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築地市場からもベンゼンが検出されたけれど、特に心配はなさそうです

勝川俊雄東京海洋大学 准教授、 海の幸を未来に残す会 理事
(写真:アフロ)

築地市場の土壌調査で、地中から吸い上げたガスの中から、検出下限を上回るベンゼンが検出されました。今後は、汚染を詳しく調べるために、都はベンゼンが検出された土壌調査に進みます。といっても、これによって築地市場の安全性が揺らぐわけではありません。

築地市場、土壌調査でベンゼン検出 移転判断に影響

東京都の築地市場の土壌調査でベンゼンが検出されたことが11日、明らかになった。今回は地表近くのガス成分の簡易な分析。都は実態把握のために詳細な調査に入る方針を決めた。築地の土壌汚染の可能性が高まったことは、小池百合子知事による豊洲市場への移転判断にも影響しそうだ。

出典:日経新聞 2017/5/11 16:01

築地にベンゼンが存在するのは少し考えればわかります。自動車の排気ガスからもベンゼンはでているので、トラックやフォークリフトが縦横無尽に走り回っている築地市場の大気中には、微量なベンゼンは常に存在します。人間の経済活動はすでに地球規模での環境汚染を引き起こしていて、南極のホッキョクグマの血液からも、高濃度のPCBが検出されたりしています。東京都心のど真ん中の土地から何らかの有害物質が検出されたとしても、何ら不思議ではありません。都市部の他の市場だって、きめ細かな調査をすれば何らかの有害物質が検出されると思います。中高年の健康診断と同じで、きっちり調べれば、何かしら引っかかるでしょう。

ただ、今回ベンゼンが検出されたのは110箇所検査をして1箇所のみ。それも、検出下限の3倍というレベルです。また、市場はアスファルトやコンクリートで覆われているので、これによって水産物が汚染されるということにはならないでしょう。

同じことは豊洲市場にも云えます。豊洲市場でも、地下水から飲料水の基準を上回るベンゼンが検出されましたが、別に地下水を飲むわけでも、地下水で魚を洗うわけでもありません。鮮魚を扱うエリアとはコンクリートで遮断されているので、豊洲市場を流通した魚の安全性も問題が無いといえます。豊洲市場のベンゼンのリスクについてはこちらが参考になります。

もちろん、魚とは接しない環境もクリーンな方が望ましいのは言うまでもありません。でも、そのためにコストをどれだけかける価値があるかは、冷静に考える必要があります。莫大な資金を投じて、地下水のベンゼンを飲料水の基準まで下げるのが、税金の有意義な使い途と言えるでしょうか。ゼロリスクの問題については、中西準子さん(産業技術総合研究所名誉フェロー)のこちらの記事が大変参考になります。

築地移転問題が改めて示した「ゼロリスク」の呪縛

東京の台所を支えてきた築地市場の信頼は、微量なベンゼンぐらいで崩れるものではありません。また、同じ人達が、衛生化がより進んだインフラを利用する豊洲市場は、さらに安全と言えるでしょう。

東京海洋大学 准教授、 海の幸を未来に残す会 理事

昭和47年、東京都出身。東京大学農学部水産学科卒業後、東京大学海洋研究所の修士課程に進学し、水産資源管理の研究を始める。東京大学海洋研究所に助手・助教、三重大学准教授を経て、現職。専門は水産資源学。主な著作は、漁業という日本の問題(NTT出版)、日本の魚は大丈夫か(NHK出版)など。

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