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衆院法制局が見解 ひきこもりの引き出しビジネス「犯罪に該当する可能性が高い」

加藤順子ジャーナリスト、フォトグラファー、気象予報士
引き出し業者に関する国の見解も出揃ってきた

ひきこもりの自立支援をうたう一部の共同生活型の民間業者によって、強引な「引き出し行為」と、支配的な生活が強要されるといったトラブルについて、国会でも、問題視する動きが出てきている。

立憲民主党の「ひきこもり対策ワーキングチーム」(座長:初鹿明博衆院議員/事務局長:堀越啓仁衆院議員)が21日、厚生労働省と消費者庁の担当部局からの政策ヒアリングを行った。このなかには、「ひきこもり自立支援ビジネス」に関する話題も含まれ、関係省庁に加えて出席した衆議院法制局が見解を述べた。また、ひきこもりの家族会のスタッフらや、実際に引き出し行為の被害にあった男性も同席し、意見した。

■消費者庁が初めて消費生活センター等への相談内容を公表

厚労省のひきこもり支援施策全般の説明に続き、消費者庁が公表した情報は、全国消費生活相談情報ネットワークシステムに登録されていた相談だ。

最近の事例を中心に8件の相談内容を取り上げ、

◎民間の自立支援サービスを利用しようと考える周囲の方からの相談

◎本人が同意せず、自宅に戻ったことによる途中解約についての相談

◎軟禁状態だったとか、やり方が暴力的だったとかの本人の申し出により、施設側の接遇に課題があるという相談

の「3類型に分かれる」と分析した。

全国消費生活相談情報ネットワークシステムに登録されている相談のうち、消費者庁が共有した最近の内容は以下の通り。

●親戚の女性が引きこもりの子供のために民間業者の自立サポート契約を考えている。高額なので事前に事業者の情報を知りたい

●引きこもりの義弟を自立支援施設に預けようとしたが本人が同意しなかった。入寮寄付金30万円を請求されたが払うべきか

●他府県に住む30代後半の息子が引きこもり状態。部屋から連れ出し自立指導支援を行う業者と契約したが止めたい

●息子が寮制の自立支援サービスを利用していたが先月3日に帰ってきてしまった。先月全日分の料金を請求されたが払いたくない

●ひきこもりの息子の社会復帰を支援する会社に高額を支払ったが効果が無く、中途解約するので未消化分の返金を求めたい

●息子にひきこもりから自立させるための3か月の合宿に参加させたところ、40日で戻ってきてしまったが返金してもらえないか

●自立支援施設と契約した母によって4か月間入居させられ軟禁状態だった。弁護士に相談し何とか解放された。情報提供したい

●ニートの息子を自立支援させるために400万円支払った。息子を連れに来た人達のやり方が暴力的なのでクーリング・オフしたい

同庁では、18年2月より、「ひきこもり支援を目的として掲げる民間事業の利用をめぐる消費者トラブルにご注意ください!」とする注意喚起文書を同省のウェブサイトに掲示している。消費者生活課の担当者は、「更新情報があったら、引き続き更新していきたい」とも話した。

立憲民主党ひきこもり対策WTの会合(2019年11月21日、衆議院第2議員会館)
立憲民主党ひきこもり対策WTの会合(2019年11月21日、衆議院第2議員会館)

■ 法制局「事実であれば、これはやはり犯罪」

続いて、衆議院法制局も、同ワーキングチームからの要請をうけ、現行法での対応や法規制に関する情報を次のように整理し、法的な見解を示した。

<問題の所在>

(1)ひきこもりの当事者が無理やり連れ出され、施設に監禁される

(2)施設において暴力等の人権侵害行為を受ける

(3)支援の内容が不適切、あるいは何も支援が行われない

(4)不当に高額な料金を取った上に、契約内容通りの支援を行わず、契約の解除を求めても返金しない

これらを踏まえ、同法制局の担当者は、

「(問題行為について)施設側が否定して争っている事情はあるかもしれないが、本当に事実として行われているのであれば、これはやはり犯罪。逮捕監禁罪ですとか暴行、傷害に該当する可能性が高いので、現行の刑法を厳格に適用していただくことが考えられる」

と話した。

また、

<問題となっている行為への対処>

◎現行法の整理:

