監督の頭脳戦。「ロティーナ監督VS反町監督」の指揮官対決から見えたJ2の新たな楽しみ方。

東京ヴェルディのミゲル・アンヘル・ロティーナ監督(写真:松尾/アフロスポーツ)

 監督の頭脳戦。

 J1と比較すると選手の質、タレント性、話題性ではどうしても劣る部分があるものの、今のJ2は実力派の監督が増えてきたこともあって監督が仕掛ける頭脳戦が面白い試合も増えてきた。

 それを目の当たりにしたのが18年3月11日に行われた2018明治安田生命J2リーグ 第3節「東京ヴェルディ対松本山雅FC」のカードだった。試合結果は2-1でホームの東京Vが逆転勝利。この試合をすでに観たようなファン、サポーター目線での主役は東京ヴェルディであり、特に決勝ゴールを奪ったFWアラン・ピニェイロになるのだろうが、本稿での主役は東京Vのミゲル・アンヘル・ロティーナ監督松本山雅FCの反町康治監督の二人だ。

 昨季からJ2で指揮をとるスペイン人のロティーナ監督は欧州最高峰のラ・リーガ(スペインリーグ)で400試合以上の監督経験を持つ名将で、松本で7年目を迎える反町監督もスペインやドイツへ出向き欧州トップレベルの戦術を自らの指導メソッドに落とし込んでいる日本屈指の指揮官だ。

 大半の読者がこの両チームの事前情報を持たないと想像するため、両チームの詳細な情報提示は割愛させて頂く。もし本稿で両チームの戦いに興味を持って頂けるのであれば、是非ともJ1、J2、J3を全試合独占中継しているDAZN(ダゾーン)に加入して彼ら、あるいは熱いJ2の戦いぶりを観てほしい。

J2第3節 東京V対松本山雅FCの基本配置図
J2第3節 東京V対松本山雅FCの基本配置図

■5バックか3バックか、鍵は松本のウイングバック

 両チームのシステムのかみ合わせから来るキックオフ直後の22人の配置は上の図のようなものだった。両チームの1、2節をチェックしてこの試合取材に臨んだ筆者が立ち上がりに注目したのは松本のウイングバック(以下、WB)のポジショニング。

 なぜなら、彼らのポジショニングで「松本のベースのシステムが5バックになるか、3バックになるか」が決まるというのがその前の2試合ではっきりと出ていたからだ。

 1-4-3-3の東京Vはサイドにサイドバック(以下、SB)とウイングの二人を配置するシステムのため、基本一人でサイドを担当する松本のWBがどちらの選手をつかまえ(マーク)に行くのかで序盤の展開が決まるのは明白だった。

※以下より使用する画像は全て筆者が契約アカウントを保有するスカウティングシステム「Wyscout」で提供されている映像のスクリーンショットとそれを加工したもの。

開始26秒での松本の守備における配置
開始26秒での松本の守備における配置

 試合は東京Vのキックオフで始まり、お互いがロングボールを蹴り合って開始26秒に東京VのGKがおさめ、CBの足元へボールを付けた。こちらはその際の松本の守備における配置だ。見ての通り、東京VのSBへのプレッシャーは2シャドーが外に出ていくこと、WGは基本東京Vのウイングをマークすることがルールとなっていそうだ。

 もちろん、このシーンだけで「松本は基本5バック、東京Vの最終ラインは容易にボールを保持、前進できる」とは断言できない。ただ、松本が開始2分に電光石火のサイド攻撃から先制点を奪ったことで、3分以降は下のように東京VのDFラインはほぼノープレッシャーでボールを持ち、パスを回せるようになっていた。

開始4分(3分03秒)のシーン
開始4分(3分03秒)のシーン

 さて、ここからは試合後の監督会見での両指揮官の言葉を軸に据えて論を展開していく。

■相手のシステムはコントロールできない。だから予想できるシステムを全て想定して準備する。

 1、2節と前線を「2トップ+2シャドー」の編成で戦った松本だが、この試合では初めて「1トップ+2シャドー」をチョイス。しかし、2節新潟戦の終盤に「相手の4バックに対して2トップではなく、1トップ+2シャドーの3トップ気味でハイプレスを仕掛ける」システムを使っていたことでロティーナ監督からすれば想定の範囲内だったようだ。

【ロティーナ監督】

「相手のシステムというのはコントロールできるものではありません。ただ、ミッドウィークに(相手が)2トップ、もしくは3トップで来ることを選手に伝えていました。彼ら(松本)は3-5-2でも、3-4-3でもプレーすることができるチームです。

