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東京B代表の國學院久我山、神懸かったヒーローに指揮官「拝まないといけない」

小澤一郎サッカージャーナリスト
國學院久我山を2年ぶり5度目の全国大会に導いた李済華監督

16日に味の素フィールド西が丘で行われた第92回全国高校サッカー選手権大会東京都Bブロック決勝で駒澤大高を4-0で下した國學院久我山が2年ぶり5度目となる全国大会出場を決めた。試合後、國學院久我山の李済華(リ・ジェファ)監督は決勝でハットトリックの活躍を見せたFW松村遼(3年)について「神がかっていましたね。拝まないといけない」とした上で、文武両道を高いレベルで実践する模範的チームにおける「そのままの見本」と述べた。また、12月30日に開幕する全国大会に向けては、「それほど強くないチームが優勝しているからうちにもチャンスはある」と密かな自信をのぞかせた。以下、試合後の李監督の囲み取材での要旨。

――率直な感想は?

点数が獲れて勝ったということが嬉しいです。もちろん、点数を獲らないと勝てないんですけど、(たくさん)点数を獲れて勝ったということは非常に嬉しいですね。

――(ハットトリックの活躍を見せた)FW松村遼は神懸かったようなプレーでしたね?

神懸かっていましたね。(彼を)拝まないといけないと思うと、しんどいんですけど(笑)。(今大会)4試合で8点? 神がかったという部分と実力通りという部分と。まあ、彼の持っている形で点数を獲っているということで言えば、「彼の実力通り」ということなんでしょうね。運とかまぐれとか、「今日はラッキーで当たったね」というよりも実力通りの点数を獲ってきた、という感じなんでしょうね。

――緊張感ある大会だからこそ大化けしたと言えそうですか?

うちってサッカーで入ってくる子もいるんだけれど、あの子は俗に言う「久我中」。一貫の久我山中から入ってきた子ですから、ご存知だと思うんですけど今も受験のためにしっかり(勉強を)やっている子です。だから、2つのことが言えて、まず1つは彼の持っていたサッカー選手としての潜在能力が高かった。中学までに開花されず、高1、高2くらいまでだと周囲の選手に(いいところを)持っていかれる部分があったけれど、ここで3年間トレーニングすることによって彼がサッカープレーヤーとしての持っている資質を開花させ始めているんじゃないですかね。まあ、大学がね。彼がどういう進路を選ぶのかわからないんですけど、私としては難しいところで。もう少しサッカーをやって欲しいなと思うのと、どこに行くのかね、という感じで。サッカープレーヤーとしてもまだまだ活躍できるだろうし、でも彼は理系なので。学者になりたいのか、科学者になりたいのかよくわからないところで(苦笑)。彼の持っているものが開花したんだと思います。高校選手権ですので、ある意味で高校選手権のあるべき姿というか。うちは常に「文武両道」と言って頂いているんですけど、勉強をやってあのくらいの子でもサッカーであのくらいのレベルになれるんだと。「勉強かサッカーか」って迷っている子たちにとって、それこそそのままの見本ですから。「悩む必要ねえよ」って。「両方できるよ」って。彼を見れば、「両方やれよ」って(笑)。親も、「両方やれよ」って言えるし。子どもも逃げ道ないからやるっきゃない。だから、すごくいいことだと思います。

――背後にロングボールを蹴りこんできた駒澤大高の戦い方については?

たまたまというか、4-0で勝てたので。私にとっては非常に嬉しいんですけど、ハードなゲームになるということは最初からわかっていたことなので。正直に言うと「そんなものかな」という感じでやっていましたよ。こちらとしてはそんなに慌てなかった。2-1になったら、2-2になってしまうことがいけない。2-1から3-1になることもある。2-2になっちゃえば、もう1回リセットで3-2にすればいい。ゲームって自分たちの思い通りにいくわけではないので、それはそれでという形で。あとは、少し(相手の)アフター(ファール)があったかなと。今まで何回かの戦いの中で、駒澤との戦いがこういう形になるということはわかっていることなので、ベンチがワーワー、ベンチなんて私みたいなタイプだからワーワー言うけれど、「お前らは絶対に私たちのペースに入っちゃダメだよ、お前らは冷静になるんだよ」って。「オレはワーワーやるけど、お前らは関係ないんだからね、淡々とやりなさい」と(笑)。それは一週間前から言っていたことなので。「私はワーワーやるよ、お前らは冷静にね。オレの雰囲気に入ってくる必要ないよ」ということは言っていたので、ある意味でそのまんまという感じ。うちは中盤が良くなかったんですよ。中盤が良くなかったから(前半に)2点獲れたのかもわからないし。中盤が良ければうちというのはもう少しゆっくりな部分があるので。そうなると相手に守る時間を与えてしまうので。後半の終わりくらいは良かったんですけどね。良くない分だけ点数獲れるチャンスが多かったのかもわからない。サッカーって生き物だからその時になってみないとわからない。わからないから、わからない形で動いて、うちが点数を獲れたということになります。そういうことだなと。

――中盤が良くなかったのは相手が良かったからですか?

