Yahoo!ニュース

(速報)クロマグロの国際会議が閉幕 初期資源20%の長期回復目標に各国が合意

勝川俊雄東京海洋大学 准教授、 海の幸を未来に残す会 理事
(写真:アフロ)

 西太平洋のマグロの漁獲規制について議論をするWCPFC北小委員会が、韓国 釜山で8月28日から9月1日まで開催されました。先ほど、会議が終わりましたので、結果について速報します。

会議の概要と、日本の提案についてはこちらをご覧ください。

太平洋クロマグロ資源管理 あまりにも非常識な日本提案

今回の大きなポイントは2つあります。

1)初期資源20%の長期回復目標に合意

2)短期回復目標の達成確率が75%を越えたら、漁獲量の増枠

初期資源20%の長期目標に合意

現在のクロマグロの資源管理は、2024年までに歴史的中間値(約41000トン)に回復する確率を60%以上にするという目標が設定されています。41000トンは、漁獲が無い場合の推定資源量を100%とすると、だいたい7%に相当します。一般的な水産資源では20-50%程度の資源水準が妥当とされているので、それと比べるとかなり低くなっています。これまで、米国は「せめて20%までは回復させよう」と提案していたのを、日本が反対して、低い目標を設定してきたのです。「ずっとクロマグロは乱獲されていたのだから、その状態を維持すれば良い」という日本の主張が、去年の12月のWCPFC本会議でフルぼっこにされたので、日本は方向転換を余儀なくされました。

今回の会議で、2034年までに漁獲が無かった場合の20%に回復させるという長期目標が合意されました。米国の従来の提案と近い内容になっています。米国提案に断固反対していたのは日本だけなので、日本が転身した以上、北小委員会で合意できるのは予想通りです。この変化は、WCPFC本会議でも歓迎されるでしょう。クロマグロ資源の回復に向けて、一歩前進といえます。

ただ、こちらに書いたように、日本の提案では、いつでも目標の下方修正が自由にできるような内容になっていました。こういった抜け穴が維持されたのかどうかが気になるところです。詳細については、後日公開される正式なドキュメントをチェックしないとわかりません。

短期回復目標の達成確率が75%を越えたら、漁獲量の増枠

先にも述べたように、クロマグロの現在の管理目標は、2024年までに歴史的中間値(約41000トン)に回復する確率を60%以上にするというものです。回復目標が低すぎる上に、その達成率がたったの60%で良いのかというのは疑問です。今回、これに加えられたのが、資源が予想以上に増えて、2024年までの回復確率が75%以上になった場合は、回復確率が75%に減るまで漁獲枠を増やすというものです。

資源状況の変化に応じて、漁獲枠を調整するというのは、それほどおかしな話ではありませんが、クロマグロの場合は状況が特殊です。クロマグロ資源は、倒産寸前の会社のような状態です。どうやって、倒産させずに経営を改善していくかが問われているのですが、今回の日本の提案は、会社に臨時収入があったら「パーっと使っちゃおう」というということです。普通に考えれば、臨時収入は借金の返済に充てて、少しでもはやく経営の健全化を目指すべきです。クロマグロの漁獲規制もそれと同じで、出来るだけ早く目標資源量まで回復させて、その後に、漁獲量を増やすべきでしょう。もともとの日本の提案は「回復確率が65%を越えたら増枠」だったのですが、さすがにこれは通らないと思ったのか、増枠の閾値が75%になっています。

国際社会から、「ちゃんと規制をしろ」と非難を浴びている中で、日本主導で漁獲枠を増やす提案をするのですが、WCPFC本会議でどのような議論になるのでしょうか。12月のWCPFC本会議から目が離せなくなりました。

東京海洋大学 准教授、 海の幸を未来に残す会 理事

昭和47年、東京都出身。東京大学農学部水産学科卒業後、東京大学海洋研究所の修士課程に進学し、水産資源管理の研究を始める。東京大学海洋研究所に助手・助教、三重大学准教授を経て、現職。専門は水産資源学。主な著作は、漁業という日本の問題(NTT出版)、日本の魚は大丈夫か(NHK出版)など。

勝川俊雄の最近の記事