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<北朝鮮内部> 「祝賀ムードの平壌」はメディア利用の宣伝 実は住民動員して非常警戒態勢に突入 

石丸次郎アジアプレス大阪事務所代表
中国との国境を警備する兵士たち(参考写真)

北朝鮮最大の祝日である4月15日の太陽節(故金日成生誕日)に合わせて、日本はじめ多くの外国報道機関が平壌に入ってリポートを送り始めた。「飾り付けられた平壌市内は穏やかな祝賀ムード」と、各メディアは伝えている。

このように、大行事に合わせて外国メディアを大挙入国させるのは、北朝鮮政権の常套的な宣伝戦術である。早速13日には、金正恩氏の肝煎りで建設を進めて来た超高層アパート街「黎明通り」に連れて行かれていた。15日には、予定される軍事パレード(閲兵式と北朝鮮では言う)の様子を撮影させると思われる

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金正恩政権の目的は主に二つ。まず、国際社会による経済制裁や、韓米の合同軍事訓練などの圧迫がありながらも、金正恩氏のもとで人民は一心団結していて動揺はなく、経済建設が順調であると訴えることだ。二つ目は、軍事パレードで新型ミサイルなど何らかの新武器を登場させて、核とミサイル開発がさらに進んでいることアピールすることだ。外国メディアを利用して世界に宣伝しようという、金正恩政権なりのメディア戦略、イメージ戦略である。

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さて、平壌に入った日本のメディアも、平壌の「緊張なく祝賀の雰囲気」を伝えているが、実情はまったく違うようである。4月初めから全国で民兵組織が総動員されて警戒態勢に入り、一般住民も招集されて連日軍事訓練を行っている。3月にはドローン撃墜命令も出されて警戒が続いているようだ。

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4月10日、北部の咸鏡北道(ハムギョン北道)に住んでいるアジアプレス内部の取材協力者が、以下のように伝えてきた。

―― 米国と南朝鮮が軍事訓練をしていて、すぐにでも戦争が起こすかもしれないと緊張しています。動員態勢を整えるよう機関や企業所ごとに指示が降りてきています。4月初めから教導隊、労農赤衛隊、赤い青年近衛隊が訓練に入りました。民間武力非常召集訓練です。

※教導隊 陸軍歩兵師団レベルの武装と編成を備えた予備軍。 労農赤衛隊 教導隊のレベルに満たない中高年層と未婚女性で構成。 赤い青年近衛隊 高級中学校5~6年生(16-17歳)で構成。

問 訓練はどのような形式でやっていますか?

――交代で陣地に張り付きます。教導隊の場合は、塹壕を掘ってそこで寝食までしています。 家に帰れない日もあるんですよ。以前の「準戦時態勢」(2013年2月の核実験後の緊張時、全国で警戒態勢に入った)の時よりずっと深刻だと思います。教導隊は大部分が工場労働者たちですが、情勢が緊張しているからと(仕事をせず)訓練だけを行っています。高射砲には実弾を装填させていて、命令があればいつでも撃てるように準備しています。 無人機(ドローン)を発見したら、射撃の権限がある人は撃ってもよいという指示まで下りました。明日は労農赤衛隊で実弾射撃訓練もします。

問 動員されている人たちは大変ですね?

――しんどいのは言うまでもないでしょう。教導隊の場合は、訓練期間の食糧は半分が本人負担なんですよ。辛いですよ。今回は情勢が緊張しているからと、病気を口実にして抜けることもできなくて、皆うんざりしています。兵器庫の鍵を持った兵器倉庫長が30分遅れて来たと、すぐに解任されました。殺伐としています。 

(当局が)戦争が起こるかもしれないと大騒ぎするので、「それなら、いっそ戦争やったらいいのに」と言う人が多いです。 市場では「(戦争やった方が)今のような暮らしよりはましではないか」と、知り合い同士で言い合っています。(戦争して) 損するのは上層部の連中ですからね。

取材協力者たちによると、市場は閉鎖されていないが、保衛部(秘密警察)などの治安機関による集中取締りもあって商売が萎縮し、警戒訓練の動員に時間を取られて困ると、民衆レベルでは不満が高まっているという。

アジアプレス大阪事務所代表

1962年大阪出身。朝鮮世界の現場取材がライフワーク。北朝鮮取材は国内に3回、朝中国境地帯には1993年以来約100回。これまで900超の北朝鮮の人々を取材。2002年より北朝鮮内部にジャーナリストを育成する活動を開始。北朝鮮内部からの通信「リムジンガン」 の編集・発行人。主な作品に「北朝鮮難民」(講談社新書)、「北朝鮮に帰ったジュナ」(NHKハイビジョンスペシャル)など。メディア論なども書いてまいります。

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