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戦場の花束 「絶対に降伏しない」 ウクライナ人女性たちが現地で届け続けているもの

堀潤ジャーナリスト
ウクライナに留まる人たちへの支援を続ける女性たち 撮影:Marianna

ウクライナへのロシア軍の侵略が始まり2週間以上が経過。

各都市へのミサイル攻撃や地上戦で街や人々の暮らしが破壊され、国連UNHCRによると、これまでに230万人以上のウクライナ市民が国外避難を強いられている。

ポーランド・ワルシャワの鉄道やバスの駅には第三国定住を目指すウクライナからの避難者で溢れている 撮影:Alex Chan Tsz Yuk
ポーランド・ワルシャワの鉄道やバスの駅には第三国定住を目指すウクライナからの避難者で溢れている 撮影:Alex Chan Tsz Yuk

そうした中、ウクライナ国内に留まる人たちは今、何を想い暮らしを続けるのか。

首都キーウへロシア軍が迫る中、地域のボランティア活動で人々の暮らしを支える、ウクライナ人女性イリーナさんにインタビュー。「私はソ連生まれ」と語る彼女からは国を守る強い意志、そしてかつて経験した核兵器の恐怖だった。

「原爆の被害を知る日本の皆さんはきっと私たちの気持ちを想像してもらえるはず」そう語るイリーナさん。「この戦争が終結したら…」と私たち日本人に意外なメッセージも贈ってくれた。

インタビューの模様を書き起こしと動画でぜひ皆さんにお伝えしたい。

(取材堀潤/字幕翻訳Maiko Kawamoto)

■空襲は1日に3〜5回 生活は一変、仕事も失った

堀)

まずロシアによる攻撃でどのような影響を受けていらっしゃいますか?

イリーナ)

私の生活も一変しました。この戦争が始まる前、私は事業コンサルタントの仕事をしていて、企業における人材マネジメント、キャリア開発などを専門領域としていました。組織内で働く人々がキャリアを積み上げていく上で必要とされる 支援を提供していたのです。また、組織内で働く人々のウェルビーイングに関するプロジェク ト支援も多数していました。

オフィスで働く人々がストレスによって問題を抱えたり、燃え尽きたりしないようにするにはどうすればなどを提言し支援する。そういった仕事で沢山のクライアントの様々なプロジェクトのお手伝いをしていたわけですが、今はその全てが止まってしまいました。

この戦争で私も含めたあらゆる人の人生や暮らしが一変してしまいました。自分の仕事や商売、日常の通常通りの営みを続けられている人は誰一人おらずあらゆる活動が止まっていて、あらゆるものが閉まってしまっています。キーウの地から離れ、別の地へ避難してしまった人々も沢山います。そんな中、今は一日中、周囲の人々を助け、ニュースを見ながら、必要とあらばシェルターに逃げ込んだりしながら生きています。

首都キーウに留まるウクライナ人女性イリーナさん コンサルタントをしていた 8bitNews YouTubeより
首都キーウに留まるウクライナ人女性イリーナさん コンサルタントをしていた 8bitNews YouTubeより

夜の過ごし方も一変してしまいました。パジャマを着てベッドで眠ることもできない。いつでも逃げられるよう完璧に洋服を着た姿で横になり、逃げる時に持っていく必要のあるものが荷造りされたカバンをすぐそこに置いておく必要があって。

ペットを持ち運べるようなバッグやケージも用意しておかなければなりません。いつ何があるか予測がつかないので。毎晩、3〜5回も空襲があるような状況なので、夜寝ている間もとても危険なのです。空爆や爆破の音を含めて様々な音が聞こえてきます。ここ12日間、全く気持ちの休まらない非常にストレスフルな夜を過ごしてきました。夜の間も、家とシェルターの間を永遠に何度も何度も行き来し続けなくてはならずとてもストレスが溜まるし、心身ともに疲労困憊します。

周囲の様子としては、普通の日常とは全くかけ離れた景色が広がっています。非常に限られた数の日用雑貨店と、大規模スーパーマーケットチェーンのお店だけが営業していてキーウでは現在、外出禁止令が発令されていることもあり、とにかく全てが困難です。本当に私たちの生活は一変してしまいました。

■首都に残る決断 「お年寄り、赤ちゃん、そしてペット」を守る

堀)

ウクライナ国外に避難することは考えていますか?ウクライナに留まるという選択をしていらっしゃるとすると、それはどんな理由からなのでしょうか?