どちらで来てもそれに応じたプランを立てていて、それに準備がしっかりと出来ていました。毎試合システムを変えてくるチームもあれば、試合中に変えてくるチームもあります。それは予想していたものでした」

 実際、下の2シーンを見比べてもらえば、ロティーナ監督が相手のシステムとプレスのバリエーションによって発生する複数のシチュエーションにおける解決策(判断基準)をきちんと用意していたことが確認できる。

 どちらも東京Vの右SB(田村)からパスを受けた右ウイング(藤本)がFWドウグラス・ヴィエイラに斜めのパスを入れるシーンだ。

5分(4分04秒)のシーン
5分(4分04秒)のシーン
16分(15分57秒)のシーン
16分(15分57秒)のシーン

 5分のシーンは松本のWB(下川)のアプローチが遅れているので藤本は足元でパスを止めて相手を引きつけてからパスを出している。

 一方、下の16分のシーンではWBのマークがタイトなためワンタッチでFWにパスを出している。実はそれぞれのシーンでの藤本のパスの球種(高低)とドウグラス・ヴィエイラの受け方は相手の出方に応じて生まれるスペースが変わるので瞬時に判断を変えている。そのくらい東京Vはロティーナ監督と右腕のイバン・パランコ コーチから緻密にプレーを仕込まれている。

■「後手のふみ方」を変えた反町監督の采配

 松本の反町監督は試合後の会見冒頭に雑感を求められ、「(勝ち点ゼロは)そんなに悲観する必要はないんですけども、やはりプレーの精度が雑な部分が少しヴェルディさんに比べると、あるのは否めないですね」と述べた。

 質疑応答の時間となり、ある優秀なフリーランスの記者がハーフタイムの反町監督の指示で「サイドの対応で後手をふまないように」とコメントしている点について「この2試合を見ていても前半のサイドのポジションが低過ぎてずっと5バックとなり、相手に押し込まれる時間が長かったが?」と鋭い質問を入れた。

 それに対して反町監督は、「今日みたいな相手に合わせるのであれば4バックでやった方が確かにいいかもしれない」と前置きした上で、こう続けた。

【反町監督】

「後ろが重くなってうちのシャドーの選手が行ったり来たりして、後向きの守備をしなければいけないという状況でした。それを改善しなければいけないと。前の方のインテンシティが高くて、逆にセンターバックのインテンシティが低いという感じになってしまうと、攻撃の時に出ていく力がなくなってしまうので。今日でいうと(2シャドーは)前田直輝とセルジーニョですけれども。それをもう少し消化するためには、どっちで後手をふむか、後手のふみ方を変えたのは後半でした

ただ、向こうも一つ飛ばしとか、長いボールでサイドチェンジをしてくるわけではなくて、グラウンダーのボールで通して来るわけなので十分スライドで間に合うんです。それは前半を見ても感じたので。だから、われわれのようなやり方の泣き所ではあることはあるんですけど、その分だけ後ろのインテンシティをもう少し上げて、対応すればよかった部分もあるかなと。後半ある程度修正できて、どっちがチャンスメイク、主導権を握ったかというとわれわれでした」

 同じような質問をするつもりだったので手を挙げるかどうか迷ったが、反町監督がハーフタイムで指示を出すまでもなく前半、試合の入りから後手をふむべくしてふみにいった松本のゲームプランがどうしても理解できなかったので筆者は次のような質問をした。

【筆者】

ここ2節2トップでやっていたにも関わらず、今日は1トップ+2シャドーでスタートした理由を教えて下さい。個人的には、前節新潟戦で60分に2枚替えをして1トップ+2シャドーにしてから、4バックに対して3枚を当てた方が前向きに行けるというところでのチョイスだったのかなと想像しています。

次にそのシステムを使いながらウイングバックがどうしても、例えば(左の)下川は(対峙する)藤本を結構離して足元で受けてからアプローチするような守備が多かったのですが、そこは横についてインターセプトに行かせる、前に立たせて(藤本を)後ろに置いてもCBの浦田がいるのでそこでスライド対応させるとか、そういう守備設定をスタートからやるという意図、イメージは監督にはなかったのでしょうか?

