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共生から競争へ――20周年を迎えるJリーグの舵取り(2)

川端康生フリーライター

リーグは競争関係であり共存関係

「身の丈経営」への転換を図り、「公式試合安定開催基金」のようなものを設置し、クラブ経営の健全化とリーグの安定運営にJリーグが邁進していたこの時期、僕が原稿中でしきりに使ってたのが、<リーグは競争関係であると同時に共存関係でもある>というフレーズだった。

つまり、リーグというのは1チームでは存立できない、ということ。早い話が「ゲーム」というのは相手がいなければ成立せず、そんなゲームが一定数以上行えなければ「リーグ」は成り立たないという根本的なことである。

当時、ネットやケータイの世界で行われていた寡占化合戦を横目に見ながら、スポーツにおいては、ビジネスとは違って、“一人勝ち”はあり得ないことを、改めて読者に認識してほしいと繰り返し書いていたのだった。

チームはグランドでガチンコで戦っているけれど、クラブはマネジメント面で助け合わなければ、Jリーグは継続していけないのですよ、というようなことをお節介にも啓蒙していたというわけである。

これはこの当時のJリーグの方針とも合致していたと思う。そして、経営危機に陥ったクラブに人をだし、カネを貸し、何とか健全な状態に戻そうという、そんな施策はすでに述べた通り、一定の成功を収めた。消滅するクラブはなく、それどころかクラブ数を増やしてこれたことがその証だ。

しかし――。

縮小均衡で“地味”なリーグに

創設から15年が経った2008年、Jリーグは859万人の観客動員を記録する。あの1993年が323万人だったから、15年でマーケットを2倍以上に広げたことになる。

とはいえ、すでにお気づきのようにこれはあくまでも総入場者数。クラブ数の増加に伴い、試合数も増えたからこその数字なのだった。

ちなみに創設時「10」だったチーム数は、このとき「38」。つまるところ、パイの大きさは2倍になったが、食べる人数は4倍に増え……。

要するに拡大路線(全国津々浦々にJクラブを!)を堅持し続けた結果、マーケットの拡大には成功したが、一方でそれぞれのクラブは潤わないというジレンマに陥っていたのである。

もちろん入場料収入はクラブ経営の柱の一つだから、これが伸びなければ「身の丈」は大きくならない。

またクラブにとって、やはり大きな経営の柱であるJリーグからの配分金も(前記の「パイ」の喩えと同様の理由で)クラブ数の増加によって、当然頭打ちとなる。

ただでさえ身の丈経営という名のリストラを敢行した結果、華やかさが失われかけていたJリーグは、そんな流れの中で徐々に“地味”なリーグになっていく。草創期にピッチを彩っていたワールドクラスのスーパースターたちの姿を目にすることはなくなり、そればかりかクラブハウスに並ぶクルマも国産車ばかり、そんな「Jリーグ」になったのである。

1993年のあの喧騒を知る者にとって、それは寂しい光景だった。

いや、発情的なブームを是としているわけではない。しかし、いかに「地域密着」や「スポーツ文化」を謳おうとJリーグは興行である。魅力がなくなってはエンターテイメント産業として観客を惹きつけることはできない。

やはりこの頃、原稿でよく使用した文言、<興行で文化を作る難しさ>を痛感する時代った。

共生から競争へ――Jリーグは次のステップへ

ざっとJリーグの20年を振り返ってきた。

「ざっと」だから説明不足な話題も多いし、言葉足らずな面も否めない。たとえば配分金の原資であるテレビ放映権に関することだけでも、この間に幾度かの方針転換と苦渋の決断があった。

それでも、ざっと振り返ってみて改めて思うのは、Jリーグ(事務局)の舵取りの重大さである。ルールを決める、システムを変える、そんなリーグの決定はそれぞれのクラブのマネジメントをも左右する。

それらの決定は、実行委員会(各クラブの社長の集まり)でなされるが、事務局による意見調整や利害調整によって流れは変わる。もちろん(プロ野球などとは違い)レベニューシェア(配分金制度)によって運営されているJリーグにおいては、事務局そのものの営業力がクラブの懐にも影響を及ぼす。

船のキャプテンやヨットのスキッパーのように、天候を予測し、風を読み、方向を決める。それがJFAハウスの人々の役割。「これまで」がそうであったように、彼らの決断がJリーグの「これから」を左右することになる。重責である。

そして、そんな「Jリーグ」は昨年から新たな時代に突入している。

共生から競争へ――。従来の<共存関係>重視から、一歩踏み出し<競争>をはっきりと打ち出し、次のステップへ進むと宣言したのである。

「J1昇格プレーオフ」などいくつか施されたレギュレーション変更の中で、最も重大なのは「J2・JFL間での入替制度」の実施だろう。

かねてから予告していた通り、「J1・18クラブ、J2・22クラブ」に達したのを機に、(3部リーグにあたる)JFLとの入れ替えを開始したのである。

切実な表現をすれば、J1からJ2への降格などという生易しいものではなく、「Jリーグではなくなるクラブ」が、ついに出ることになったのだ。

Jクラブでなくなることのインパクトは計り知れないほど大きい。

観客は減るに違いないし、スポンサー獲得も難しくなるはずだ。テレビでの中継がなくなるだけでなく、Jクラブであれば(J2だとしても)それなりにあったメディア露出が期待できなくなる。試合告知も容易ではないはずだ。

おまけに配分金がなくなる(降格初年度は助成金があるらしいが)。経営の縮小を強いられることは必至だ。選手の確保も簡単ではないだろう。

その意味で、新しいシーズンでの僕の関心は、見事に育成型チームを花開かせたサンフレッチェ広島やJ2に降格したガンバ大阪だけでなく、FC町田ゼルビアにも向いている。

彼らがどのようにチームを作り、クラブを運営し、再び「Jリーグ」に戻ってくるのか、あるいは……。

一部報道にもあった「J3設立」との関わりも含めて、注視したいテーマである。

フリーライター

1965年生まれ。早稲田大学中退後、『週刊宝石』にて経済を中心に社会、芸能、スポーツなどを取材。1990年以後はスポーツ誌を中心に一般誌、ビジネス誌などで執筆。著書に『冒険者たち』(学研)、『星屑たち』(双葉社)、『日韓ワールドカップの覚書』(講談社)、『東京マラソンの舞台裏』(枻出版)など。

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