ラスト5分。ドラマが始まった――Jリーグポストシーズン(3)

まあ、しゃーないな

八戸から東京を経由して大阪に来た。

新大阪から御堂筋線に乗り換えたら、車内の中吊り広告がすべて「Jリーグ」だった。さすがにチャンピオンシップやなぁ……と感心しかけたところで、ズッコケそうになった。

よく見ればチャンピオンシップではなくて、「J1昇格プレーオフ」の告知だったのだ。4日後、同じ御堂筋線でも逆方向の長居で行なわれる試合である。

改めて考えてみれば、今日のチャンピオンシップが万博で行なわれることが決まったのは先週土曜日だから4日前。もしも準決勝でガンバ大阪が負けていれば、この一戦の会場は埼玉スタジアムだったわけで、広告を掲出する余裕などあるはずもない。

対戦カードも、試合会場も決まらないこの大会方式では、チケット販売だけでなく、告知さえも困難ということである。

もしかしたら、今日もまた空席なのか……。そう思うと、気持ちが少し曇った。

車両丸ごと中吊りを埋め尽くしていた「J1昇格プレーオフ」の方は、あらかじめ決勝の舞台がヤンマースタジアム(長居)と決まっていた。

先に決めていたからこそ、広告を打つことができたのだが、その一方で別の物議を醸してしまっていた。

僕が八戸でJFLのチャンピオンシップを見ていた同じ日曜に行なわれた「J1昇格プレーオフ準決勝」で、アビスパ福岡がV・ファーレン長崎に、セレッソ大阪が愛媛FCに勝って、決勝に進出したからである。

この結果、「中立地」であるはずの試合会場が、よりによってセレッソ大阪のホームスタジアムになってしまったのである。

もっとも僕自身は「まあ、しゃーないわな」(僕は関西弁も話すので、大阪へ行くと思考もこんな感じになる)と思っている。

国立競技場が建て替えで使えず、主だったスタジアムはJ1チームが使っている以上(チャンピオンシップに出る可能性がある)、会場の選択肢は限られていた。

たまたま(と言ってナンだが)セレッソが出場することになったから問題視されているが、準決勝で愛媛FCが勝っていれば、あるいはセレッソがレギュラーシーズンで昇格を決めていれば、こんな騒ぎになることはなかったはずだ。

何を今さら

そもそもホーム&アウェイではなく、一発勝負で行なう決勝戦なら、試合会場は先に決めておいた方がいいというのが僕の考えだ。

それどころかJ1チャンピオンシップ決勝も1試合にした方がいい。そして、その試合会場は全国から募るのだ。極論、Jリーグのホームタウンでなくたっていい。

スーパーボウルのように各地の自治体に誘致合戦をしてもらい、開催権を獲得した町では、その1週間「スーパーボウルウィーク」ならぬ「チャンピオンシップウィーク」として様々なイベントを行い、盛り上がるのである。

一発勝負の方が試合への注目度が高まるのはもちろん、スポーツツーリズムの面からみても、開催地になることでサポーターが集まり、交通や宿泊をはじめとした経済効果が……という図式も描ける。

Jリーグがビジネス面に関してはNFLをモデルに構築されたことを思い出せば、当然、トライしてみたいテーマだ。

決勝を1試合にすると、チャンピオンシップ全体の試合数が少なくなり、テレビの意向に沿わない……という話も耳にするが、何を今さら、と一刀両断に斬り捨てたい。

もともとJリーグは「テレビの意向」なんてものに頓着しない(それどころかファイティングポーズさえとっていたと思う)という創設時の姿勢で、斬新な存在感を示したのではなかったか。

実は、立ち上げ直後のブームが去った頃(そしてプロ野球が地上波でまだレギュラー的に放送されていた頃)、「マンデーナイト」の実施を紙面で提言したことがあるが、採用されることはなかった。

当時のチェアマンに「野球のない月曜に、Jリーグを中継してもらうことで新規顧客獲得につながるのでは」と提案した際にも耳は傾けてくれたが、結局「Jリーグは、テレビで見てもらうものではなく、スタジアムに足を運んで応援してもらうもの」という当初の基本理念の方が勝ったのだと思う。

それがいまごろになって「テレビの意向」である。CSとの独占契約の際はまだ納得することができたが、今回のチャンピオンシップのドタバタ感には「貧すれば鈍す」の諺(ことわざ)以外思いつけないから哀しい。

