ループシュートは記憶に残る――Jリーグポストシーズン(1)

(写真:中西祐介/アフロスポーツ)

ポストシーズンを旅する

 ループシュートは記憶に残る。

 たとえばラモスのあのシュートも、山口素弘のあのシュートも、随分昔のことなのに(21年前と18年前)、いまだにボールの軌道まで覚えている。

 本来なら強く速く鋭く蹴り出されるはずのボールが、ふわりと浮き上がった瞬間――時が止まって、そこからの映像が記憶に刻み込まれるのだ。

 止まるのは時だけではない。僕らが固唾を飲んで、ボールの軌道を見つめているそのとき、フィールドの選手たちも動きを止めて、ボールの行方を見上げている(たとえばロングアンドワインディングロードあたりがBGMに流れるスローモーションの名場面映像のように)。

 そして、落ちてくる。はじめはゆっくりと。徐々に降下速度を上げながら。止まっていた時間が動き始め、「ぅぅうわあ」と唸りから高まっていく歓声が最高潮に達した頃、ボールがゴールマウスで弾み、シューターが天に向かって拳を突き上げている。

 浮き上がってから落ちてくるまで、せいぜい1秒くらい。けれど、荒々しくて賑やかなゲームの最中に、突然訪れたエアポケットのような瞬間だからこそ、印象深く記憶に残る。

 スローモーションのようなボールの軌道とオーバーラップして、スタジアムを包んでいた熱気や、思わず立てた鳥肌や、時にはそのとき自分が抱えていた希望とか焦りとか、そんなものまで一緒に蘇るほど、深く刻み込まれることもある。

 ループシュートにはたくさんの記憶を封じ込める力がある、そんな気がする。

     *      *

 11年ぶりにチャンピオンシップが再開された。「再開」といっても、ラモスがループシュートを決めたあの頃とはレギュレーションはまったく異なる。

 賛否が分かれた。成否はわからない。

 それでも、とにかくチャンピオンシップを再びJリーグは始めた。

 最大5チームが参加できるフォーマットだったが、初年度の今季は「年間勝ち点トップで第2ステージ優勝のサンフレッチェ広島」と「年間勝ち点2位で第1ステージ優勝の浦和レッズ」、それに「年間勝ち点3位のガンバ大阪」の3チームが出場する。

 まず浦和レッズとガンバ大阪が「準決勝」を戦い、その勝者がサンフレッチェ広島と「決勝」を戦う。

準決勝は1回戦で土曜に開催。決勝はホーム&アウェーで翌水曜と日曜に行なわれる。

「チャンピオンシップ」と並行して、「J1昇格プレーオフ」、「J2・J3入替戦」も行われる。11月の最終週から12月の第1週まで“特別な試合”が目白押し――というわけで、そんなJリーグのポストシーズンを旅した。

あれ? 空席?

 埼玉高速鉄道は怖れていたほど混雑していなかった。チャンピオンシップという「大一番」にすし詰め状態を覚悟していたから、ホッとしながらも、首を傾げながら浦和美園の駅を降りた。

 埼玉スタジアムに着いたら、傾げた首の角度がさらに大きくなってしまった。Jリーグ屈指の浦和サポーターが真っ赤に染めているはずのスタンドが、半分くらいしか埋まっていなかったのである。

 ちなみに1週間前のリーグ最終戦は5万2133人、今季のガンバ大阪戦は5万3148人が来場している。

 しかも天気は快晴。おまけに前日までの寒波が去って、気温も上々。15度という発表だったが、厚着をしてきた僕はかすかに汗ばむくらい。この時期としては幸運なほどの観戦日和に恵まれたのだ。

 それなのに、この観客の入りはナンなんだ? もしかしたらキックオフ直前にドッと入るのか?

 そんなことも考えてもみたが、その後もスタンドはさして埋まらなかった。

 結局、バックスタンド2階は半分くらい空席のまま、キックオフの笛が鳴ることになった。

 記念すべきチャンピオンシップの初戦だというのに、「満員」でないどころか、レギュラーシーズン以下のスタンドなんて……。

カードも会場も決まらない

 ハーフタイムの話題は、もっぱら「空席」と「広島のホテル」だった。「前半」については“苦笑”で、あっさり片付いてしまったのだ。試合後に現日本代表監督がコメントした通り、「選手は疲れていた」と評すしかない内容だった。

