【坪井分析】戦術的駆け引きが一枚上手だったオランダ戦

23日(現地時間)に行なわれた女子ワールドカップ(W杯)の決勝トーナメント・ラウンド16でなでしこジャパンはオランダを2-1で下した。前線からの効果的なプレッシングや攻撃の連動性、コンビネーションなどなでしこジャパンの持ち味がよく出た試合だったが、このオランダ戦について『サッカーの新しい教科書』(カンゼン)の著者でスペインのバルセロナでサッカー指導者として活躍する坪井健太郎氏に分析してもらった。

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――まずはオランダ戦の感想について聞かせて下さい。

スペインにいるということで、時差やテレビ放映の関係で今大会のなでしこジャパンの試合を全て見ているわけではないのですが、このオランダ戦を見る限り私が想像していた以上にチームとしてオーガナイズされている印象を受けました。特に、相手チームがボールを持っている時の守備のオーガナイズが素晴らしかったですね。

具体的に守備のプレーモデルを見ていくと、オランダは1-4-3-3というよりも1-4-2-3-1のシステム、対する日本は1-4-4-2で相手ボランチ8番へのパスコースを消しながら大野忍と大儀見優季の2トップがタイミングを合わせてセンターバックにプレッシャーをかけていき、ボランチ6番に対しても宇津木瑠美か阪口夢穂のどちらかがプレッシングに行っていました。そうなるとオランダのトップ下10番が浮いてきますが、そのマークを捨ててでも、ボランチは前に出て行く守備を行なっていました。

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要するに、日本としては前で数的同数を作り、相手のビルドアップのところでパスコースがない状態を作らせ、可能性の低いロングボールを蹴らせる、あるいはボランチに入ったところを奪ってショートカウンターを狙うコンセプトで、前半は特に機能していました。日本のやり方に対して、オランダがどう対応するのかを注意深く見ていたのですが、例えばボランチの6番がDFラインに下りて日本の2トップに対して3対2を作るなどの対応策はありませんでした。

日本のビルドアップのプレーモデルですが、まず狙っていたのは前線の大儀見、大野でした。2トップが相手DFラインとボランチのライン間にすっと下りてきたタイミングで縦パスをスパンと入れ、そこから前向きで周りの選手がサポートに入っていく。そういった形が攻撃のパターン、狙いとしてはっきり出ていたと思います。

ただ、前半に関してはポストプレーでのミス、サポートが入ってきていない状態が何度かあって機能する場面が少ないというか、ビルドアップからの中央突破でチャンスを作る回数はほとんどありませんでした。後半は間延びして押し込まれそうな時間もあったのですが、攻撃の形としては縦パスに連動して複数の選手が絡み、ワンタッチでの落としからのコンビネーションプレーというのが見えたと思います。

試合全体として見れば、戦術的な駆け引きで日本は一枚上手だったと思います。試合が始まりお互いのプランニングがかみ合った時に日本の方が機能していて、それに対してオランダの方が解決方法を見いだせなかったというのが全体の流れだったと思います。

――確かに1次リーグの3試合では設定としてのラインが低く、前線が孤立する攻撃が目立っていたのですが、オランダの特徴や弱点をしっかりとスカウティングして思い切ってラインを上げてきた印象です。

攻撃で面白かったのが前進の仕方が右と左で違った点です。左サイドは宮間あやと鮫島彩のコンビネーション、例えば鮫島が宮間に縦パスを入れてサポートする、クロスオーバーする、もしくは1、2回あったのが鮫島が中にインナーラップして行く前進です。それによってサイドに張る宮間に角度を付けたパスを入れることができていました。左サイドの連係はすでに出来上がっている印象を受けました。

右に関しては、サイドバックの有吉佐織が後方でボールを回している時に最初から高い位置を取っていました。つまり、岩清水梓、熊谷紗希、鮫島の3人が最終ラインに残る形で、意図的に有吉を上げた形でビルドアップしていました。例えば、岩清水がドリブルで持ち上がった時にオランダの左ウイング11番が食いつくと、そこでフリーになっている有吉に出す、あるいは一度中に入れた上で有吉をオーバーラップさせる。右と左ではそうした違いがはっきりと出ていました。

――対応策を持たなかったオランダだけに終盤バタついたとはいえ、さほど危ないシーンや押し込まれる展開はありませんでしたが、敢えて課題を挙げるとすればどういった点ですか?

