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戦後の漁業の歴史 その4 EEZ時代に適した漁獲規制

勝川俊雄東京海洋大学 准教授、 海の幸を未来に残す会 理事

1970年代後から200海里の排他的経済水域が設定されたことを契機に、沿岸国は自国の漁場から持続的に利益がでる漁業のあり方を模索します。そのカギとなるのが漁獲規制です。

漁船の数の規制では不十分

漁獲制限には、漁船の数、漁期、漁具などに制限を設けたり、漁獲量の上限(漁獲枠)を設けたりと、様々な方法があります。漁船の数や漁具の規制は、昔から行われていましたが、十分な効果が無いケースが多々あります。魚群探知機や網などの漁具のテクノロジーは日進月歩で、船の漁獲能力がどんどん上がっていくので、船の数や漁期を制限しても、いずれは獲り過ぎになってしまうのです。

現在では、漁船の数や漁具の規制だけでなく、漁獲量も制限するのが世界では常識になっています。ノルウェーのサバやオランダのアジなど、我々が口にする輸入天然魚のほとんどは漁獲枠によって管理されているのです。

漁獲枠制度の進化

初期の漁獲枠制度は、漁獲量の上限を設定するだけで、誰が漁獲枠を使うかは早い者勝ちでした。「よーいドン!」で漁期が始まり、漁獲量が漁獲枠に達した時点で、漁期が終了になります。スタートダッシュで多く獲った漁業者が、より多くの漁獲枠を使うことができたのです。このような早い者勝ちの漁獲枠管理は、限られた漁獲枠を巡る早獲り競争を激化させることから、「オリンピック方式」、「ダービー方式」などと揶揄されています。

「早い者勝ち方式」の規制をするとどうなるでしょうか。漁業者はより多くの漁獲枠を占有するために投資をします。エンジンを強化したり、網を大型化したり、沢山の魚を持って帰れるように船を大きくします。漁船の能力が上がると、すぐに漁獲枠を獲りきってしまうので、漁期が短くなります。短期間に水揚げが集中するために、それだけ魚の扱いが雑になり、価値が低下します。自由競争を放置しておくと、経費がかかって、魚の価値が下がり、漁業は利益が出なくなるのです。

漁業者間の無益な競争を抑制するには、予め個々の漁業者に漁獲枠を配分する「個別漁獲枠方式」が有効です。ある魚を今年は30トン獲って良いとします。この30トンを早い者勝ちにするのではなく、個々の漁業者に予め割り振ってしまうのです。例えば、3人の漁業者がその資源を利用しているなら、一人に10トンずつ漁獲枠を配分しておけば、早獲り競争はなくなります。

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個別漁獲枠方式だと、自分の枠が確保されているので、漁業者はライバルの動向を気にせずに、獲りたいときに魚を獲りに行くことが出来ます。漁獲できる量が決められているので、漁業者は重量当たりの単価が高くするように努力します。魚の価値が高くなる旬をえらんで、値崩れしないように獲り過ぎないように注意して、高く売れるように丁寧に扱います。個別漁獲枠方式は、早獲り競争を抑制し、魚の価値を高めるインセンティブを与えるので、限りある海の生産力を有効利用するのに適した方法と言えます。

カナダの事例

カナダは、1980年代には「早い者勝ち方式」で漁獲規制を行っていました。その結果、漁期が急激に短くなりました。下の図に、オヒョウ(カレイ)と銀だらの漁期を示しました。早い者勝ち方式の時代は漁期がどんどん減少し、10年間で1/10に減少しました。どちらの資源も漁獲量も漁船の数も、大きく変わっていません。漁船の能力が急激に上がって、一年分の魚を数日で獲りきっていたのです。

個別漁獲枠方式になると、どちらの漁業も漁期が延びて、長期的に鮮魚が安定供給されるようになります。カナダは、個別漁獲枠方式が雇用に与える効果などを詳細なレポートにまとめているので、次回はそちらをご紹介します。

カナダの漁期
カナダの漁期

(銀ダラは、漁期の開始を1月から8月にずらした関係で、1999年は漁期が19ヶ月あったので365日を越えています。)

東京海洋大学 准教授、 海の幸を未来に残す会 理事

昭和47年、東京都出身。東京大学農学部水産学科卒業後、東京大学海洋研究所の修士課程に進学し、水産資源管理の研究を始める。東京大学海洋研究所に助手・助教、三重大学准教授を経て、現職。専門は水産資源学。主な著作は、漁業という日本の問題(NTT出版)、日本の魚は大丈夫か(NHK出版)など。

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