「広島のホテル」というのは、チャンピオンシップ決勝の第2戦が行われる広島のホテルがまったく取れないことについて。

“新たなチャンピオンシップ”は、対戦カードと試合会場が直前までわからない。今季に関して言えば、最終節が終わるまで出場チームが決まらなかったし、出場チームが決まらない以上、試合会場もわからない(当然、この準決勝が終わるまで、4日後に行なわれる決勝第1戦のカードも場所もわからない)。

 そんな中で唯一確定している「広島」のホテルに「一室も空きがない」から、みんな困惑していたのだ。そして、レッズ、ガンバの両サポーターが、勝ち上がりを期待して「とりあえず予約」で押さえているのではないか。だとすれば、今日のゲームが終われば、一気に空きが出るはず……なんて具合に希望的推測を語り合っていたのだった。

 ホテルの話はともかく、対戦カードや試合会場が直前まで決まらない今回のチャンピオンシップが、観客(サポーター)だけでなく、多方面に負担を強いるものなのは間違いない。テレビだって中継の段取りが大変だろうし、運営だっていくつものスタジアムで準備をしなければならない。

 そして僕が首を傾げていた「空席」の謎も、やはり原因は同根であるらしい。

レッズでさえ、レッズだから

 この試合のチケットが売り出されたのは11月26日。実に試合の「2日前」だったのである。

 つまり、レッズはわずか2日間でチケットを売らなければならなかった。

 リーグ最終節まで「出場チーム」が決まらないばかりか、「出場チーム数」も確定していなかったため、こうした事態になったのだという(鹿島アントラーズが第2ステージ優勝した場合、4チームによるチャンピオンシップになる可能性があった)。

 

 おまけにチャンピオンシップは「シーズンシート(年間シート)」の対象外。ゼロからチケットを売らなければならない。

 レッズの場合、レギュラーシーズンなら「シーズンシートで2万席弱」がすでに埋まっているから、そこにプラス3万人を上積みすれば、シーズンシートと合わせて「5万人のスタンド」になるが、この試合では5万枚丸々チケットを売らなければ、同じスタンドが創出できないというわけだ。

 いかにレッズと言えども、この条件は厳しかったということだ。

 いや、レッズだからこそ、空席があるとはいえ、これだけの観客を集めることができたと言った方がいいかもしれない。

 改めてスタンドを見渡してみる。やっぱり空席は目立つ。そういえば、前半はレッズの応援にいつもほど迫力がなかった気もする。

 ヴォルテージが上がったのは後半になってからだ。早々に今野にゴールを決められ(GKからのビルドアップを引っ掛けられた)、先制を許したのをきっかけに、スタンドも、選手も、一段ギアが上がった。

 何度か決定機が生まれる。スタンドが賑やかになってくる。前線にはズラタンが投入。ピッチ上の攻防も激しくなっていく。

 そして、追いついた。ズラタンがヘッドで押し込んで同点。

 その後も、勢いはレッズにあった。チャンス、それも掛け値なしに「決定的」と言えるチャンスがあった(後半終了間際の武藤のヘディングだけでなく、いくつかあった)。

 でも、決められない。

 1対1のまま、試合は延長戦に突入した。

 明らかに疲労困憊な両チームの選手たち。キックオフから欠けていた動きのキレばかりか、動きの量も落ちてきた。

 PK戦かな。

 そう思った頃、あのシーンが突然訪れた。

それは丹羽のバックパスから始まった

 ガンバ大阪の決勝点を見逃した人は少なくないはずだ。

 延長後半13分、ゴールを決めたのは藤春。

 ゴールの瞬間は見ていたとしても、ほとんど人がそこまでの道筋を追えなかったのではないか。僕もその一人だ。

 パトリックが右に開いて、米倉がクロス。それを決めたのが藤春であることはわかった。しかし、その前の展開は……。

 丹羽の“ループシュート”のせいである。

 右足から放たれたボールが、GKの頭上を越えていく軌道を、固唾を飲んで見つめた。そして、ゴールポストに当たった瞬間、止めていた息を吐き出し、フィールドから目を切ってしまった。めったにない(それも想定外の)美しい放物線に見惚れてしまった結果である。驚嘆の表情を隣の記者と交わし合い、ノートに視線を落としている間に、「決勝ゴール」のお膳立てが行なわれしまっていたのだった。

 だから一連の展開は、後でVTRで確認した。

 丹羽のループ(もちろんシュートではなく、バックパス)がゴールポストに当たって跳ね返る。これを東口がワンタッチでそのまま右サイドのオ・ジェソクにつないのが、まず素晴らしかった。

