Yahoo!ニュース

「シュートが下手」なU-17日本代表、吉武ラボで“決定力”育成へ

小澤一郎サッカージャーナリスト
U-17日本代表が狙うシュートコース

UAEで開催中のU-17ワールドカップ(W杯)で2連勝と好スタートを切り、すでにグループリーグ突破を決めているU-17日本代表は24日に同じく2連勝中のチュニジアと対戦する。今大会の目標である『ベスト8超え』をにらみ、試合前から決勝トーナメントに向けて皮算用をしたくなるところだが、吉武博文監督は「1位になろうが、2位になろうが、自分たちにとっては(どちらでも)良くなると思います」とあくまで目の前の試合に集中し、サッカーの質をさらに上げる構えを見せている。

■吉武監督「(課題は)ゴール前のところ」

チュニジア戦に向けての課題はベネズエラ戦で23本ものシュートとペナルティエリア内での度重なる決定機があったにも関わらず、3得点に終わった決定力。第2戦後の監督会見で「決勝トーナメントに行くと、ああいうものを確実に決めていかないと(上に)残っていけない」とフィニッシュの精度を課題として挙げた吉武監督は、試合翌日の練習後も「(課題は)ゴール前のところ。シュートは打っていて、ゴールには行っているけれども、入っていないのは課題だと思います」と強調した。

それを受けて22日、23日の練習では後半にたっぷりとシュート練習を行った。複雑なメニュー設定ではなく数本のパスや若干のオフ・ザ・ボールの動きを入れてのシュート練習がほとんどだったが、シュートをふかす場面やGKと1対1の状況でみすみすGKに当ててしまうシーンが多く、やはり「シュートが上手くない」というよりも「シュートが下手」なチームに映った。

“決定力不足”と言えば、日本サッカー界において今後も永続的について回りそうな単語であり課題だ。特に今回の“96ジャパン”は、フィールドの選手全員が複数のポジションでプレーできるテクニックと戦術眼を持ち、ある意味で「10人全員がゲームメーカー」的なチームとなっているため、生粋の点取り屋が不在。そもそも勤勉で真面目な日本の国民性からして、「点さえ獲ればいいんだろ」的な俺様、王様タイプのフォワードは生まれ難いのだが、逆にそうしたストライカーがいたとしてもプレーや性格がワンマンであれば選考しないであろう吉武監督が「ゴールを決める」能力をどう捉えているのかについて知りたくなった。

■シュートが全部入るのはおかしい

従って、22日の練習後の囲み取材において、「決定機のところは、この期間に練習することで精度が上がるというイメージなのか?」という質問をぶつけてみた。それに対して吉武監督からは「まあ、10年後でいいと思っているので」と前置きした上で、こういう話しをされた。「やはり、(ゴールの)4箇所の角(かど)を狙ってもらいたいんですね。角を狙うということは、上の角だったとしても4分の3は外れるわけです。角を中心に円を書いた時には4分の3は外れているわけで、シュートが全部入るのはおかしいと思います。今の段階で角を狙えば4回蹴ったら1回しか入らないはずです。それが4回蹴って2回、3回、4回と入るようになるのは、今入ればもちろんいいけれど、そうやって精度を高めていかないと、『小学校の時はシュート上手かったな』で終わってしまうし、10年後も全く変わらない」

こういうスタンスの吉武監督だからこそ、言い方は乱暴ながら「どうせ入らないんだから」と失敗を容認する姿勢を全面的に出して、選手にゴールの四角を徹底的に狙わせている。さらに選手には、「真ん中に蹴って入れても、今(それが)入ってもしょうがない。いい(シュートの)外し方をしなさい」とまで伝えているという。

「(22日のシュート練習で)何人かは『その外し方はいい』、『イメージはわかった』という感じでした。(上のレベルに行けば)GKも良くなるし、守備も良くなる。自分は(シュートは)センスじゃないというふうに思いたいし、やはり経験を積む中で段々賢くなっていって欲しい。思い切って失敗するのはいいと言っていますが、でも何回も同じ失敗することは考えていないということなので。1メートル外したのを50センチ、25センチ、10センチに変えていくんだったらいいけど、1メートルのままというのはやっぱり良くない」

■決定力は育成できる?

日本のみならず世界のサッカー界において「ストライカーは生まれてくるもの」、「得点はお金で買うもの」という風潮が蔓延るが、一連の言葉から推測するに吉武監督は「決定力は育成できる」と考えている指導者だ。漠然としたイメージや「シュートセンス」という言葉で片付けてしまうのではなく、ゴール前の事象やシュートまでのプロセスを言語化、数値化した上で、5年、10年のスパンで「上手いけれどシュートは下手」な典型的日本人タイプの選手たちの上手さの中に決定力を組み込んでしまおうという壮大なプロジェクトが吉武ラボにおいてすでに稼働している。

まずは今晩(24日夜)のチュニジア戦で日本のシュートがゴール四角に飛ぶかどうか、もしシュートがゴールの角から外れたとしても、選手個人として、チームとして外れた距離が縮まっているのかどうかに注目したい。それと同時に、世界のサッカー界の常識を覆す発想で決定力育成まで手がけようとする吉武監督の揺るぎない信念と17歳以下の選手たちの5年後、10年後の決定力を長い目で見守りたい。

サッカージャーナリスト

1977年、京都府生まれ。早稲田大学教育学部卒。スペイン在住5年を経て2010年に帰国。日本とスペインで育成年代の指導経験を持ち、指導者目線の戦術・育成論を得意とする。媒体での執筆以外では、スペインのラ・リーガ(LaLiga)など欧州サッカーの試合解説や関連番組への出演が多い。これまでに著書7冊、構成書5冊、訳書5冊を世に送り出している。(株)アレナトーレ所属。YouTubeのチャンネルは「Periodista」。

小澤一郎の最近の記事