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「今でもあの日のことを覚えている」 原口元気が心に秘める“歴史の再現”

神谷正明ライター/編集者
(写真:ロイター/アフロ)

5年前の原口元気はエネルギーに満ちあふれていた。欧州挑戦で大きな壁にぶつかったことでプレースタイルを一新し、無尽蔵のスタミナと走力、どんな試合でも最後まで戦い抜ける体を作り上げた。

世界の列強と渡り合うためのフィジカルを磨き上げ、チームの誰よりも汗をかいて気持ちを燃やして走り続ける。Jリーグでプレーしていた頃には想像もできなかったハードワーカーへと変貌を遂げた。その力が日本代表に初めて大きく還元されたのが前回のワールドカップ最終予選だった。

魂を焦がすような気迫あふれる姿勢でピッチを所狭しと駆け回り、攻守に顔を出し続けるアグレッシブなプレーを90分間続ける。チームのダイナモとして動き続け、最終予選4試合連続ゴールという華々しい結果まで残して予選突破の立役者となった。

その原口の原動力となっていたのが、ワールドカップへの強い思い。サッカー選手なら誰でも一度は憧れるであろう大舞台、それを経験したい、そのピッチを踏みたいという夢を燃料にして走りきった。「ワールドカップってどういうものだろう、そこにいきたい、プレーしたいという思いで突き動かされていたのが4、5年前」と本人も振り返る。

だが、オマーン戦のピッチに立っていた原口はその当時の姿とは違った。プレーはどこか淡泊で、見ていても気持ちが十二分に伝わってくるこれまでの原口ではなかった。本人も「ワールドカップでプレーしたいという大きな気持ちをどれだけピッチで表現できるかだと思う。前回の予選で僕はそこをすごく表現できた」と振り返り、「正直、オマーン戦ではそれをうまく表現できなかった」と自覚している。

もっとも、5年前と同じ気持ちで戦うというのは簡単なことではない。ワールドカップという子供の頃からの夢を実現させるために未知の冒険に挑んでいくのと、一度その経験をした上で再び目指すというのでは心のありようが違って当然だろう。「今はワールドカップを経験し、いろんな経験をして、それはいいことだけど、やはりそこに対する飢えは4、5年前の方が強かったと思う。それは自然なことだけど」。当時と今では、踏んできた場数も、乗り越えてきた修羅場も、置かれた状況も大きく違う。それをなかったことにして戦えというのは無理がある。

だが、心の着火剤はなにも1つとは限らない。以前にはなくて、今だからこそ持てているものもある。

「ベルギーに負けて、もう一回そこにいってリベンジしたい気持ちはすごく強い。だから、それをどれだけ思い返したり、自分のなかでどれだけ熱を蘇らせられるかだと思う。そこは自分の気持ちの部分のポテンシャルだと思っている。それがないなら試合に出ない方がいい」

以前はシンプルに目の前にあるものに心を燃やせばよかった。現在はその先にあるものをどれだけ迫真なものとしてイメージして今に還元できるか、その新たな戦いに挑んでいる。

奇しくも、日本代表は5年前も最終予選初戦ホームのUAE戦で痛恨の黒星スタートとなり、2戦目のアウェーを必勝態勢で臨むという大きな重圧を背負うことになった。そして、2戦目のタイ戦で一気に日本代表のメインストリームに乗ったのが原口だった。敗戦翌日から鬼気迫る迫力で追い込み、爆発の力をため込んでいた。

「今でもあの日のことを覚えているし、そこからタイ戦に向かっていく過程も覚えている。もう一度そういうことができると自分自身思っている」

2列目は競争の激戦区であり、存在感を示せないことが続けば居場所は他の誰かに奪われる。「チームも、僕自身も負けて尻に火が付いている状態」と危機感を口にする原口は不退転の決意で2戦目に挑む。

ライター/編集者

大学卒業後、フリーライターとして活動しながらIT会社でスポーツメディアに関わり、2006年にワールドカップに行くため完全フリーランスに。浦和レッズ、日本代表を中心にサッカーを取材。2016年に知人と会社設立。現在は大手スポーツページの編集業務も担い、野球、テニスなどさまざまなスポーツへの関与が増えている。

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