・無理やり連れ出す、施設に監禁(1)については、逮捕監禁罪

・暴力等の人権侵害(2)については、暴行罪、傷害罪等

に該当する可能性が高いため、犯罪として立件することが考えられる。

・不適切な支援(3)については、民法の債務不履行

・何も支援が行われない(3)については、場合によっては詐欺

・重要な事実を告げないで契約した場合(4)は、消費者契約法で「(契約の)取り消し」「契約解除」

◎ビジネス主体の適正化を図る規制立法の可能性:

・「ひきこもり支援ビジネス」を規制する法律を制定する

・新たに「業法」を制定する

・社会福祉法上の社会福祉事業(第1種)として位置づける

・実態をよく把握した上で、関係団体との調整を経て制度設計を行うことが必要になる

◎悪質な支援ビジネスに頼らなくてもすむための支援立法の可能性:

・「ひきこもり支援法」を制定し、支援施策を充実させる

・具体的には、優良事業者の認定など

法規制についての見解は、「悪い業者を締め出すために規制法をつくってみたものの、まじめにやっている事業者の方がしばられて、ビジネスができなくなってしまえば本末転倒になる。業者の意見を聞くことが必要」(衆院法制局)

これに対し、KHJ全国ひきこもり家族会連合会の池上正樹理事は、「まじめにやっている業者がいるんだという話が出たが、まずは当事者たちがどう傷付けられてきたかという、実態をヒアリングすることから優先的に始めてほしい」

と述べて、釘を差した。

「引き出し屋は、相対的な貧困に目をつけた貧困ビジネス」と話すKHJの深谷さん
「引き出し屋は、相対的な貧困に目をつけた貧困ビジネス」と話すKHJの深谷さん

さらに、同会のソーシャルワーカーの深谷守貞さんは、ひきこもりを、「自ら人間関係を遮断せざるを得ないほど追い込まれた状態」と定義づけたうえで、こう述べた。

「経済的な貧困に代表される『絶対的な貧困』に対し、ひきこもりしている方は、人間関係の貧困にみられる『相対的な貧困』にある。その相対的な貧困に目をつけた貧困ビジネスが、引き出し屋と言われているようなビジネスの存在だ。そういう施設に頼らざるを得ないのは、安心して相談できる受け皿がなかったから。関係性の回復の支援が著しく希薄なのが、今の日本の状況だ」

■ 引き出し業者と精神科病院の密接な関係を被害者男性が報告

最後に、都内の引き出し業者の被害にあった30代の男性が、寮に監禁後、精神科病院に強制的に50日間入院させられ、退院後も無理やり支援施設に戻されたと被害体験を語った。

「引き出し屋といわれている業者が、自立支援の施設だけではなくて、精神科の病院と結託している。自立支援を拒否したりすると、病院に無理やり連れていくというやり方をしている。施設と病院の密接な関係があることを述べさせていただく。

(法制局がまとめた)問題の所在の項目には、当事者の立場が触れられていないことが懸念される。『私は、こういう支援を受けるいわれはないし、すぐにここから出してほしい、契約を解除してくれ』、と、何度も職員にお願いしたが、『権利は一切ない』と、私の要望を拒絶され、契約解除することすら認めてもらえなかった。

本人が、支援を拒否する権利はあるのではないか。嫌がっているのに無理やり連れて行く、監禁する、そして無理やり就労させる。これらを拒否する権利を否定しているのが、引き出し業者」

この男性の訴えを聞いた座長の初鹿衆議院議員が、

「真剣に実態把握を(する必要がある)。特に精神科病院と結託しているなんてことが、本当にあるのか。厚労省としてどんなことができるのか」

と、水を向けると、厚労省社会・援護局の担当者は、

「いただいた情報は持ち帰って担当部局に報告する」と応じ、「各地のひきこもり地域支援センターを通じて確認したところ、全国で11件の被害相談が寄せられている」

と報告。衆院法制局の担当者は、

「今のお話を聞いて、たいへん驚いている。本当にそんな事がありえるのか。もし本当なら、大変問題がある」

と、男性の体験談に衝撃を受けた様子だった。

KHJ家族会の池上理事は、

「報復が怖くて泣き寝入りしている話もある。暴力を伴うものも、恐怖で心を支配し、嘘でだまして連れて行くものもある。(やり方は)多岐にわたっていて、責任の所在がないところで、やりたい放題になっている。水面下では、相当数の被害がある。11件どころではない」

