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「骨太の方針」は遠隔教育の突破口を開くか

亀田徹LITALICO研究所 主席研究員
(ペイレスイメージズ/アフロ)

安倍政権のいわゆる「骨太の方針」(経済財政運営と改革の基本方針)は、毎年6月に閣議決定されています。

本年3月に開催された経済財政諮問会議では、骨太方針2017に盛り込むべき重要課題として、「IT(略)教育の強化」が挙げられており、具体的にどのような内容が盛り込まれるかが注目されます。

ITを活用した教育のひとつに、遠隔教育があります。遠隔教育とは、インターネット等を使って学校から離れた空間で授業を受けるという教育です。

遠隔教育は高校では認められている一方、小中学校では認められていないのが現状です。

海外では遠隔教育を認めている国もありますが、文科省は、対面指導により社会性や人間性をはぐくむことが小中学校の場合は重要であるという理由で、インターネットを活用して授業を受けることを認めていません。

たしかに社会性や人間性をはぐくむことは重要であり、対面指導が原則でしょう。

しかし、小中学校の場合でも、たとえば不登校の子どもには、インターネットを活用して授業を受けることを認めるべきと考えます。

不登校の子どもの場合、高校入試と大きなかかわりがあるからです。

いま、不登校の子どもが教育支援センター、フリースクール、さらには自宅といった学校以外の場で学習したときは、校長の判断により学校の出席扱いとすることが認められています。

けれども、出席扱いが認められたとしても、通知表の成績は「1」であったり「-」であったりという例が少なくありません。学校以外の場で学習を行ったとしても、その学習の成果が学校の成績に反映されるわけではないからです。

学校に通っていない子どもの場合、内申書の成績がつかず、高校入試を受けようとしても受験できる高校が限られてしまい、進路選択が制約されてしまうという問題が生じています。

不登校の子どもが学校以外の場で学習を行っているときは、学習の成果を適切に評価することが必要ではないでしょうか。

学校以外で行った学習について、その評価を適切に行うことの意義は大きいと文科省も指導はしています。

にもかかわらず、実際には、フリースクール等での学習を評価して成績に反映している学校はあまり聞いたことがないと言われます。

なぜ出席扱いは認められるにもかかわらず、学校の成績に反映されないのでしょうか。

出席扱いというのは、出席扱いの日数を記録するだけで、学校教育を受けたと認められるものではありません。学校以外で学習が行われたとしても、その学習内容が学校教育として妥当かどうかが保証されていないというのが、学校が成績評価を行わない理由と考えられます。

学校が主体となってインターネットを通じて教育を提供できるように制度を改正すれば、一定の質が保証された教育を学校以外の場でも受けることできるようになるはずです。

このため、まずは、不登校の子どもに対するインターネットを活用した遠隔教育のモデル事業を行い、効果と課題の検証から始めてはどうでしょうか。

たとえば、不登校の子どもが通う教育支援センターにおいて、インターネットを活用するモデル事業を実施することが考えられるでしょう。

教育支援センターは、学校と同じく教育委員会が管理していますし、教員免許を持った職員もいます。しかも、複数の子どもが教育支援センター通ってきているので、集団生活も行われています。

教育支援センターで受けた授業が学校教育として認められれば、学習の成果が内申書などの成績に反映されることになります。その結果、子どもたちの学習意欲が高まるという効果も現れるかもしれません。

政府の規制改革推進会議では、過疎地での教育や新たな分野(先端的な科学技術、語学など)への対応といった観点から、高校での遠隔教育の拡大と中学校での遠隔教育の導入を検討していました。しかし、同会議が5月にまとめた答申では、中学校での遠隔教育については触れられていません。

規制改革推進会議での遠隔教育に関する検討の経緯を見ると、不登校の視点からの検討が不十分だったように思われます。

過疎地での教育や新たな分野への対応だけでなく、不登校の子どもの進路の実現という観点からの検討が必要だったのではないでしょうか。不登校の場合は、対面で指導しようとしても、そもそも子どもが学校にいないわけですから、遠隔教育を実施する必要性が高いと言えます。

6月にも策定されるであろう「骨太の方針」に中学校での遠隔教育の導入を盛り込み、遠隔教育の突破口を開くことを政府に期待したいと思います。

LITALICO研究所 主席研究員

子どもや保護者にとって満足度の高い支援の仕組みづくりに関し、教育と福祉の分野での研究・政策提言を行う。1991年から文部省。文化庁、福岡県教育委員会でも勤務。文科省生徒指導室長を経て、2006年に文科省を辞職し株式会社PHP研究所へ。政策シンクタンクPHP総研 教育マネジメント研究センター長として学校経営や教育政策に関する研究に従事。2014年に文科省に戻り、フリースクール等を担当する日本初の視学官として、不登校の子どもへの支援策を推進。2017年に再度文科省を辞職し、株式会社LITALICOに入社。(※記事中の意見は、個人の意見です)

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