イリーナ)

この地を去っての避難はしたくない、というのが自然に湧いてくる感情です。自分の祖国であり自分のふるさとである街ですから。そもそも私は、仕事も暮らしも確立していたタイを離れて、自分にとって大事な人々のいるこの地にいることを選択したわけです。人々を助け、自分の街、国、愛するキーウを守るため。

9日、ウクライナ国境に向かう途中ポーランド国内の駅舎内で 避難民はまだ増える見込み 撮影Alex Chan Tsz Yuk
9日、ウクライナ国境に向かう途中ポーランド国内の駅舎内で 避難民はまだ増える見込み 撮影Alex Chan Tsz Yuk

赤ちゃんがいる家庭、高齢者、ただただ現状が怖くてここにいられないなど、様々な理由でキーウを離れ、外に避難することにした人々の気持ちもとてもよく分かります。事実、この地キーウは非常に危険で怖い状況にありますから。けれど私自身は「この地に残ること」が自分の役割/責務だと感じていているんです。

例えば、今この街の通りには、取り残されたペットが沢山います。昨日、私は猫2匹と、ここにいるオウムを自宅に連れて帰ってきたのですが、こういった動物たちが沢山、街中で取り残されていたりするのです。

それから、自分では自由に動けない高齢者が沢山いるので、食料や日用品を届けたりするサポートも必要です。

加えて、自分の街を守り、戦うための様々な準備もする必要があります。71歳である私の母もキーウに残っていて、この地を離れることを拒んでいます。自分の暮らすキーウの街を守ることが自分の責務だと考えていて。電気・水・食料がある限り、この地に残ることができる、大丈夫だ、と私たちはキーウに残る決断をしました。私たちの中での最終結論であり、揺らぐことはありません。キーウを守るために戦うのです。

そして出来るだけ沢山の人を助けたいと思っています。

堀)

今されていらっしゃる様々なボランティアでの活動について詳しく教えてください

イリーナ)

まず、今現在、色んなものを買うことが非常に難しくなっています。医薬品やベビーフードやペットフードなども。 全て見つけるのが難しくなっているのです。また、車がないと更に様々なことが大変です。一つの建物から別の建物への移動なども、ボランティアの助けなしにはできないという状況があったりするのです。

孤立するお年寄りたちに物資を届け声をかけるボランティア市民 ウクライナ首都キーウ 撮影:Marianna
孤立するお年寄りたちに物資を届け声をかけるボランティア市民 ウクライナ首都キーウ 撮影:Marianna

元々、ウクライナの都市は高齢者が多いのです。ウクライナの若者は皆、私のように海外に働きに出てしまったりするので。私もタイで働いていましたが、ウクライナの若者は米国や欧州な ど含めた全世界に散らばっています。そして今現在も、沢山のおじいちゃんやおばあちゃんがキーウに残っているのです。

こういった高齢者の方々は自分で動き回ったり、買い物を済ませることが困難です。食料を買うために、今ではとても長い列に並ばなければならなかったりするので尚更。そういった点で実にとても多くの助けが必要とされています。

私の暮らすこの建物で、実は2日前に隣人の女性が男の子を出産したんです。病院に行って生むということができなかったので、周囲の人間が沢山手を差し伸べて無事出産することができました。同じ建物に女性の医師が暮らしていて、彼女の力も借りられたのが幸いでした。

といったわけで現状、助けが必要とされている事が様々な所にいくらでもあるのです。特に、高齢者・赤ちゃん・ペットのための物資の調達や助けですね。

イリーナさんたちはロシア軍と戦う兵士たちにも食糧や医療物資などを届けている 撮影:Marianna
イリーナさんたちはロシア軍と戦う兵士たちにも食糧や医療物資などを届けている 撮影:Marianna

加えてウクライナの軍隊の支援も重要です。彼らの役に立てることであればどんなことでも、と、彼らが必要とする物資を集めた りと奔走しています。ボランティアで動き回る人々の助けが必要とされている領域が本当に沢山あり、ボランティアで様々な助けを提供している人々なしにはキーウという街が生き長らえられない状況です。

■ゼレンスキーウクライナ大統領を支持するのか?

堀)

ウクライナ政府は、ロシアによる武力侵略にどう対応すべきだと考えていらっしゃいますか?

