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湘南、今季初白星!――甲府との昇格組対決制す

川端康生フリーライター

開幕以来、勝利を飾ることができずにいた今シーズンの「昇格組」。

そんな中、4月3日に行なわれたナビスコ杯・ヴァンフォーレ甲府×湘南ベルマーレの昇格組対決。何が何でも手にしたかった今季初白星をつかんだのは湘南ベルマーレだった。

コンパクトな湘南

立ち上がり、もっとも目立ったのは大槻だった。178センチ。しかし最前線でロングパスやハイボールに競り勝ち続ける姿は、もっと大きく見えた。

先制点も、その大槻から。DFライン裏へのロビングをキープ。左サイドの荒堀に裁き、そこからのワンタッチクロスを、ゴール前で武富が押し込んだ。

故障(だと思う)で前半40分で退いたが、大阪学院大出身、2年目のFWは目を引くパフォーマンスだった。

開始10分での先制。ここまでの未勝利の湘南にとって、これが勇気になったかどうかはわからない。リーグ戦でも3節まで「勝ち越し」、「先制」、「先制」とリードしながら勝利に辿り着くことはできなかったから。

しかし、この日の湘南の戦いぶりは落ち着いていた。過剰な(と言ってはナンだが)フォアチェックは控え、前線、中盤、DFがバランスよくポジションをとりながら、相手の攻撃に対処し続けた。

その分、持ち味であるサイドからの攻撃の迫力は欠いた気もするが、それは顔ぶれからすれば当然。古林、高山と同じプレーを、岩上、荒堀がする必要はない。

(逆に言えば、岩上がいたことでスローイン、セットプレーは明らかな脅威となって甲府を苦しめた)。

甲府はこの試合でもパスをつないだ。しかし、パスはつなぐが、崩せないのもやはりこれまでの試合と似ていた。

目立ったのは堀米。右サイドで面白いプレーをいくつも披露。チャンスを作った(約半月早く生まれているためリオ五輪には出れず。あとはフル代表)。

しかし、この試合でもシュートは少なかった。特に新加入で注目のオルティゴサは、(スコアラーだとすれば)なぜか極めて消極的なプレー選択に終始。得点力アップを期待しての獲得だと思っていたが、この日のプレーに限って言えば、点取り屋というよりはチャンスメーカーの印象だった。

結局、パスは回る。しかしゴールは生まれない、そんなジレンマが解消されることはなく、前半の45分は終わった。

こねくり回した甲府

後半は、サッカーの必然ながら1点を追う甲府が攻勢、そして1点をリードしている湘南が守勢。

しかし、ここでも湘南のバランスは崩れなかった。試合後に「後ろ(DF)がずるずる引かないでコンパクトにできた」(チョウ監督)と振り返った通り、縦に狭いフィールドを実現し、相手の攻撃を受け止め、拾い、また受け止めた。

そう、この試合での湘南は「受け止めていた」のだった。やはり試合後に「後半は相手(のDF)が引いてしまったので」(城福監督)と、チョウ監督とは異なった見解を口にしたが、主戦場となったエリアだけを見れば、城福監督のコメント通りだったと思う。

しかし、チョウ監督が振り返ったように湘南は「ずるずると」引いたわけではなかった。押し込まれてはいたが、スモールフィールドを維持したまま守っていた。

そんなふうに湘南が「押し込まれていた」理由も明白だ。最終盤の盛田を上げてのパワープレーは言うに及ばず、散々パスを回した末に甲府の攻撃はゴール前への長いボールが多かったからだ。まさしく「チャンスに見えた部分も我々らしいサッカーではなかった」と指揮官が悔しそうに吐露した通りだった。

しかも、終わってみれば甲府の後半のシュートは「0」(僕自身、公式記録を見て初めて気づいた。城福監督が言っていた通り、「チャンスに見えた」シーンはあったから)。

いずれにしても、この試合の意味を問われて「こねくり回しても何もいいことはない、ということをみんなが共有できたこと、それがこの試合の価値」(城福監督)と消極的な成果を口にしなければならなかったくらいに、甲府にとっては苦渋のゲームであった。

ナビスコ杯と勝利の女神?