 実際、2-1とリードされて入った後半の松本は2トップで点を取りに行ったのみならず、WBを高い位置に押し上げて4トップ気味に前からプレスをかけて東京V陣内でサッカーを展開した。下は84分のシーンだ。両WBがウイング化して前線が4トップ編成になっているのがわかる。

84分(83分49秒)のシーン
84分(83分49秒)のシーン

 筆者の質問に対する反町監督の説明は次のような内容だった。

【反町監督】

「おっしゃる通りですね。特にわれわれの今の左サイドは、(東京Vの)藤本はタッチラインを足で踏みながらやっている選手なので。それで広がりを持たせてじゃあ何を目指すかというと、そこで広がりのところから斜めのパスを入れてドウグラス・ヴィエイラが入ってくる。もしくは渡辺と梶川がそれを追い越していくと。これが今の彼らのやろうとしている攻撃の手段です。

それでセンターバックが引っ張られたら、真ん中にさっき言ったような(ロングボールを)ドーンと(入れてくる)。だから、それを考えた場合に、3トップ、1トップ2シャドーというよりも、ダブルボランチにしてそのサイドのところの結末を上手くやろうとしたと

つまり、渡辺と梶川のところを上手くボランチでブッキングさせるような形にして、真ん中を分厚くさせなきゃいけない、というのが狙いでしたね。サイドバックが高い位置を取ってくれればいいんですけど、特に(右の)田村とかあまり高い位置を取らなかった。今日は思い切って出てきましたけれども。

その時にどうすればいいかというとおっしゃる通りで、浦田が一番インテンシティが低くて、5メートルの範囲内でディフェンスをしているくらいになっていたので。そうするとスライドという意味では、前の方がすごく負担になっていたと思うので。

それは前半から後半にかけて変更した部分はあります。だから、もう少しいわゆる駆け引きであるとか、後ろの状況を見ながらとかは、これはもうゲームをやりながらじゃないと。下川もまだまだですから。それはやりながらどんどん会得していくしかないのかなとは思いますよね」

■一枚上手だったロティーナ監督の策とは?

 さすが反町監督、かなり東京Vの選手、攻撃の特徴を分析、把握した上でこの一戦に向けたゲームプランを作っていたことがわかる回答だった。ただし、ロティーナ監督はさらに一枚上手だった。反町監督が「サイドバックが高い位置を取ってくれればいいんですけど、特に(右の)田村とかあまり高い位置を取らなかった」と指摘した通り、東京Vは松本のWBが田村、奈良輪のサイドバックをつかみに来るのを回避するため意図的に「高すぎず、低すぎずの中途半端なポジション」を取っていた。

 そこについて反町監督に追加で「ロティーナ監督のそうした駆け引きは感じたか?」と質問を入れたところ、「もちろん、そうですね」と答えた。

29分(28分57秒)のシーン
29分(28分57秒)のシーン

【反町監督】

「センターバックに時間がある時にはわざと持ち運ばさせて、それで田村(右SB)を高い位置に上げていって、藤本(右ウイング)を中に入れて長い二等辺三角形を作ると。そこのところの頂点のところには渡辺もいるし、という感じですよね。

そこに速いアプローチが入ればワンタッチで入れる。サイドでの攻略という意味では向こうが少し上だったかなと。われわれもダブルボランチだからそんなにそこで後手をふむことはなかったですけれども、持ち運ばれてハーフラインを簡単に越えられてしまうと押し込まれてしまうということですよね」

 松本は交代カードを3枚切りながら最終的にはWBがウイング化し、4トップでパワープレーを仕掛けながらゴールを目指した。それに対して東京Vのロティーナ監督は身体の強さ、高さを持つFWカルロス・マルティネスを投入してそこにボールを預け、全体のラインを上げる時間、押し込まれ続ける局面を回避する策を打った。

 普通に考えれば、「前線にスペースがあるのだからスピードのあるFWを入れてカウンター」という思考から交代カードを切りそうだが、ロティーナ監督は全体のラインを上げてボールを自分のゴールから遠ざけること、チーム本来のボールを保持、前進させた状態からのサッカーを取り戻す狙いで意外な策を出している。実際、マルティネス投入はその効果を出していた。

試合終盤の配置図
試合終盤の配置図

 

 このように監督が互いの意図や策を自分本位で解釈しながら戦術的駆け引きを「試合の真っ只中」に行っていたのがこのJ2第3節の東京ヴェルディと松本山雅FCの試合だった。そういう意味でも、筆者はこの試合をとても興味深く取材することができたし、何より知的好奇心をくすぐられ楽しませてもらった。

 この日も味の素スタジアムに大勢のサポーターが駆けつけた松本山雅FCのように、地域で大きな盛り上がりを見せるJ2クラブも出てきているが、普通に同じことをやっていてはJ1のような集客、人気は獲得できない。

 確かな手腕を持つ監督が多いJ2だからこそ、J1とはまた違った楽しみ方を「わがクラブ」を持つJ2サポーター以外のサッカーファンにも届けてほしいし、筆者は時にこういう視点での取材と発信をしてJ2やJリーグとしての魅力を伝えていきたい。

 そう思わせてくれる素晴らしい試合であり、監督の頭脳戦であった。