【本なんて、もはやインテリア】複合書店は、出版界の救世主になれるか。
本屋さんと言うと、どんなイメージを持っていますか? 知的? 静か? 最近全然行ってない、とか、近所の小さい本屋さんがつぶれてしまった、とか、そういうイメージを持つ人もいるかもしれませんね。
僕自身、小さいころから本が好きで、いまでは本を書く仕事をしているので、本屋さんには格別の想いがあります。
しかもネット書店で買うのはなんとなく苦手で、徹底したリアル書店派。欲しい本が近くの書店にない場合には「縁がなかったんだ」とあきらめてしまう場合もしばしばです。ですから、結果的に、本屋さんの売り上げに貢献しているとは言いがたい(笑)
慣れ親しんだほのかな愛情は持っている、けれど、衣料や家電といった他のお店と比べて、いろいろな面で融通効かないなあ(他の店から取り寄せてくれない、とか)、古い体質だからなあ、とぼやかざるを得ない、そんな気持ちも持っています。
さて、昨年から、本とそれ以外の商品を並べる「複合書店」の動きが加速しています。昨年5月にオープンした二子玉川ライズにはブック&カフェでライフスタイルを提案する斬新な家電売り場「蔦屋家電」が登場し、大きな話題を呼びました。また、9月にリニューアルオープンした「無印良品有楽町」は、目玉商品として衣服や雑貨ではなく本を押し出しています。
更に、11月には新商業施設渋谷モディに「HMV&BOOKS TOKYO」が誕生。HMVが書店として渋谷に復活! と注目を集めました。私がよく足を運ぶ恵比寿の有隣堂にも、少し前からスターバックスが併設され、書店の本をカフェ内に持ち込めるようになっています。
ご存知のようにここ数年「出版不況」と言われ、紙の本が売れなくなっています。出版科学研究所に寄れば、書籍の売り上げは前年比4%減少。ピーク時の1996年と比較すると約31%も減少しています。調査会社アルメディアによれば、書店数はここ15年で約8千店減っています。先日話題となったこちらの記事でも、書店での売り上げよりも、電子書籍の伸びが強調されています。
「カルチャー色」をつけるのに便利
家電やインテリア、雑貨店などに本があると、自然と「本に囲まれた暮らし」を想像することができます。
蔦屋家電のコンセプトは、「ライフスタイルを買う家電店」。また、蔦屋家電の店内は「同じ物でもこの場所で買うことで自分の生活がワンランク上がる」と思える空間を目指してデザインされています(プレジデントオンライン2015年12月6日配信記事より)。
つまり、ここで買う「ライフスタイル」は「自分の生活」よりワンランク上のもの。一方、本は人の叡智が詰まった文化の象徴です。本に囲まれた暮らし、は文化的でワンランク上に感じさせられるのです。無印良品や蔦屋家電は、この本が持つイメージによってブランディングを図っているわけです。
「新たな発見」という体験
「あらゆるカルチャーとエンターテイメントに繋がる”本”を主軸に、お客様に新たな体験を提供したい」と、「HMV&BOOKS TOKYO」はアピール(ダ・ヴィンチ1月号より)。
複合書店の特徴は、「新たな知の発見」をコンセプトにしていること。そのため、本棚の作り方も独特です。たとえば、「HMV&BOOKS TOKYO」では「恋愛」の棚に恋愛小説、恋愛ハウツー本、少女マンガ、ラブソングのCD、ラブストーリーの名作映画のDVDが同じ棚に並んでいます。普通の書店ならマンガと小説の棚は別々ですよね。棚を眺めているだけで他の店では得られない「発見」ができるわけです。
無印良品有楽町でも、食品・食器コーナーに料理本やレシピ本を置くなど「この商品を使ってこれを作ろう」と客のイメージを膨らませる工夫をしています。本が商品を買う際のヒントになる……本はカタログ的な役割も担っているんですね。
今やネットで何でも手に入る時代です。だからこそ、単なる「モノ」ではなく、「この店に寄ったからこの発見があった」という「体験」を消費してもらわなくてはいけません。だから、小売業はこれから更にリアルでの体験を重視していくことになるでしょう。
「立ち寄り客」の増加
また、本があることは客の滞在時間を延ばす効果もあります。本があることで店内の情報量が増えるので、人々は思わず立ち止まってしまうわけです。無印良品有楽町では改装後実際に客の滞在時間が延び、売り上げが2割上がったのだとか(日本経済新聞 2015年12月15日より)。
更に、本×○○という新しい組み合わせに惹かれ、外回りの営業マンが隙間時間に寄ったり、暇つぶしになるからと待ち合わせ場所に使ったりと、「ふらりと立ち寄る」人も多いようです。ふらりと立ち寄りつい何かを買ってしまう客が増加すれば、売り上げにも自然と結びついてきます。
肝心の本は売れているか?
このように、本×○○の○○側には様々なメリットがある複合書店。しかし、本側…つまり出版社や作家にはメリットはあるのでしょうか。
もちろん、今までの書店では注目されることが少なかった書籍が平置きされるなど従来と違った売り方ができるという側面はあるでしょう。けれども、実際に複合書店に訪れ本を買う人は、多くありません。無印良品有楽町でも、本の売り上げは目標に届いていないと言います。
店内でコーヒー片手に座り読みできてしまうから買わなくても満足。何となく棚だけ眺めてヒントが得られたから満足。ある種、本のディスプレイ化、インテリアアイテムとしての本、という現象が進んでいるのかもしれません。この現象が進展していけば、やがて本は店などに行って読みに行くもの、「本というイメージ」が消費されるだけになってしまうかもしれません。
コラボできるうちが華
逆に言うと、本=知的というイメージも、どこまで通用するか分かりません。厳しいことを言えば、家電店やカフェから「知的なイメージがつくので組みましょう」と言われているうちが華。
まだいろいろな展開ができるうちに、「お客さんがお金を出したいものを作って、売る(→ここが重要)」という、他のどのビジネスでもやっている、当たり前の商売の基本精神こそが、いまの出版界(書き手・版元・書店)には必要と言えるでしょう。
華やかで文化の香りがすると油断していたら、意外にも背筋をピンと伸ばさせられるニュースでした。
(作家・心理カウンセラー 五百田 達成)