それにしてもナビスコ杯の位置付けは難しい。

もちろん公式戦。名誉だけでなく、決して少なくない賞金も手に入れることができる(優勝1億円、2位5000万円、3位2000万円)。

しかし、その一方でミッドウィークでの開催(過密日程、選手の疲労蓄積、パフォーマンス低下)もあって、リーグ戦との兼ね合いに指揮官は選手編成に苦慮せざるを得ない。

勝ちたくないわけではない、しかし、(中二日で戦うことになる)リーグ戦も気になる……さて、どんなメンバーで戦うか?

その答えの導き出し方はチームによって異なる。

とりわけ今節は「ベストメンバー既定」が適用外。その裁量はそれぞれの指揮官に委ねられていたと言っていい。

たとえば(鹿島アントラーズとのアウェーゲームに臨んだ)サガン鳥栖は主力を温存、そればかりか控え選手(ベンチ)を4人しか置かないという決断をした。水曜ナイターを終え、木曜に移動となれば、土曜のリーグ戦(ホーム)までは実質中1日……そんなスケジュールを勘案した末である。その他にもチーム作り(普段試合に出ていない選手に経験を積ませたいとか)、クラブ財政(アウェー遠征費やプレミアム給とか)といった理由もあったかもしれない。

とにかく保有する戦力や経済力、置かれた状況や環境などのすべてを考え併せた結果、サガン鳥栖が導き出した答えがそれだったというわけだ。

翻ってヴァンフォーレ甲府と湘南ベルマーレの場合は、どうだったか。

ともに今季まだ勝利がない。勝ちたい。しかし、土曜にはリーグ戦が控えている。悩ましい。

だから、リーグ戦とは大きくメンバーを入れ替えた。この答え自体は両チームとも同じ。

しかし、合流直後のオルティゴサを「コンディションが100%でないことはわかっていた」(城福監督)にもかかわらず起用したことからみて、甲府の方には“テスト”の意識が少なからずあったとみていいだろう。

無論、「ナビスコ杯を諦めていたわけではない」という城福監督の言葉を聞くまでもなく、勝てなくていいと思って戦う者はいない。それでも「肉体的、精神的コンディションのいい選手を選んだ結果です。今日のメンバーが今日時点でのベストメンバー」と言い切ったチョウ監督ほどの歯切れの良さは感じられなかった。

「ウチにはレギュラーはいませんから」とチョウ監督が笑う(もちろん苦笑でもある)という戦力的な違いもあるとはいえ、“勝負の神様”が微笑む相手は、この試合に限って言えばやはり湘南だった気がする。

ゲームは待ってくれない

閑話休題。

「昇格組」対決を制し、湘南は今季初勝利を飾った。そして敗れた甲府はいまだ未勝利のトンネルの中。

しかし、浸っている余裕も、落ち込んでいる間もなく、次のゲームはやってくる。

土曜日のJリーグ第5節、湘南の相手は川崎フロンターレ。甲府と同様、パスにやや偏重。パスにはまってしまっていると言ってもいいかもしれない。

それでも甲府よりは、やはり得点力がある。前線には個人能力の高い選手が揃っている。甲府戦同様、コンパクトな布陣、そしてさらなるハードワークが必要だろう。

そして、(これは甲府戦でも気になったことだが)攻撃から守備の切り換え同様、守備から攻撃の切り換えも速いが、パスの精度、判断には疑問符がつく。押し込まれた状況を受け止めたその後、である。ここでうまくゴールに迫れなければ勝利をつかむのは難しい。課題である(あと甲府の後半のシュートが「0」だったと書いたが、実は湘南も「1」だった。やはりもう少しゴールに迫らないと)。。

一方、甲府は敵地へ乗り込み大分トリニータと戦う。再び昇格組対決、そして無勝利チーム同士の激突である。ここで勝てないとチームの雰囲気自体が降下しかねない。ムードが落ちれば、内容もまた落ちてしまう。

ネガティブスパイラルに陥る前に何とかしたい……。小瀬の見事な桜並木に目もくれず、試合後もチームを案じた話し合いを続けていたサポーターたちの切なる願いだろう。

フリーライター

1965年生まれ。早稲田大学中退後、『週刊宝石』にて経済を中心に社会、芸能、スポーツなどを取材。1990年以後はスポーツ誌を中心に一般誌、ビジネス誌などで執筆。著書に『冒険者たち』(学研)、『星屑たち』(双葉社)、『日韓ワールドカップの覚書』(講談社)、『東京マラソンの舞台裏』(枻出版)など。

誰がパスをつなぐのか

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