 さらにオ・ジェソクからのパスを受けた遠藤が、やはりワンタッチで縦へ。この判断とパスが、得点への道筋を明白に切り拓いた。ポストに顔を出したパトリックも見事だった。

 そしてパトリックが右へ開くと、米倉がまたワンタッチでクロス。これではレッズのディフェンスはついていけない……はずだが、実はこの時点では3人対3人。米倉にも、パトリックにも、倉田にも、DFは対応しようとしていた。

 そこに逆サイドから藤春が出てくるのだ。そして、まさしくそこに米倉からライナー性のボールが入った。

 藤春のシュート自体は、利き足ではなかったから、格好のいいボレーではなかった。それでも、しっかりミートして枠に蹴り込んだ。

 美しい流れの得点だった。

 この間、ボールに触れた選手は東口、オ・ジェソク、遠藤、パトリック、米倉、そして藤春の6人で、つないだパスは5本。その総タッチ数はわずか7回である(藤春のシュートを含めれば8回)。

 誰かがちょっとでもコントロールをミスしたり、ボールを持ち直したりしていたら、こんなふうにパスはつながらない。ガンバの選手たちのスキルの高さがよくわかるゴールだった。

 さらに言えば、すべての選手が適切なポジションに、適切なタイミングで現れたからこそのボールは動きでもある(早すぎても、遅すぎてもいけない。その辺が時間と空間が伸び縮みするフィールド系のボールゲームの面白いところなのだ)。

 そして、そんなガンバの巧みで美しいゴールは、丹羽のあのキックから始まった。シュートではなくバックパスではあったが、その軌道がやっぱり美しかったせいで、“ゴールの前半”を見逃すことになってしまったけれど。

記憶に刻まれたボールの軌道

 観客数は結局「4万696人」だった。

 わずか2日間のチケット販売では、レッズでさえこれが精一杯なのだ。もし他のチームだったら……と考えかけてやめた。空席だらけのチャンピオンシップなんて想像したくない。

 だって、スポンサーシップと放映権で「収入」を増やせたとしても、そんな映像が「地上波テレビ」で流れたら、新規顧客獲得どころか、むしろ“逆PR”になってしまいかねないじゃないか。

 ちなみに決勝進出を決めたガンバは、同時に(年間勝ち点では3位だが)「年間順位」で1位か2位へとランクアップすることも確定した。

 逆に、レッズは年間2位で第1ステージ優勝までしたのに「年間順位は3位」ということになる。

 うーん……。

    *      *

 大宮から乗り込んだ東北新幹線の車中で、駅弁をかき込みながら、今日のゲームを思い出す。

 蘇るのは、やはりあの「バックパス」だ。

 見事な円弧を描いてGKの頭上を越えていったあのループ。結果的に「ガンバの決勝ゴール」の起点となったあのボールが、もしもそのままゴールインしていたら、あるいはポストに当たったとしてもゴールマウスに向かって跳ねていたら、「レッズにとっての決勝ゴール」になる可能性もあった。

 そうなのだ。丹羽の右足から蹴り出されたボールが空中にあった1秒か2秒の間、勝敗の行方はどちらに転ぶかわからない状態だったのだ。

 しかし、ボールはゴールポストに当たり、インフィールドに跳ね返った。

 そればかりか、ボールの転がった位置も絶妙だった。仮にポストに当たったボールがもう少し違う位置(ゴールライン近くとか、センターライン方向とか)に跳ねていれば、東口だってとりあえずタッチを切って一息つくか、パトリックあたりを狙ってロングキックを蹴るか、少なくともつなごうとはしなかったに違いない。

 しかし、ボールは右前方へ――東口が蹴り出しやすい方向と強さに転がった。

 そして、勝利もまたやっぱりガンバに向かって、コロコロと転がっていったのである。

 ドラマチックなボールの軌道だった。

 長く記憶の残る“ループシュート”が、また一つ増えた。(つづく

1965年生まれ。早稲田大学中退後、『週刊宝石』(光文社)にて経済を中心に社会、芸能、スポーツなどを取材。1990年以後はスポーツ誌を中心に一般誌、ビジネス誌などで執筆。著書に『冒険者たち』(学研)、『星屑たち』(双葉社)、『日韓ワールドカップの覚書』(講談社)、『東京マラソンの舞台裏』(枻出版)など。

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