旗揚げの頃には確かにあった進取の志は消え、かといって持続可能なスキームとも思えず、そもそも持続する気などないかのような継ぎ接ぎ(つぎはぎ)だらけの……。

ややこしくて煩わしい

苛立ちのあまり話が逸れてしまった。それほど不具合を感じるポストシーズンということだ。

ちなみに「J1昇格プレーオフ準決勝でアビスパとセレッソが勝って」と書いたが、実はアビスパは勝ったが、セレッソは勝っていない。引き分けだ。

同点ならレギュラーシーズンの成績上位チームが勝ち上がる、というルールがあるから、「勝った」ことになるのだ。

となれば、思いが向かうのは浦和レッズだ。

もしも、J1チャンピオンシップも同じルールなら、1対1の同点で90分を終えた時点で成績上位のレッズは「勝って」いたことになる。

同じ「Jリーグ」のポストシーズンなのに勝敗の決し方が違うのはややこしい。「年間勝ち点」2位のチームが「年間順位」では3位になるのも、やっぱり疑問だ。

前回も書いたが、チャンピオンシップに出たチームを上位(今季のJ1なら1・2・3位。JFLは1・2位)に持ってくると、「各ステージ」に加えて、「年間順位」と「年間勝ち点」の順位表まで必要になってしまう。

その結果、こんなふうに煩わしい原稿に(書くのが、じゃなくて「読むのが」です)なってしまう。

そもそも「J1昇格プレーオフ」という名前だって個人的には気に入らない。だってJ2のプレーオフなのに、どこにも「J2」の文字がない。その“上げ底感”が僕にはかえって安っぽく見えてしまって気に入らないのである。

ああ、また話が逸れてしまった。

今日これから行なわれるのは「J1チャンピオンシップ」だ。今日の万博と、3日後の広島の試合で、2015年のJリーグチャンピオンが決まる特別な試合なのである。

スタジアム最寄の公園東口駅まで乗らずに、一つ手前の万博記念公園でモノレールを降りた。万博記念競技場でのJリーグは、これがラストマッチ。大好きな「太陽の塔」を眺めて、気分を入れ換えてスタジアムへ向かいたかった。

歩き始めてすぐ、正面がきらびやかだと思ったら、「ららぽーと」ができていて驚いた。左手に万博の照明が見えてくる。跨線橋のあたりで右手に目をやると、暗闇の中に銀色の大きな箱があった。誰かが「あれが新しいスタジアム」と連れに教えている。

そうか。あれが来年からガンバ大阪のホームになるスタジアムか。

少し気持ちが弾んできた。 

決勝らしい退屈な前半

退屈な前半だった。揶揄しているわけではない。「決勝」にありがちな試合だっただけである。

押し気味だったのはガンバ大阪だったか。前線にパトリックではなく長沢を起用したのは浦和レッズ戦から中3日というコンディションを考えてのことだろう。その長沢がボールを追い回す。

宇佐美には2、3本惜しいシーンがあった。身体のキレがなく、動きに躍動感もないが、それでも一人や二人くらいなら外してシュートを打てる。

このところゴールを決められずにいるが、それでも一発の不気味さは常に漂わせている。

一方、サンフレッチェ広島はレギュラーシーズン最終戦から10日間空いて、コンディション万全のはずなのだが、あまり攻めに出て行かなかった。

15分過ぎにミキッチから佐藤寿人に決定機がもたらされたが決められず、その後はセーフティに試合を流しているように見えた。

「流している」と感じたのは、ガンバに攻められても、まったく慌てる様子がなかったからだ。千葉、塩谷、佐々木の3バックは、余裕を持って相手の攻撃を受けているようにさえ見えた。

特に塩谷。図太いなぁ。

心配したスタンドは埋まっていた。

そもそも収容人数が多いとは言えないから、埼玉スタジアムとは比較のしようがないが、「満員」と言っていい眺めだった。それでも当日券売り場が開いていたから、「完売」というわけではなかったかもしれない。

もしかして第1戦はこのまま様子見……ということはないよな、と思っていたら、後半(の後半に)ドラマチックな展開が待っていた。

先制、同点、勝ち越し

最初の得点が決まったのは60分だった。スコアラーは長沢。DFラインでボールを回していたサンフレッチェに生じたスキを逃さず、しっかりと決めたのだった。

これでガンバは浦和レッズ戦に続き、相手ミスから先制したことになる。レッズとサンフレッチェが似たスタイルのチームであることを改めて実感させるミスであり、ゴールだった。

リードしたガンバは長沢に代えてパトリックを入れて、さらにパワーをかける。残り30分。遠藤のフリーキックに、そのパトリックがジャンプしてヘディングで合わせたときには、この試合を決めるゴールかと思われたが、ボールは枠を逸れて飛んでいった。

試合を決められるゴールを逃した直後は危ない……と思いかけたまさにそのとき、サンフレッチェの同点ゴールが生まれた。

浅野の快速、しかし決めきれずポスト、その跳ね返りを柏がシュート性のミート、そこにドゥグラスが頭を出したときには、もうボールはゴールネットを揺らしていた。

ポストに当たったリバウンドは、柏の真正面(もしかしたら正面よりやや左だったかもしれない)に弾み、右足でキックするには難しい位置だったが、柏は少しアウトにかけるようにして、うまくゴール方向にボールを蹴り出した。