気になったのは後半、守備のプレッシングを前からはめに行くのか、中盤でブロックを作って待つのかというところでサイドハーフの宮間と川澄奈穂美が中途半端なポジショニングになっていた点です。例えば、71分のシーンでは大儀見と岩渕真奈の2トップで相手センターバックにプレッシングに行っています。

そこで川澄とマッチアップする相手サイドバックにボールが入りるのですが、局面としてはサイドでの2対2になっていました。しかも相手ボランチに阪口がマークに行っていたので、局面的には3対3になっているにもかかわらず、川澄のポジションは低く、サイドバックに余裕を与えてしまっていました。宮間のサイドでもそうしたシーンが何度かありました。

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FWのプレッシングと誘導によってサイドバックにパスが入るのが予測できる、そしてそれをチームが狙っているのであれば、もう少し高い位置を取ってプレスに出て行く必要があると思います。失点シーンがそうですが、弱点とまではいかなくともどうしても前線にロングボールを放り込まれて高さ勝負で来られた時には不安があります。

理想しては日本のゴールから遠いところでボールを持たせる、蹴らせる状態を作りたい。そう考えるとプレッシングとラインの設定は高い方がいいと思いますし、少なくともオランダ戦で選択されたプレーモデルは前からプレッシングではめにいくものでしたから、個人のポジショニングミスでプレッシングを機能低下させるのは避けたいところです。

このゲームの展開であれば、90分を通して高い位置から行って良かったと思いますし、逆にズルズルとDFラインを下げてしまうとパワープレーをされた時に怖いですね。おそらく、習慣的に引いてしまうのでしょうが、プレッシングをはがされた時にDFラインをすっと下げるのは基本でそのアクション自体はいいのですが、オランダ戦の後半を見ても少し下げ過ぎです。背後へのスルーパスのコースとスペースがないにもかかわらずズルズル下がってしまっているので、逆に中盤に残った選手へのパスに対応できていません。ボール保持者の状況と、相手のFWの選手の動きによってDFラインを微調整したいところです。

――個人的にはGKのポジショニングの低さも関係していると見ています。

確かにこの試合のGK海堀あゆみは飛び出しのタイミングが合っていないシーンが何度かありました。大きな問題にはならなかったですが、もう少しスピードがある相手になると簡単に入れ替わってしまう危険性があります。判断の面でも、センターバックと相手FWが走りながら競り合っているにもかかわらず、飛び出したシーンがありました。逆に飛び出すタイミングで行けていなかったり、失点シーンのミス以上にポジショニングと判断が気になりました。

――佐々木則夫監督の采配についてはどう見ましたか?

大野に替えて岩渕を入れた交代カードのタイミングは特に良かったですね。ちょうど大野が守備で走れなくなってきた時でしたから、事前にしっかりとシミュレーションをして、プランニングできていたという証です。得点を取る時間帯も良かったので、総体的には余裕のある采配に映りました。

――攻撃面でも今大会で一番良く、18本ものシュートチャンスを作りましたが、この先の戦いを見据えた時には中央からの崩しのパターンの精度を上げていきたいところです。

そうですね。大儀見にくさびを当てた後の連係プレーは課題でしょう。周辺の選手が予測を持って動きを入れるのがまず一つで、あとは川澄が結構サイドに張り、宮間が中寄りでプレーすることも多かったので、中央突破に関しては宮間が鍵を握ると思います。2トップと宮間、それにボランチの1枚が加わった4人の連係ですね。

ただ、サイドを攻略した時のクロスの入れ方、中の入り方は、シンガポール戦での男子日本代表よりも得点の匂いがしました。前半45分に大儀見のクロスに大野がヘディングで合わせた決定機も相手DFラインとボランチのライン間を上手く使ったクロスシュートでした。

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いずれにせよ、なでしこジャパンのゲームを見ていると、各選手がお互いの特徴や役割をきちんと把握してプレーしているのがよくわかります。宮間と鮫島、岩清水と有吉の2人組の関係などがいい例で、すごくいいチームに仕上がってきているのではないでしょうか。中でも宮間と鮫島の左のコンビネーションは日本の特長です。

――最後に、今後のなでしこジャパンの展望について聞かせて下さい。

オランダ戦では、前からプレッシングに行くプレーモデルを選択しましたが、次のオーストラリア戦ではどちらの設定をするのかに注目したいと思います。監督として、チームとして、どこまで相手にボールを持たせることを許すのかというジャッジの部分ですね。あとは、左サイドの2人組のコンビネーション、それからトップに当てて落として中央からどう崩すのか、その3点がポイントになると思います。