と話した。

■共産党の国会質問で、消費者問題としての各省からの見解も出揃う

26日の衆議院消費者問題特別委員会では、日本共産党の宮本徹委員が、実際に被害にあった事例の契約書を取り上げ、質問をした(衆議院ネット動画 宮本議員の当該質問は2:34:50頃から)。

宮本委員と各省庁の主なやり取りは、次の通り。

宮本委員 「親が、成人である子の同意もなく、衣食住をはじめとする生活の基本的な事項について(施設側が)適当であると判断される時期に至るまでは、民間施設に勝手に委ねちゃうと。こういう契約は、公序良俗に反して、許されない。無効だと思う。法務省の見解を伺いたい」

法務省竹内大臣官房審議官 「個々の契約が民法第90条の定める公序良俗に反して無効とされるかどうかは個別具体的な事情を踏まえて裁判所が判断することになる。そのため一概に答えることは困難だが、あくまで一般論として申し上げれば、まず契約の効力は契約当事者間にのみ及ぶものであり、その契約の成立に関与していないものに対しその意に反してその効力を生じさせることはできない。また憲法上、居住移転の自由が保証されているので、正当な理由なく、その意に反して拘束されることはないこととされていることからすれば、これらの自由を不当に侵害するような内容の契約は、公序良俗に反し無効となるものと考えられる」

宮本委員 「(契約書によると)当事者の研修生が、耐えきれなくなってすぐに施設から逃げ出したら、この事業所の側が契約を解除することができ、事業者側契約金の返還の義務は負わないという。私は、消費者の利益を一方的に害する条項の無効を定めた消費者契約法第10条に照らして無効だと考えるが、消費者庁の見解を伺いたい」

内閣府衛藤晟一担当大臣 「個別具体的な事案は、司法をもって判断されるべきものである。一概に申し上げることはできないが、一般論として、消費者契約法第10条は消費者の権利を制限しその利益を一方的に害する契約書を無効とするものだ。契約時に消費者が支払った契約金の返還請求権を制限し、その利益を一方的に害する内容の条項に、本条が適用されることはありうると考えられる。同時に一億総活躍の中で、ひきこもり問題について今検討していることを考えると、こういう『引き出し』みたいなことは、どうなっているのか、よく実情を調べて、対応しなければいけないと思っている」

宮本委員 「厚労省の策定している『ひきこもり対応ガイドライン』に明確にもとるのではないか」

厚労省橋本副大臣 「確かに委員の話した事例について、首を傾げたくなるというのが個人的な感想だが、当省として把握したものでもないので、個別の事案の良し悪しについて、決めつけるのは差し控えたい。ただ、ガイドラインでは、その支援者の基本的な態度として当事者の緊張した居心地の悪さや心細さを、最初の壁として認識した上で、初回面談に臨む必要があること。またその際には当事者の方に対し労いの言葉をかけるべきであること。当事者が訪問を拒否している場合には、訪問以外の支援方法や、家族への訪問を検討することなどを盛り込んでいる。こうした姿勢に立って、ひきこもり支援をされるべきと考えている」

宮本委員は最後に、

「悪質な引き出し屋への注意喚起を強めるためにネットで、(業者の利用を検討する人が関連キーワードを)検索した際に、消費者庁の文書が上位に表示されるよう、注意喚起を強化していただきたい」

と締めくくった。

引き出し業者に関する、国会や国の動きについても、引き続き、取り上げていきたい。

(12/2:国会での質疑・答弁等の訂正をいたしました)

ジャーナリスト、フォトグラファー、気象予報士

近年は、引き出し屋問題を取材。その他、学校安全、災害・防災、科学コミュニケーション、ソーシャルデザインが主なテーマ。災害が起きても現場に足を運べず、スタジオから伝えるばかりだった気象キャスター時代を省みて、取材者に。主な共著は、『あのとき、大川小学校で何が起きたのか』(青志社)、『石巻市立大川小学校「事故検証委員会」を検証する』(ポプラ社)、『下流中年』(SB新書)等。

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