イリーナ)

ウクライナ大統領のことも政府のことも、100%、いや、200%支 持する気持ちでいっぱいです。ウクライナとしては、気持ちを強く持ち、揺るがない姿勢で立ち向かい続けるということが大事だと思っていて、政府が果たすべき役割としてはまず...。

そもそも私たちは、例え1メートルでもロシアに占領されることを望んでいません。

揺るぎない確信を持って言えることです。ですから、ウクライナ政府が「交渉の場でロシアによる一切の侵 略・占領を許さないという強い姿勢を保っていること」を私は全面支持しています。絶対的に。

それから、ウクライナ政府の欧米諸国との交渉に当たっての姿勢も支持しています。彼ら(ウクライナ政府の人間たち)は非常に勇敢な姿勢で国を率いていて、大統領も一切キーウの土地から離れず。ウクライナの国を離れるという選択肢も、キーウを離れるという選択肢も一切拒否している。そうやって私たちと共に戦う大統領の姿勢を見て、彼に心からの尊敬の念を感じています。私たちの大統領はとても若くて、今までと全く異なる新しいタイプの政治家です。勇気があって、勇敢で、時にとても大胆な動きにもでる。

というわけで、大統領のことも全面的に支持しています。彼は、現代におけるウクライナが持つ精神性を新たに体現している存在だと思いますし、こんな風に思っているが故、私は政府を支持するためにできる事があればなんでもやりたいと思っているのです。

もちろん、政府として交渉をうまく成功させていく必要はあります。そんな中、私としては、ロシアが一方的にウクライナの在り方を決めて押し付けるような独裁的な姿勢はありえないと思うし、彼らが「この都市とこの都市とこれは我々のものだ」なんて好き勝手にさせるなんて問答無用、一切許容できることじゃない、と思っています。

■「ソ連生まれだからわかる」核兵器の脅威 

イリーナさんはソヴィエト連邦時代に生まれた 核戦争への備えをさせられた世代だという 8bitNews Youtubeより
イリーナさんはソヴィエト連邦時代に生まれた 核戦争への備えをさせられた世代だという 8bitNews Youtubeより

堀)プーチン大統領、ロシア軍による核兵器使用の「仄めかし」については何を思いますか?

イリーナ)

とても正気とは思えない、完全に常軌を逸しているでしょう。私はソ連の生まれなんです。レオニード・ブレジネフがまだ生きていた頃に生まれました。まさにソ連と米国の間の緊張感が非常に高まっていた頃で、幼稚園・小学校の頃は、核爆弾を避けるためにはどう行動する必要があるかの訓練があったり、ガスマスクの装着の仕方、どこに隠れるべきか、シェルターの使い方など、様々な事を教わりました。なので、幼少期の自分の心には、常に消えない核兵器についての不安が渦巻いていました。

そこからゴルバチョフとレーガンの時代に入り、二人が平和に向けた合意に調印をし状況は良くなって、私は子供ながらに、この二人の政治家に心から感謝の念を覚えたものです。「私の心の中にずっとあった恐れを取り去ってくれた」と。核兵器や核の危険性に対して消えることのなかった恐怖心です。そうしたらその後、チェルノブイリ原発の事故が起こって..。あの事故発生当時、私はキーフに移り住んでいたので、そこで再び、核の恐ろしさを突きつけられることとなりました。子供時代、2度目の核の恐怖体験です。

そういうわけで、核を強く意識させられる機会の多かった特殊な人生を歩んできたわけですが、また今回、プーチンが核兵器をネタに私たちを脅す現実に直面す ることになり...。プーチンは常軌を逸しています。だって核爆弾の影響は地球全体 に及ぶんですよ。この星に暮らすあらゆる人々が被害を被ることになりかねない。ロシアがここで核兵器を使えば、それが地球にとって取り返しのつかないシナリオの扉を開けてしまうかもしれない。「核の冬※」が引き起こされてしまうかもしれない、等々。 (※大規模核戦争で生じるダスト、煙で地球が冷えてしまうこと)

だからこそ、そんなことが起こらないように世界中の人々がロシアに大きなプレッシャーをかける事が非常に重要だと思います。プーチンが実際に核兵器を使えば、その被害はウクライナだけで なく全人類に及んでしまうものですから。

イリーナさんたちのボランティア組織の資金源は寄付 世界から募っている 撮影:Marianna
イリーナさんたちのボランティア組織の資金源は寄付 世界から募っている 撮影:Marianna

日本の皆さんはきっと、私が言うことがよくわかるんではないでしょうか?日本も、広島や長崎の原爆経験で同じような恐ろしさを身をもって味わった国ですから。今の私のお話、皆さんには分かっていただけるのはないかと思っています。 (核兵器が使用されるとなれば)この世界で起こり得る、最も恐ろしい事態となりかねない。私たちは、この世界・この美しい星をそのような恐ろしい惨劇から守らなければならないのです。とても強い確信を持ってそう考えています。

堀)

ウクライナの人々と日本の人々、互いに協力しあうことができるはずですよね?

イリーナ)

本当にそう思います。間違いなく。

堀)

世界中が、ゼレンスキー大統領の「降伏するのか、戦い続けるのか」の決断を見守っている状態ですが、戦い続けると思いますか?

