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「亡くなるはずのない命だった」石巻・日和幼稚園の遺族が自民党総務会で陳情

加藤順子ジャーナリスト、フォトグラファー、気象予報士
自民党総務会の出席前に、発言内容を整理する佐藤美香さん(右から2人目)

東日本大震災で、幼稚園バスの中で津波と火災に遭い5人の園児が亡くなった宮城県石巻市の私立日和幼稚園(学校法人長谷川学院)の遺族のうち3家族が17日、国会内で行われた自民党総務会に出席し、学校・幼稚園での防災対策を徹底していくことを求めました。また、下村博文文科相と山谷えり子防災担当相に会い、それぞれ要望書を提出しました。

非公開で行われた党総務会に出席したのは、佐藤愛梨ちゃん(当時6才)を亡くした母親の美香さん、西城春音ちゃん(当時6才)を亡くした両親の康之さんと江津子さん、佐々木明日香ちゃん(当時6才)を亡くした母親のめぐみさんの4人と弁護士です。

自民党の要職にある国会議員らの前で、遺族を代表してマイクの前に立った佐藤美香さんは、「自分たちの子どもは絶対に亡くなるはずのない命だったと思う。子どものことを中心に考えて対策をして欲しい」と語り、学校・幼稚園の現場の防災対策のあり方を見直すよう求めたということです。

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その後、大臣に手渡した要望書では、防災マニュアルの整備や実質的な訓練が繰り返し行われているかどうかのチェック体制の構築を始め、教育・保育機関が高い防災意識を持てるような指導をするなど、私立・公立を問わず子どもを預かる機関の安全管理について、行政が積極的に指導・監督を行うことを要望しました。

面会した下村文科相は遺族の声を聞いた後、「要望書をよく読んで対処したい」と話しました。

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山谷防災担当相は、4年間の足取りを振り返って涙ぐむ遺族の話に耳を傾け、「報道では知っていた話だが、実際にご遺族から話が聞けてよかった」「悲しみはどんなに時間が経っても癒えることはないだろうが、担当大臣としてできることをしっかりやりたい」と話しました。

遺族に同行した草場裕之弁護士(仙台弁護士会)は、「大臣や議員のやる気が伝わってきて、前進だと思う。今後は議員や専門家の知恵を集めて、さらに具体的な改善要望を練り上げていきたい」と話しています。

その場で決まった総務会出席と要望書提出

日和幼稚園の裁判は昨年12月に高裁で和解となりました。和解条項には、遺族側が勝訴となった一審判決を踏まえて、賠償の他に幼稚園側の法的責任を認め、幼稚園が遺族に心からの謝罪をすることや、園児らの被災が教訓として後世の防災対策として生かされるべきといった内容を含む画期的な内容が示されています。

この和解条項を持ってどのように日和幼稚園の失われた命を教訓にできるか−−。

今回の大臣への総務会出席や要望書提出は、遺族がその具体的な手立てを考え続けるなかで、伝手を頼りに国会議員に相談に行ったその場で急遽決まったことでした。

「子どもたちの命を真ん中にする社会であってほしい」

「自分たちと同じような辛い思いをする人が二度と出て欲しくない」

大臣や議員との懇談の中で遺族たちが絞り出すように語った思いに、政治は応えることができるのか。今後も見守る必要があります。

ジャーナリスト、フォトグラファー、気象予報士

近年は、引き出し屋問題を取材。その他、学校安全、災害・防災、科学コミュニケーション、ソーシャルデザインが主なテーマ。災害が起きても現場に足を運べず、スタジオから伝えるばかりだった気象キャスター時代を省みて、取材者に。主な共著は、『あのとき、大川小学校で何が起きたのか』(青志社)、『石巻市立大川小学校「事故検証委員会」を検証する』(ポプラ社)、『下流中年』(SB新書)等。

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