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内戦続くシリア北西部に食料支援が入った 大地震での緊急支援も支える国連WFPドバイ備蓄庫を独自取材

堀潤ジャーナリスト
国連WFPがドバイで運営する食料備蓄庫、UNHRDが取材に応じてくれた 撮影堀潤

■死者は2万1千人以上 内戦続き孤立していたシリア北西部

今月6日にトルコ・シリア国境付近で起きた大地震で、これまでに2万1千人以上が死亡した。生存可能性の目安となる72時間以上が経過した今も各都市の現場では懸命な救助活動が続いている。

中でも深刻な状況に見舞われているのは、シリア北西部の地域。12年にわたる政府軍と反政府軍による戦闘が続いてきた地域で、ここにはシリア・アサド政権の弾圧から逃れてきた人たちが大勢暮らすキャンプもある。

シリア北西部では440万人の人口の9割が人道支援に頼っており、280万人は避難し、キャンプやその他の場所で暮らすことを余儀なくされてきた。

8bitNewsリポートより 国連WFP提供映像をもとに
8bitNewsリポートより 国連WFP提供映像をもとに

今回の地震では、これらの地域の人たちが食料支援なども受けられず孤立した。

そうした中、8日、国連WFP(世界食糧計画)のチームがシリア北西部に到着。

「数日前、ここシリアとトルコで恐ろしいほどの壊滅的な地震が発生しました。数万人が死亡し、数千人が負傷し、数万人、数十万人が家を失い、人々は眠る場所に戻ることができず、路上で避難所に身を寄せながら眠っています。ワールド・フード・プログラムにとって、人々が食べなければならないことは重要なことです。地震発生から数時間のうちに、私たちは現地のパートナーと協力し、避難所で温かい食事をとることができました」

9日、国連WFPシリア・カントリー・ディレクターのケン・クロスリー氏が状況を明かした。

■国連WFPシリア北西部で12万5千人分の食料を提供

国連WFPは、地震発生から36時間以内にシリア北西部の現地パートナーに、4万人が1週間食べられるだけの調理済み食品を提供。

週末までには、国連WFPはパートナーに1週間分の12万5千人分の食料を提供する予定だ。

国連WFPは長引く紛争によって起きた食糧危機に対処するため、すでにシリア北西部だけで毎月140万人に食糧を提供している。

ケン氏は「今、私たちの最大の課題のひとつは、輸送でもなく、食料でもなく、アクセスです。最も支援の手が届きにくいのは、紛争が続いている地域です。私たちは、こうした場所にいる人々、つまり紛争が続いている場所にいる人々に手を差し伸べる必要があります」語り、多くの人々への支援を呼びかけた。

実は、国連WFPが世界中で突発的に起こる災害などに対応できるのには理由がある。

■あまり知られていない国連WFPの活動を支える「最強軍団」の存在

先日、私は取材でアラブ首長国連邦の都市、ドバイを訪ねた。

ここには、世界6ヵ所に設置された、国連WFPの組織、UNHRD(国連人道支援物資備蓄庫)が運営する食料備蓄庫がある。

普段はなかなか立ち入ることができない施設への取材が許可され、現場を訪ねた。

ドバイの備蓄庫は、ウクライナでの戦争やシリアやイエメンでの内戦、南スーダンやパキスタンでの大規模洪水といった中東、アフリカ、アジア地域での紛争や災害に対応してきた重要なハブとしての施設だ。

ドバイ郊外のUNHRD施設 撮影:堀潤
ドバイ郊外のUNHRD施設 撮影:堀潤

彼らの任務は、48時間以内に問題が発生した地域に食料を送り届けること。備蓄庫は、空港や港へのアクセスが良い場所に設置されており、緊急支援を可能としている。

広大な敷地には何棟もの倉庫が立ち並ぶ。ここでは食料だけではなく医療資源やITインフラ復旧のためのパッケージ、食料を保管するための組み立て式のプレハブ倉庫など様々な物資が保管されていた。

食料倉庫になるプレハブユニットは船や航空機で運搬 撮影:堀潤
食料倉庫になるプレハブユニットは船や航空機で運搬 撮影:堀潤

また、警備員によって厳重に管理された区域内には、700台を超えるトヨタ製のピックアップトラックや四輪駆動車が保管されていた。実は、国連WFPの機関がここドバイで車両を改良し、防弾ガラスを装着したり、爆風による衝撃を受けても車内の人々を守る装甲を施す専門の工場が運営されていた。

これらのトヨタ車のフロントガラスには輸入元の証明書が。横浜から送られてきたと記されていた 撮影堀潤
これらのトヨタ車のフロントガラスには輸入元の証明書が。横浜から送られてきたと記されていた 撮影堀潤

敷地内の工場で改良され、それぞれの任地に送り届けられる 撮影:堀潤
敷地内の工場で改良され、それぞれの任地に送り届けられる 撮影:堀潤

国連職員が活動する各任地の状況に併せて車を補強し、現地に送り込むことを続けてきた。

しかし、ここ数年、世界各地で多発する自然災害や戦争、紛争、クーデターなどにより現場の活動はかなり逼迫した状況だ。

国連WFP、UNHRDドバイオフィスのトップ、ベルカセム・ベンザザ氏は危機感をこう語った。

UNHRDドバイオフィスのトップ、ベルカセム・ベンザザ氏 撮影:堀潤
UNHRDドバイオフィスのトップ、ベルカセム・ベンザザ氏 撮影:堀潤

「私たちはより多くの支援を必要としており、財政的な支援だけでなく、インフラの面でも支援を必要としています。貨物の出入りが激しいにもかかわらず、倉庫は満杯です。回転が早いのですが、もっとスペースが必要で、もっとサポートが必要なのです」

今回、こうした現場のルポを映像にまとめた。それが上記リンクのYouTube映像だ。これまであまり見る機会のなかった貴重な現場からの発信。ぜひ多くの方々に見ていただきたい。

少しでも支援の輪が広がっていくことを願ってやまない。

ジャーナリスト

NPO法人8bitNews代表理事/株式会社GARDEN代表。2001年NHK入局。「ニュースウォッチ9」リポーター、「Bizスポ」キャスター。2012年、米カリフォルニア大学ロサンゼルス校で客員研究員。2013年、NHKを退局しNPO法人「8bitNews」代表に。2016年(株)GARDEN設立。現在、TOKYO MX「堀潤モーニングFLAG」キャスター、Amazon Music「JAM THE WORLD」、ABEMA「AbemaPrime」コメンテーター。2019年4月より早稲田大学グローバル科学知融合研究所招聘研究員。2020年3月映画「わたしは分断を許さない」公開。

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