に的を絞らせなかった。リリーフした伊勢谷のスピードも魅力的だったし、ショートの西谷の守備はほれぼれするほどだった。

結果的に竹本を打ち崩せず、じりじりと差を広げられ、中盤に大量失点して敗れることになったが、少なくとも6回で試合を終えなければならないチームには見えなかった。悔しさの残る敗戦だろう。

勝った八戸西は準決勝進出。初の甲子園まであと2勝に迫った。

実はこれまで2度決勝に進みながら涙を呑んでいる。竹本投手という大黒柱を擁した今夏こそ、悲願達成の好機だ。

まずは次戦。準決勝の相手は、第1試合で勝利した八戸学院光星。八戸西にとっては一つ目の大きな壁だ。

青森のファンにとっては、竹本対光星打線は見逃せないカードということになる。

青森大会は、明日、準々決勝の残り2試合、そして翌日には準決勝が行われる。

決勝は、一日空けた21日の予定だ。

1965年生まれ。早稲田大学中退後、『週刊宝石』(光文社)にて経済を中心に社会、芸能、スポーツなどを取材。1990年以後はスポーツ誌を中心に一般誌、ビジネス誌などで執筆。著書に『冒険者たち』(学研)、『星屑たち』(双葉社)、『日韓ワールドカップの覚書』(講談社)、『東京マラソンの舞台裏』(枻出版)など。

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