実は柏は僕のお気に入りの選手だ。スピードもあるのだろうが、そのクイックネスは“ザ・キレ”と言いたくなるほど。甲府にいた頃から、そのキレを惚れ惚れしながら見つめていたのだった。

この試合でもミキッチに代わって登場すると、右サイドでことごとくトイメンを抜き去っていた。

そして浅野とドゥグラスとともに、同点ゴールを決めた。

ところが、その直後に、今度はガンバ大阪が勝ち越しゴールを奪う。

遠藤のフリーキックが相手DFに跳ね返されたところにいたのは今野。混戦からいつものように蹴り込んだ。一体、これまでに何度こんな場面を見ただろう。そしてレッズ戦に続いての連発。今野の決定力は(知っている人は知ってる通り)本当にすごいのだ。

これで2対1。残りは10分。

さすがのサンフレッチェも、少しバタバタし始める。追いかけるチームは、相手だけでなく、時間という敵からのプレッシャーも受ける。

残りは5分になった。ガンバの2対1は、第2戦の楽しみを考えれば、ちょうどいいスコアだった。

しかし、本当のドラマはここから始まるのだった。

ドラマは最後の5分から

残り4分。タッチライン沿いで、前半からやり合ってきたオ・ジェソクと清水が絡み合って倒れた。

起き上って向かっていく清水。受けて立つオ・ジェソク。オの手が伸びる。突き飛ばされた清水が倒れる。

扇谷主審がかざしたのはレッドカードだった。オ・ジェソク退場。

しかし、この時点ですでに残りは4分を切っていた。長谷川監督も即座に宇佐美を下げて、米倉をオ・ジェソクのポジションに入れて手当をした。

くどいようだが、残りは4分弱。ガンバがこのまま逃げ切ることは十分可能な状況だったのだ。

だが、スタジアムのムードが変わっていた。

タイムアップの瞬間が近づくとにつれて、急き立てられるように高まっていく興奮と緊張。それがチャンピオンシップだからこその熱気と集中で増幅され、ピッチとスタンドの雰囲気が一変したのだ。

フリーキックを得た青山がボールをセットしたとき、すでに時計は90分を回っていたはずだ。

しかしロスタイム5分の表示。ほとんど終わりに近づいていた残り時間が、再び5分に増えた。

まず同点に追いついた。青山のフリーキックを佐々木が頭で決めて、2対2。

再びカウントダウンに入る。90分+5分の最後の最後、山岸がゴール前に入れたボールを、ドゥグラス、ミートできず。浅野のシュートはDFにブロック。

しかし、最後の最後の最後に、柏が現れて――。

オモロい試合やった

新大阪のホテルに戻って試合を振り返ろうとして、前半のことをまったく覚えてない自分に苦笑した。

そのくせゲームのことを考えると、肌が粟立ち、心臓が高鳴るような感じが蘇ってくるのが嬉しかった。

面白いゲームを見た、という実感があったのだ。

もちろんゲームの面白さは一つではない。

ただの1ゴールも決まらなくても面白い試合もあるし、取って取り返してのシーソーゲームでもさほど印象に残らない試合もある。

今日のゲームにしても、前半は間違いなく退屈していた。後半になってガンバが先制したところでも、サンフレッチェが追いついたときにも、ガンバが勝ち越した時点でも、「面白かったか」と尋ねられれば、「まあ、それなりに」と僕は答えただろう。

でも、すべてが終わってみれば「面白かった」という“後味”が残った。

かと言って「劇的なロスタイム」だったから、というだけではない。

あのときスタジアムに突如高まった熱気と、そのおかげでもたらされた動悸が激しくなるほどの興奮と、そんなスタジアムの真ん中で(たぶん)我を忘れてプレーしていた選手たちのテンションを、皮膚と心臓と心が覚えているからこそ、「面白いゲームだった」と感じることができるのだ。

そして、これから先、「あの2015年の万博でのチャンピオンシップ……」と振り返って語るとき、その感触がまた蘇り、「あれは本当にオモロい試合やったなぁ」と――。

感動とは、それぞれの心の中で、そのように紡がれる記憶のことだと僕は思う。(つづく

1965年生まれ。早稲田大学中退後、『週刊宝石』(光文社)にて経済を中心に社会、芸能、スポーツなどを取材。1990年以後はスポーツ誌を中心に一般誌、ビジネス誌などで執筆。著書に『冒険者たち』(学研)、『星屑たち』(双葉社)、『日韓ワールドカップの覚書』(講談社)、『東京マラソンの舞台裏』(枻出版)など。

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