イリーナ)

疑う余地なく、戦い続けますよ。絶対に。ウクライナ人は皆、ゼレンスキー大統領がやろうとしていることを支持していますし我々はそもそも、一筋縄でいかない非常に反骨精神あふれる国民性を持っているんです。なので、もし仮にロシアがウクライナを占領したとしても、それ は長らえるものではありません。とても短期間で終わってしまうはずです。

なぜならウクライナ人は必ず、占領下で反乱的な動きを起こしますから。占領という状況を覆すべく立ち上がり、戦うのです。自分たちに軍隊などがついていなくても。私自身も、間違いなくそういった反乱的な動きに寄与して自国の奪還に貢献しようとするでしょうね。ウクライナ人は常に強い反骨精神を持って生きてきた人間たちですから。ウクライナ人女性も、とてつもない反骨精神の塊であり、反抗的なんですよ。笑。時に過激なまでに。ですから、ロシアが思惑通りにウクライナの地を思いのままに支配できる可能性などないのです。

というわけで、もちろん私は徹底的に戦うという姿勢を支持します。 降伏など、絶対にありえない。

■日本人へのメッセージ、その返答に涙が出た

堀)

最後に、日本そして世界の人々に伝えたいことを教えてください。

イリーナ)

まずは、この戦争が終結した後のウクライナにぜひ来てくださいね、と皆さんをウクライナにお誘いしたいです。ウクライナはとても美しい国であり、この戦争から私たちの美しい国を再構築していくためには、技術者やエンジニア、国の復興を手伝いと思ってくれる若い人々など 沢山の方々の助けが必要ですから。

首都キーウへの攻撃が続く そうした中、日本人へのメッセージを届けてくれた 8bitNews YouTubeより
首都キーウへの攻撃が続く そうした中、日本人へのメッセージを届けてくれた 8bitNews YouTubeより

今の状況に関して皆さんに伝えたい事があるとすれば、私たちウクライナ人達は、自分たちの土地に根を張って我々の土地を占領しようとするロシアから母国を守るべく戦っています。だからこそ、世界からの、そして日本からの助けを必要としています。まず、寄付によってボランティアで奔走する人々の活動を支援いただけたら、とても嬉しいです。 皆さんの寄付は、幼児や乳幼児のケア、高齢者の方々の医薬品などの購入などに繋がっていきます。

そして、皆さんのメディアでの取り上げ、ソーシャルメディアでの発信などもとても有難いです。TVや様々なコミュニケーション/メディアのチャンネルでウクライ ナを支援・応援していただきたい。

そして、世界中の皆さんに伝えたい事があるとすると、ここでプーチンを止めなければ、彼は今後更に様々な国の侵略・ 占領を企てていくことになる、ということです。さらに多くの土地を自分の手中に収めようとするでしょう。ウクライナがプーチンの最初の標的であるものの、単純にそこで終わる話ではないのです。(これが成功すれば)彼の侵略・占領の企ては続いていきます。だからこそ、世界が協力し、皆の尽力を積み上げることでプーチ ンを止める必要がある。間違いない真理だと思います。

堀)

力強いメッセージをありがとうございます。

イリーナ)

アリガトウゴザイマス。 ダークユゥ(ウクライナ語で「感謝」の意 Дякую )。ワタシハニホンニイキタイ。絶対にいつか日本に行きたいんです。私の必ず行きたい旅先リス トに入っていて。いつか、できたらいいな、って。

イッショニコーヒーヲノミマセンカ?

堀)

飲みましょう!待ってます、東京で待ってます。いつかキーフに行ったら一緒にコーヒーを飲みましょう!

イリーナ)

ノミマショウ!

イリーナさんたちの活動は寄付によって支えられており、今、支援を国際社会に対し支援を求め声を上げている。銀行口座の情報などはこの記事の冒頭でリンクを貼ったYouTube動画の概要欄に記載してある。

ジャーナリスト

NPO法人8bitNews代表理事/株式会社GARDEN代表。2001年NHK入局。「ニュースウォッチ9」リポーター、「Bizスポ」キャスター。2012年、米カリフォルニア大学ロサンゼルス校で客員研究員。2013年、NHKを退局しNPO法人「8bitNews」代表に。2016年(株)GARDEN設立。現在、TOKYO MX「堀潤モーニングFLAG」キャスター、Amazon Music「JAM THE WORLD」、ABEMA「AbemaPrime」コメンテーター。2019年4月より早稲田大学グローバル科学知融合研究所招聘研究員。2020年3月映画「わたしは分断を許さない」公開。

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