それよりもうちの子たちにイージーなミスがあったということでしょうね。相手が激しいとミスは絶対に起きるものなんだけれど、少しイージーなミスがあったねって。もう少しコントロールをしっかりしないと。でも、「そんなもんだろう」という気持ちもあって、大舞台の中でやったらいい時もあるし、少し自分たちが思い通りにいかないところもあると。それも含めてゲームとは動いているんだから、そこで動揺しないこと。いつも、いつも自分の思い通りのプレーはできないんだから、その中でどうやって勝つのかというのを考えればいいことだと思います。

――大本命通り優勝することは難しいことだと思いますが?

本当に嬉しいですよ。私は高校サッカーにずっと携わっている人間ですので、ちょっと言葉はあれですけど、「選手権バンザイ」側の人間ですので。選手権って高校生に本当に夢を与えてくれる場なので。高校サッカーのメインイベントは選手権ですから。選手権に出場できるということは何よりも嬉しいことです。

――夏以降、CBとGKの間にあった不安定さが解消されつつあるイメージがありますが?

正直、今日は前半GKがバタバタした。後半は彼のファインプレーで救われた。もう少し安定感が出て来て欲しいと。センターバックはいいと。非常にいい。ディフェンスは今日良かったと思いますよ。特にセンターバックの二人はいいと思います。少しサッカーに落ち着きは出てきたかなと思いますよね。今、この局面で自分が何を求められているのか、ということをやっと理解し始めたかなという感じはしています。

――今大会では持ち味のショートパスからの崩しのみならず、1、2点目のようなミドルシュートやセットプレーからの得点も出てきました

うちらしいという意味では、4点目が一番うちらしいんでしょ? 前後の崩しが一番うちらしいんでしょうね。ただ、点数には色々な点数があるので、まずはシュートを打たないと入らないということ。1点目なんか象徴的で、あそこで振り抜いてね、(GKの)頭をぶち抜いた感じのシュートを打ってくれたので良かったと思います。コーナーも今までコーナーとフリーキックはほとんどショートコーナー、ショートフリーキックだったのが、それだけじゃダメだということで。それは相手も慣れてくるから。早めのセンターリングやコーナーもたまには相手のGKの前で競るようなこともやらないとダメなんだと。そういう長短併せ持ったサッカーで、生き物のように相手の目を慣れさせない。いつも同じサッカーをやっちゃダメだよと。そういう意味では、うちらしいところにプラスアルファが出てきて、良くなったのかなと思っています。

――全国大会に向けての意気込みは?

(プリンスリーグ関東2部が)あと3節残っているので早く(来季のプリンスリーグへの残留を)決めたいなというのが一つありますよね。選手権に関しては、私は選手権の本チャンというのは好きなんですよね。東京の場合は私たちとやると相手は色々と考えてくるのですが、選手権では相手もそこまで考えてこないので、どんどん攻撃的なサッカーでやりあえるので好きなんです。どうでしょうね、まず一つは一回リフレッシュして。さっき言ったように受験組がいるので、一回時間を与えようという形になっています。勉強の形を作らそうというのが一つ。あとは、選手のポジションを何個か入れ替えたりしながら。今更システムは変えないですし、やることはあまり変わらないですけど。レベル、パススピード、コンディションを上げいくことですかね。

――全国でも優勝を狙えるチームだという手応えは?

あまり言えないんだけれど、何て言うのかな、それほど強くないチームが優勝しているから(苦笑)。だから、うちにもチャンスはあるかなと。でも、トーナメントですから優勝するには運が必要。PKを一回くらい制するとか、攻められているのにカウンター一発で勝ったとか、レフリーがうちにちょびっと無意識の味方があったとか。どっかに運が1つか2つ入ったらどんどん上に行けるチャンスはあるのかなと思っています。実力も運のうちなのか、運も実力のうちなのか。「優勝」と言うとおこがましいので、少しでもチャンスはあるのかなと思っています。チームとしては全国ベスト8の時よりもいいんじゃないですか。

<了>

サッカージャーナリスト

1977年、京都府生まれ。早稲田大学教育学部卒。スペイン在住5年を経て2010年に帰国。日本とスペインで育成年代の指導経験を持ち、指導者目線の戦術・育成論を得意とする。媒体での執筆以外では、スペインのラ・リーガ(LaLiga)など欧州サッカーの試合解説や関連番組への出演が多い。これまでに著書7冊、構成書5冊、訳書5冊を世に送り出している。(株)アレナトーレ所属。YouTubeのチャンネルは「Periodista」。

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