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蹴躍――若いチームでJ1昇格を勝ち取った湘南ベルマーレ。今季もひたむきに走り、挑む。

川端康生フリーライター

平均年齢は23歳

今季も若いチームで戦う。

平均年齢は約23歳。3年ぶりにJ1に復帰する湘南ベルマーレである。

昨季も若いチームだった。

23・5歳。加えて指揮官は監督初体験。期待と不安の入り混じる、有り体に言えば期待より不安の方が大きいシーズンだった。開幕前の順位予想でも上位に推す声は少なかった。

しかし、若いチームは予想を(いい意味で)覆す戦いをみせた。

開幕戦で昇格候補だった京都サンガFCを下し、そのまま4連勝。1分けをはさんで、さらに4連勝。9試合を終えた時点で8勝1分と好スタートを切り、その後勝てない時期もあったが、終盤戦まで昇格圏内に留まり続け、ラスト3ゲームを3連勝して、(プレーオフ導入もあって)大混戦となったJ2を2位でフィニッシュした。

戦績だけではない。

高い位置からプレッシャーをかけてボールを奪い、ショートカウンターで一気に攻め切るサッカーを展開。特に、攻めにかかった際、(3バックも含めて)背後から次に次に選手が飛び出してくる積極的なプレーぶりは見応え十分だった。

前へ――そんな強い意識が時にピンチを招くこともあったが、それでも自分たちのスタイルを貫通する姿勢は清々しささえ感じさせた。

もちろん、そんなプレーのベースには「運動量」があり(とにかくよく走っていた)、「チャレンジ」をするマインド(リスクを恐れる素振りがなかった)があった。

若い選手たちの心身をそんなふうにポジティブな方向にコントロールしたチョウ貴裁監督のマネジメントも見事だったと言うべきだろう。

さらに言えば、監督未経験の彼を指揮官に抜擢した大倉智GMの判断もやはり見事だった。

とにかく、開幕前、未知数だった若いチームは、9ヶ月の長丁場をひたむきに走り続け、ひたむきに挑戦し続けて、「J1昇格」という大きなゴールに辿り着いたのだった。

しかも、ただ「若いチーム」だったわけでもない。

開幕戦のスタメン11人中5人が湘南ユース育ちの選手。昨シーズンのチームは、長年かけてクラブが育てて上げてきた選手を中心に構成され、J1昇格はそんなチームが勝ち取った成果でもあったのだ。

その意味では、苦しい経営状況の下でも「育成」をないがしろにすることなく、力を注ぎ続けてきたフロントの勝利でもあった。

(無論、大型補強をできない経営的な事情ゆえのチーム編成ではあったが、しかし、そんなネガティブな状況をプラスに転じることのできる種を、苦しい時代にも蒔きつづけていたからこそ、である)。

ビッグウエーブを起こせるか

さて今季。

湘南は、昨シーズンに続き、若いチームで戦う。ビッグネームの補強はなく、平均年齢23歳のチームにはJ1経験のある選手もほとんどいない。

前回(2010年)昇格時の忌まわしい記憶(わずか3勝しかできず最下位でJ2に舞い戻ることになった)も、まだ生々しい。交錯する期待と不安は、やはり不安の方が濃い。

だが、昨シーズンもそうだったのだ。

開幕前には、シーズンを通して戦った経験さえない選手たちに不安は募った。それでも、よく走り、挑戦し続けて、歓喜の瞬間に辿り着いた。

もちろん舞台はJ1。J2では「ピンチ」で肝を冷やすだけですんだミスやエラーが、J1では「失点」に直結する。天を仰ぐシーンは間違いなく増えるだろう。

それでも――「トップリーグで戦う権利を得たのだから、さらに上昇していかなければ意味がない。“湘南スタイル”をさらに磨いていく」。

そう自然体で語る2年目のチョウ監督と、若い選手たちにはビッグウエーブを起こしてしまいそうな勢いがある。

少なくとも、サポーターの心を躍らせるプレーは披露してくれるに違いない。

そういえば、今季のスローガンは『蹴躍』(しゅうやく)。

「ピッチで躍動し、日々躍動し、飛躍する蹴団」の、ひたむきなサッカーを楽しみにしたい。

フリーライター

1965年生まれ。早稲田大学中退後、『週刊宝石』にて経済を中心に社会、芸能、スポーツなどを取材。1990年以後はスポーツ誌を中心に一般誌、ビジネス誌などで執筆。著書に『冒険者たち』(学研)、『星屑たち』(双葉社)、『日韓ワールドカップの覚書』(講談社)、『東京マラソンの舞台裏』(枻出版)など。

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