Yahoo!ニュース

【京アニ放火事件】歴史に残る大量殺人事件 専門家が語る「特殊性」と着目ポイント

石戸諭記者 / ノンフィクションライター
京都アニメーション放火事件の現場(写真:ロイター/アフロ)

 7月18日、京都市にある「京都アニメーション」放火事件は、死者が33人に達する大惨事になった。一度の33人が死亡するのは、日本の殺人事件では極めて特異なケースだ。今後、どこに着目すべきか。専門家が語る。

歴史に残る大量殺人事件

 「これだけの被害者がでる大量殺人事件は、日本においてはほとんどない。歴史に残る事件と言える」

 こう語るのは『日本の殺人』(ちくま新書)など犯罪研究で知られる河合幹雄・桐蔭横浜大教授(法社会学)だ。引き合いに出すのは、小説(そして、映画化でも有名になった)「八つ墓村」のモデル、「津山30人殺し」だ。1938年に岡山県の山村で起きた大量殺人事件である。

 「被害者の数が30人を超えるというのは、ほとんど事例がないといっていい。容疑者が特定されている事件に限れば、津山事件があてはまるが、特定の企業を狙った犯行となると、さらに類似のケースを探すのが難しい」

 日本の大量殺人はいくつかのパターンに分けることができる。

 ・津山事件のように、地域に対して強い恨みを持っている。

 ・日本赤軍(※1972年、イスラエル・テルアビブ空港で銃乱射事件などを実行)やオウム真理教(※1995年の地下鉄サリン事件などを引き起こす)のような自身の政治的、宗教的な主張をアピールするテロ事件。

 ・近年の秋葉原事件(※2008年発生の通り魔事件。7人が死亡)や池田小事件(※2001年、大阪・池田市の大阪教育大付属池田小に男が侵入し、児童8人が死亡)のように有名な場所で不特定多数を殺害する。

 「注目すべきは、ガソリンを使用したことです。例えば同じ目的にしても、刃物を使用していればここまでの犠牲者は出なかっただろうと思います。ガソリンは自分自身も怪我を負うか、命に関わるような重篤な事態になりやすい危険なものです。日本の殺人事件では使用されるのは珍しい」

憶測に基づく分析の危うさ

 極めて特殊なケースだからこそ、現段階での過度の一般化や安易な憶測に基づき、動機を推測する発言は控えたほうがいいという。

 「日本においては殺人事件そのものが減少しており、ましてや大量殺人事件というのは、極めて珍しく頻発するようなものではありません。だからこそ、一般的な教訓を導くよりも、個別具体的に事件を分析していくことが重要になってくるのです」

 この指摘は頷ける。10年ほど前、岡山県警で事件担当記者をやっていたとき、捜査一課のベテラン刑事からこんなことを言われた。

 「マスコミはすぐに動機は何かと聞いてくる。本当の動機なんて事実を集めて、集めて、その先にやっと見えてくるかこないか……。本人が言っているだけのこともあるし、簡単にはわからないんだ」

 人は何事も理由をつけて安心したがる。それらしい動機がわかれば、「あぁだから事件が起きたのか」と納得して終わる。

今後の着目ポイント

 安易な動機探しではなく、どこに着目したらいいのか。河合教授は語る。

 「犯行に至るまでの経緯にこそ着目すべきです。日本の殺人を調べていると、社会的背景として孤立しているという人が一定数いる。今回の事件ではどうだったかがまずポイントになります。殺人事件や強盗など凶悪事件の中には、家を出て、知り合いに会ったから一度は犯行を断念したり、知り合いに声をかけられたらから思いとどまったりするというケースが多いんです」

 「足取りをたどってみて、地域で孤立していなかったか。どこかで踏みとどまるポイントがなかったのかを具体的に考えることが求められます」

記者 / ノンフィクションライター

1984年、東京都生まれ。2006年に立命館大学法学部を卒業し、同年に毎日新聞社に入社。岡山支局、大阪社会部。デジタル報道センターを経て、2016年1月にBuzzFeed Japanに移籍。2018年4月に独立し、フリーランスの記者、ノンフィクションライターとして活躍している。2011年3月11日からの歴史を生きる「個人」を記した著書『リスクと生きる、死者と生きる』(亜紀書房)を出版する。デビュー作でありながら読売新聞「2017年の3冊」に選出されるなど各メディアで高い評価を得る。

石戸諭の最近の記事